第6話 友里恵

 綾が処置室に入ると気圧差で耳がツーンとすると共に、かすかにオゾン臭がした。


「ナノマシンの匂いですか?」


 と訊ねると、


「どうだかな?ナノマシンのキャリアの匂いかもしれん。」


 といういい加減な答えが返ってきた。

 男性は女性より嗅覚が鈍いという話だが、丈太郎もそうなのだろう。


「部屋が真っ白ですね。」


 影が出来ない様に各所に配置されたガス灯に照らされた処置室は、丈太郎と綾を除けば、作業台に横たわる死体以外は真っ白だった。


 綾の裸体も余すところなく照らされる。


「コーティングの色だな。スイッチやハンドルの名前や表示ができないので浮き彫りになっているが、基本的に全部憶えてもらうことになる。」


 意外な不便さである。


「処置室に入って最初にやるのはナノマシン濃度の確認だが、メーターの目盛りも浮き彫りで見え難いが、針が真上に向いていたら適正値だ。針が傾いていたら一旦外に出て調整する。」


「裸でですか?」


「そうだな、白衣でも用意しよう。」


 体制が変わると予想外に改善点が出てくるようだ。


「使う器具は一般的な手術とそう変わりはないから、実際に処置を見てもらおうか。」


 そう言うと、丈太郎は作業台の横に立った。


「この姫は林田友里恵17歳、死因は心臓麻痺。滅多にない完璧な死体だ。」


 綾は丈太郎の反対側に立って死体を見た。


「姫ですか?」


「ああ、そういう年頃の美少女ばかりだからな。君も姫だったんだろう?ここで呼ばれなくて良かったな。」


 胸の奥に何か熱いものが生まれたのを感じながら、改めて綾は友里恵を見つめた。


 身長は160cmぐらいだろうか、決してグラマーではないが出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ羨ましいプロポーションだ。

 仰向けになっても乳房は横に流れず上を向いている。

 髪は染めているかどうか微妙なぐらいの明るさの少しウェーブのかかった茶髪のロング。年齢の割りには大人びたキツめの美少女だ。

 死体なので血色は悪く乳輪も茶色だが、それでも魅力的なのは間違いない。


 綾がそんなことを考えていると、丈太郎がおもむろに作業台の横から移動し、死体の足元に回ると、彼女の脚を掴んでカエルの様に拡げた。


 女性にとって屈辱のポーズに綾がドン引きしていると、今度は薄い陰毛に囲まれた生気を失っても周りの肌の色との違いが少ないことから色素の沈着の少なさが伺える小陰唇を拡げ、膣前庭にメスを入れた。


 綾は、性的な倒錯を思わせる丈太郎の行為に、一言文句を言おうと彼の手元から顔に視線を移した時、その真剣な表情と萎れた性器に気付いた。


「先生?」


 キツく言おうとしたのと同じ言葉が疑問形で口から出た。


 丈太郎は処女膜までも切り開いたメスを奥まで進め、彼女の膣の後ろ側を切り開きながら、綾の疑問に答えた。


「どんな美少女でも腹の中には出番を待っているクソがある。まずはこれをなんとかしないとこの処置室は地獄になるぞ。

 俺は美少女のクソの匂いで興奮する変態でも死体損壊愛好者でもない。」


 丈太郎は肛門周りの筋肉を切断するものと避けるものを選別して掻き分けながら、直腸を下から上に絞り上げる。


「死体だから筋肉は緩んでるんだが、それでも切ってしまうともっと括約筋全体が緩む筋肉もあるからな。あとはソーセージの様に結ぶっ・・・と。」


 一仕事終えた丈太郎は水道の水で薄く血の付いた手を洗う。当然手袋はしていない。


「感染症の恐れはないんですか?」


 と綾が恐る恐る訊ねると、


「そこはナノマシン様々だな。」


 だそうだ。有能すぎるぞナノマシン。



「前処理が終わったら次は内臓の摘出だが、基本、膣・臍・両脇から取り出す。

 肝臓は無理だがこれは小分けにしても移植できるから中の血管に注意して切り分けてから取り出す。この部屋では内視鏡が使えないからこれがいちばん難しい処置だな。

 脳は使い道がないから眼球を取り出してから眼窩底に穴を開けて掻き出す。」


「それじゃあ足の速い下半身から行こうか。」


 誰がうまく言えと?

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