第20話 ユミ(ちゃん)

 翌日、昨日より早く出勤した綾は、女子トイレに入るとパンツを脱いだ。

 今日は膝下のスカートなので心細さは無いが、それでも股間がスースーする。

 どんなに暑くなっても短いスカートは履けないなぁ。と思った。


 オフィスに行くと、もう部長が居た。


「おはようございます。いつもこんなに早いんですか?」


 と訊ねると、


「私は実務的には役に立たないからねぇ。私が早くから居ることで少しでも仕事が捗るならと思ってできるだけここに詰めるようにしているんだよ。

 川田くんなんかは就業時間関係なしだからねぇ。」


 冴えない中年のおじさんだが、綾は人は見掛けに依らないと思った。


「日向くん、明日までにこれに目を通しておいてくれないか?」


 と言って、部長が何枚かの書類を自分のデスクの上に取り出す。

 綾がそれを取りに行くと、書類には

「社内情報管理要綱(処置室)」とあった。


「明日はミュージアムスタッフの子たちと歓迎会だろう?その時に話してはいけないことが纏めてある。君、お酒は?」


「嫌いじゃないです。」


「酔うとどうなる?」


 綾は少し考えて、


「少しスキンシップが多くなると言われたことがあります。」


「それなら心配はないね。」


 部長が新聞を読み出したので、綾は自分のデスクに戻ったが、久しぶりに見る新聞に、部長なりのダンディズムなのかな?とかわいく感じた。


 綾が「社内情報管理要綱」を読んでいると、丈太郎が出勤してきたので、2人で処置室に移動した。


 処置準備室に入ると、1人の女性が待っていた。

 白衣を着た長身の美女だが年齢不詳な感じだ。

 茶髪のベリーショートなので、性別不詳感もある。


「おはよー!薫ちゃん、綾ちゃん。」


 とハイテンションだ。


 不審者感もあって、


「誰ですか?」


 と、綾は隣の丈太郎を見上げたが、本人から答えがきた。


「研究員の川田ユミだよー。よろしくね。」


「あ、お世話になっています。日向綾です。」


 と、今日までユミの働きをいろいろ聞いていた綾は態度を改めて頭を下げた。


「ところで、薫ちゃんって丈太郎先生のことですか?」


「そう、そこの男の本名。花園薫。」


 下を向いて肩を震わせる綾に、丈太郎は憮然として


「名前は自分で選べないからな。」


 と言った。


 綾の笑いが治まるのを待って、


「そうそう、綾ちゃんにプレゼントがあるよー。」


 と、ユミが一歩横にずれると、テーブルの上に透明な頭蓋骨があった。


「じゃーん!クリスタルスカルです。データは私のものを使いました。大事にしてね!」


「またお前は悪趣味なことを・・・。」


 と疲れたように零す丈太郎だが、綾は興奮して、


「わぁ。綺麗ですね!」


 と言って頭蓋骨を手に取る。


「あれ?軽い・・・。」


「ごめんねぇ。流石に水晶は無理なんで強化レジンなんだぁ。ブロックは買ってきてね。」


「わかりました。頑張って練習します。」


 水晶でなくてもいいらしい。


 しばらく蚊帳の外だった丈太郎だが、綾が頭蓋骨を撫で回し出したので川田に話しかける。


「助かる。ところで今日の午後、時間は取れるか?」


「1時間ぐらいなら大丈夫だけど何?」


「姫のヒップアップの見通しが立ったんで見てもらいたいんだが。」


「それじゃあ、いつものように午後イチでいい?」


「頼む。」




「じゃあまたねー。」


 と言ってユミは出て行ったが、綾はまだ頭蓋骨を撫で回している。


「練習はここかオフィスでしろよ。」


 と丈太郎に言われて綾は顔をあげた。


「持って帰っちゃダメなんですか?」


「置き忘れたり職務質問されたらどう説明するんだ?」


「うー。ユミちゃん。」


 どうやら名前をつけたらしい。



「川田さんって丈太郎先生と同い年ですよね?」


「いや、あいつはスキップしてるからいくつか下だが。」


「それでも若いですねー。そんなに処置室で仕事をしていたんですか?」


 綾がジト目で尋ねる。


「確かにひとりではできない処置があるときは手伝ってもらっていたが、初期を除けば週に2時間にもならないはずだ。」

「あいつは男っぽい見た目だが、アンチエイジングへの執着は昔から凄くてな。

ナノマシンに老化防止の働きがある可能性が出てから、自分に静脈注射しているぐらいだ。」


「それ、一般にも使えるんじゃ?」


「適正濃度はわかってきた様だが、あいつみたいに研究室に引き篭もって部屋の各所に電源ステーションを設置できる人間がどれだけ居ると思う?」


「・・・それは凄いですね。」


 女性の若さへの憧れの強さが人それぞれであることが再確認できて少しホッとする丈太郎だった。



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