第3話 戦う理由

カツヤの視線の先 地平線に〈黒茶硬部隊〉ブラックが姿を現した


「来た」


キーンを呼ぼうと立ち上がると

「カツヤ!」


「ああ 今呼ぼうと思ったところだよ」


2人で並んで地平線を見ると〈黒茶硬部隊〉ブラックが広がり黒茶色の壁が出来ていく


「さあ リベンジだ! 来やがれ〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンド!」


〈黒茶硬部隊〉ブラックが広がり切って 動きが止まった様に見えるが 攻めては来ない


しばらく緊張の時間が続く


「くそ いつ来るんだ…」


「カツヤ 焦らないで 〈黄土速部隊〉オーカーの動きには注意してるし きっと王もパルスで注意をうながしてくれるわ」


「ああ ごめん 気持ちが先走っているみたいだ」


「無理もないわ 私だって自分がれているのが分かる でも 私達2人でなら大丈夫 そうでしょ?」


「ああ もちろん!オレ達ならやれる!」


その時 ブラックの壁が動いた気がした…


「来るわ!」


ピキーンッ!

「「 死守せよ! 」」


キーンの声と同時に王の警告が届く!


〈門道閉鎖〉ロードクローズ!」


ズズズズズッとロードが閉じ始める が閉じきるよりも早く

〈黄土速部隊〉オーカーが来るわ!」


3分の2ほどロードが閉じた所でクローズを止める


「任せろ!10th〈防護障壁〉テンスウォール!」

カツヤはロードの出口を囲う様に半円形のウォールを張る その数は10枚!


ドドドドドンッ!!ビキビキッ!!


オーカーがウォールに突っ込んできて何枚か破壊される


「チッ 3枚いかれたか」

カツヤは5年の特訓を経てウォールの形を自在に変えることが出来る様になり 1枚の強度も大きく上がった 更にオーカー対策として力を分散させる半円形にし

10枚重ねの積層構造にしていた

 

オーカーはそのスピードを破壊力に変える 最初の特攻さえ防げば単純な力は

〈茶色の小人〉チャイルドに劣る


「キーン!タイミングを合わせてロードを閉じてくれ!行くぞ!」

〈障壁移動〉ムーヴ!」


カツヤの声に押されるようにウォールが動いていく


「おおりゃああっ!」

そのままロードの入口まで押し戻す!


「クローズ!」

ズズズズズン!


キーンはクローズを再開しロードを完全に閉じる


カツヤはウォールの形を逆半円形に変えロードの入口を守る


「やったわ!ムーヴ大成功ねカツヤ!」

「ああ ここまでは完璧だ!」


キーンが〈敵性固着〉エネミーロックを作り出したように カツヤもウォールを改善し より強固に更には動かす事まで可能にしていた


ドドドドド……

地鳴りが近づいてくる


ゴゴゴゴゴッ!ビキビキッ!ゴッ!ゴッ!


おそらくは〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドがウォールやロードの

入口にぶつかっているのだろうが視認出来ないのではっきりとした状況が分からない


「ロードが閉じていれば〈茶色の小人〉チャイルド〈黒茶硬部隊〉ブラックは入って来れないはずよ」


「ああ 警戒すべきは〈圧縮気弾〉ボムとオーカーだ ボムはウォールじゃあ止められないしオーカーはちょっとした隙間でも入り込んで来るからな」


メリメリメリッ


「この感じ…ボムがロードを押し広げながら来てるわ 一緒にオーカーも来てるはず」


「よし!10thウォール!」

カツヤはウォールを解除し 新たに出口側に半円形のウォールを張る


「ロードを緩めてボムを通すわ!」


バシュウウゥ!ドドドンッ


ボムは通すがオーカーはウォールで止まる そしてボムはそのままゲートを通過させる

ボムだけならば外界に通してもほぼ影響はない


「この隙間ならオーカー以外は入って来れないはず このままロードクローズとウォールを維持しよう」


「ええ オーカーだけならゲートロードを広げられる事はないはずよ」


この形こそ カツヤとキーンが考えた〈茶褐色の暴走〉スタンピード対策だった 〈門〉ゲートではなく ロードで迎え撃つことでチャイルドとブラックの動きを封じたのだ


だが次第にロードを抜けてウォールに張り付くオーカーが増えてくる 前にいるオーカーを踏み台にして上に重なり 横からも隙間を抜け出ようとして来る


「くっ まずい ウォールじゃあ隙間を塞ぎきれない!」


「任せて!〈敵性固着〉エネミーロック!」

キーンの短刀がひらめき 隙間を抜け出ようとしていたオーカー達をロックする

オーカー自体を隙間を埋める壁替わりにしたのだ


「よし!うまくいったわ!」


流石さすがキーン! ようし ここからは我慢比べだ オレよりキーンの方が負荷が大きい 厳しくなったらクローズを緩めてくれ ブラックさえ入れなければ何とかなる」


「分かったわ でもまだまだ大丈夫」


2人の予想通りロードの隙間にブラックはもちろんチャイルドも入れず

〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドは攻め手を欠いていた 

単発でボムが来てもロードの両端が開いているのでただ通り抜けるだけでロードは広がらない 

オーカーの力でもロードを広げる事は出来ない 完璧に作戦勝ちだった


そして…


ゴゴゴゴゴッ ドドドドォォ……


地鳴りが遠ざかりウォールに張り付いていたオーカーも姿を消す


「これは…〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドが撤退した…のか?」


「待って 今〈精神感応〉パルスで探るわ」


キーンが目を閉じ… そして ロードクローズを解除する


「ウォールを解いても大丈夫 私たちの勝ちよ!」


ロードが解放され 王国側の広場が見える

そこにはいつもの広場の風景が広がっており 〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドは何処にも居なかった 


