第30話 歓迎会

 みなみと綾は、ミュージアムの入り口から外に出た。

 綾が何故わざわざミュージアムまで戻るのかと思って追いて行くと、

 ちょうど車止めに入って来たリバーリムジンから降りた老紳士に声をかけられた。


 リバーリムジンは地上も走るが、都市間は大きな川の上を1mほど浮上して走る無人ハイヤーだ。


「お嬢さんたち、帰りならこれに乗っていきなさい。」


「ありがとうございます。これから新しく入った彼女の歓迎会なんです。」


 慣れた感じでみなみが丁寧に答えると、


「おお、そうか。これから卒業生のみんなをよろしく頼むよ。」


 と言って綾は握手を求められた。


 思わぬ展開に、なんとか


「頑張ります。」


 と答えて握手をした綾だが、みなみに促されて車内に入ると


「どうなってるんですか?」


 と答えを求めた。


 広い車内でみなみは行き先を入力し終えると、


「この時間帯は夜の部に来る会員のおじさまの中でもお金持ちが多いんだぁ。

 みんなミュージアムを大切に思ってくれてるから、タイミングが合えば

 こういうこともよくあるの。」


 と答えた。


「ほら、支払済になってるでしょ。」


 みなみが入力していた画面のバックが緑色になっている。支払済のサインだ。


「それでわざわざ入り口側から出たんですね。」


 ちゃっかりしているみなみである。



 ミュージアムは郊外の川沿いにあるので、車はすぐに川に入った。

 車体が浮き上がると高級車でもわずかにあった小刻みな振動が消える。


「これはみんなより先に着くかもね。」


 窓の外を川沿いの灯りが流れてゆく。

 無人タクシーが普及してから、駅の周りには庶民のための店、川沿いには高級店と

 棲み分けが進んだ。

 高級住宅街も川沿いだ。


 目的地の焼肉店は当然駅近だが、リバーリムジンは道路も走れるので問題ない。

 あるのは高級車でありふれた焼肉店に横付けする場違い感だけだった。


 中に入ると無人の個室に通される。


「やっぱり追い越しちゃったね。」


 と言うみなみに、綾はいわゆるお誕生日席に座らされた。


「『いつもありがとうございます』とか言われてましたけど、行きつけなんですか?」


「東館長贔屓の店でね。ここで懇親会をすると会社からお金が出やすいの。もちろん美味しいよ。」


 館長はスタッフの胃袋も握っているようだ。


 入ってすぐに入り口の引き戸が開けられた。


「ほらーやっぱり。」


「みなみ、またやったわね。」


「さっきのリバーリムジンだったんだ。」


「こんばんは。」


 と、いきなり姦しくおしゃれな5人組が入ってきた。」



「みんな、座って座って。瞳は料理を頼んで。」


 みなみが仕切る。


「料理が来るまでに自己紹介ね。まずは綾ちゃんから。」


「はじめまして。日向綾です。1期生です。よろしくお願いします。水曜日から本間先生の助手をしています。いろいろ教えてください。」


 みんなが拍手する。


「じゃあ私から右回りね。ご存知宮崎みなみ、3期生。一応副館長って肩書きもあるけど、東館長が休まないから、実質ミュージアムスタッフのリーダーって感じね。

 みんな下の名前で呼び合うことになってるから、苗字はいいから名前を憶えてね。」


 パラパラと拍手。

 綾としては憶える事が減って助かる。


「井上友紀。3期生です。よろしくお願いします。」


 みんなが拍手する。

 ショートボブで小柄な大人しそうな子だ。黒髪。


「佐藤有里。2期生よ。私も処置室のこと、いろいろ教えて欲しいなぁ。」


 大きな拍手。

 茶髪のショートカット。ナイスボディーのイケイケな感じ。

 綾は危険人物かも。と思った。


 テーブルを挟んで反対側に移る。


「内田瞳。4期生です。この中でいちばんの新人で最年少です。よろしくお願いします。」


 大きな拍手。

 ふわふわした茶髪のセミロング。人懐っこい感じの猫目。女子高生で通用しそうだ。


「堀江ゆかり。2期生です。よろしくお願いします。」


 なんだか暖かい拍手。

 黒髪ロングの日本人形のような美人。テーブルの上で三つ指をついている。


「最後が・・・瞳お願い。」


 肉と飲み物が来たので中断した。


「榊原利奈。3期生。みなみとは大学からの同期よ。私も副館長だけど、主に書類仕事で館長を手伝ってるわ。わからないことがあったらなんでも聞いてね。」


 瞳から飲み物が回って来るので拍手は少ない。

 濃いめの茶髪を編み込んでいる。落ち着いた感じの美女。お姉さんって感じだ。


「もう1人、今日は非番の石原陽子がいるけど、そのうち紹介するね。」


 みなみが再び仕切り出す。


「じゃあ、飲み物が行き渡ったようだから・・・瞳、それビールじゃない?」


「個室だからいいじゃないですかぁ。」


「まぁいいか。アリバイ作りに後でウーロン茶か何か頼んどきなさいよ。」


「改めて。綾ちゃん。ようこそエターナルビューティーへ。乾杯!」


「乾杯!」


 拍手が起こる。

 利奈と友紀が肉を焼き始める。入り口側のロースターはゆかりと瞳だ。


「みんな飲めるんですね。」


「ホントは未成年の瞳はダメなんだけどね。有里は非番だけどお酒に釣られて出て来たんだよね。」


「失礼な!綾ちゃんと親睦を深めるためですぅー。」


 綾は、やっぱり発言には気を付けようと思った。

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