第2話 卒業生

 早速午後から見学に来るというので丈太郎は仮眠の後でシャワーを浴びさせられた。


 助手候補は日向綾ひなたあやと言うらしい。

 どこの研究機関でも通用する立派な学歴だが、ここを選んだのは奨学生だったからだろうか?


 丈太郎は昼食を取りながら履歴書と身辺調査の報告書を読んでいた。


 午後に1体処置があるので都合が良いといえば都合が良いのだが、彼女に処置室に入ってもらうまでが問題である。

 どうやって裸にならなければならないことを説明するか・・・。


「セクハラで訴えられたら道連れにしてやる・・・。」


 何やら忙しそうにしていた部長への恨みが思わず口から出てしまう丈太郎だった。



 オフィスで事務仕事をしていると、リクルートスーツを着た綾が一人でやって来た。


「独りかい? よくここがわかったね。」


 履歴書の写真を見ているので、綾だとわかったが150cmも無いであろう身長と童顔のせいで女子高生に見えてしまい、砕けた口調になってしまった。

 履歴書には152cmと書いてあったが・・・サバを読んだな。


「奨学金をいただいていた時に見学したことがありますから。」


 そういえば初期にはそんなことをしていたなぁ。

 あの頃はそんな余裕もあったっけ・・・と6年前の記憶を辿りながら


「エターナルビューティーのバックステージにようこそ。初めましてじゃないかもしれないが本間丈太郎だ。」


 と手を差し出した。

 綾はその手を握り返しながら、


「初めましてじゃないですよ?驚くほど見学の時とお変わりありませんね。日向綾です。何か秘密があるのなら是非教えていただきたいです。」


 好奇心で瞳の奥をキラキラさせながら丈太郎の顔を覗き込んで来た。


「秘密というよりは副作用みたいなもんだが、まあ仕事内容に関わることだから、おいおい説明してゆくよ。」

「じゃあ、早速だが処置室に行こうか。」


 思ったより人懐っこい綾に丈太郎は、これならセクハラ訴訟の心配はないかな?と胸を撫で下ろしながら先に立って歩き出すと、綾が横に並んで見上げながら話しかける。


 丈太郎の身長は180cmあるので身長差は30cmを超える。


「本間先生、本名ですか?」


「最初の頃は本名でできるような仕事じゃなかったからな。途中で本名に戻すのも胡散臭いからそのままだ。」


「どちらかというと間黒男じゃないですか?私もピノコにした方がいいですか?」


 綾がいたずらっぽく返す。


「俺の給料はそんなに高くないし語呂が悪いだろう?それとピノコはやめてくれ、ごっこ遊びをしているようでイタい。」


「本名じゃないなら丈太郎先生でもいいですよね。」


 という楽しそうな綾の声を聞きながら、若いのに知っているんだなぁと感心しつつ歩いていると、すぐに処置準備室に着いた。エターナルビューティーはそんなに広くないのである。


 部屋に入った途端、綾の足が止まった。


「この部屋はちょっと変わりましたね・・・。」


 ジト目になって見上げて来る綾に、丈太郎は


「いや、俺も驚いた。今朝はこんなじゃなかったんだが・・・。」


 処置室に入る前に着替えたりシャワーを浴びたりするための更衣室の入口が2つになり、それぞれに「男湯」「女湯」の暖簾がかかっている。


 部長がバタバタしていたのはこれだったのか!

 嬉々として業者に指示する姿が目に浮かぶ。


「部長なりの配慮かな?」


 こめかみを押さえながら苦しい言い訳をしつつ


「更衣室で説明を始めようと思うんだが、中がどう変わっているかわからないから

 とりあえず中を見てみようか?」


 丈太郎が男湯の、綾が女湯の暖簾をくぐり、引き戸を開けて中を見回すと、綾と目が合った。


「中はあまり変わっていない様だ。中で説明をするから入ってくれ。」


「ドアだけ別なんですねー。」


 綾が中を見回しながら微妙な表情で感想を述べた。

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