「よっしゃああぁぁっ!!〈茶褐色の暴走〉スタンピードを防いだぞ!!」


2人は満面の笑みで抱き合って喜んだ

「やったわねカツヤ!」


「ああ キーンの作戦のおかげだ 〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドを完全に封じ込めたぞ!この方法なら きっと第2波も防げる!」


ピキーンッ


「「 よくぞ耐えた! だが気を抜くな 〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドは撤退しただけで消えてなくなった訳ではない 第2波の攻勢は第1波の比ではあるまい

そして此度こたび〈茶褐色の暴走〉スタンピードは時期が悪すぎる 現在 外界をかの地に繋ぐ事が非常に困難な状況にある 

長期戦になる事は必至ひっし 第2波はもちろん第3波まで防ぐつもりで事にあたれ 

王国としても戦力の出し惜しみはせぬ 虎の子の鎮圧部隊も随時投入する

第2波までの時間を稼ぐ事が出来よう その間に休息をとり万全の状態で迎え撃つのだ 

よいか! 〈門〉ゲートを突破される事 それすなわ

 王国の破滅を意味すると心得よ!! 」」



「楽観視出来る状況じゃなさそうね…長期戦か…負のパルスが心配だわ」


「確かに…でも王の言う通りとにかく今は体を休めよう ゲートクローズで消耗してるだろ? 少しでも睡眠をとった方がいい」


「分かった 悪いけどそうさせてもらうわ」


「ああ いつも負担の大きい役を押し付けてすまない」


「それは違うわ カツヤが居るから私は全力が出せるの 私1人じゃ何も出来ないわ」


「ありがとう オレはゲートで〈茶褐色の侵攻部隊〉ブラウン・コマンドの動きを見張ってるから 何かあったらパルスで知らせてくれ」



カツヤはゲートに背を預けて座り 体を休めながら王国側の広場を見ていた


嵐の前の静けさか 何事もなく時間が過ぎる…


「マインドは全快したかな…」

カツヤは待ち受ける戦いに思いを巡らす 

第1波は完璧に防げたが第2波も同じ様にいくとは限らない 

そして先ほどから何となく体が重い様な気がしていた 

これが負のパルスの影響だとしたら キーンの方がより強い影響を受けているはずだ


(間違いなく 今までで一番厳しい戦いになるだろうな…)


足音が聞こえ 振り向くとキーンが歩いてきていた

「様子はどう?」


「今の所動きはなさそうだ ゆっくり休めた?」


「うん 大丈夫 ただ…」


「負のパルス?」


「うん まだそれほどじゃないんだけど 今以上に強くなったらと思うとちょっと怖いかな」


「座ったら?」


「うん…」

キーンはカツヤの隣に腰を下ろす

カツヤはなにか明るい話題をと思いキーンを見ると 角度的にキーンの胸元をのぞき込む形になり 胸当てに押しつぶされて窮屈そうに並ぶ2つの白い膨らみが目に入った 

(以外と大きいんだよな… ってこんな時に何を考えてるんだオレは!)

慌てて視線を足元に逸らす


辺りはすでに薄暗くなってきていて キーンの脚の白さが浮かび上がって見える

(細い脚だなあ こんな細い体で戦っているんだな…)


カツヤは何となくキーンの事を見てしまう

(当たり前だけど オレより腕も細いし 肩幅も背中も小さいよな…)


自分よりも遥かに華奢なキーンが健気けなげに思えて 抱きしめたい衝動にかられる


キーンの横顔を見ると キーンは真っすぐに遠くを見つめていた これからの戦いを思っているのだろうか


(まつ毛 長いんだな…)

カツヤの目にはキーンの横顔とプラチナの髪の毛が淡い燐光を放っている様に見えた

カツヤはふと今までの事を思い出す


(考えたらオレはキーンに助けられてばっかりだな…

最初は突き放す様な薄情な物言いだと思ったけど その実 常にオレを気遣ってくれる優しい心の持ち主だった

そして何事にも真剣に取り組んで自分にも厳しいその性格でいつも的確な指示を出してくれて 何よりキーンの明るさと可愛らしい笑顔がオレを安心させてくれるんだ あれ?オレはいつからこんなにキーンの事が好きになったんだろう?

いや もしかしたら初めて会った時から もう心を奪われていたのかな…)


キーンの横顔を見ている様で自分の思考の内側に意識が向いているカツヤは キーンの頬や耳が真っ赤に染まっている事に気が付いていなかった


(もし キーンが許してくれるなら この先もずっとキーンと一緒に居たい…)


「あの… カツヤ…?」


(はっ! しまった! 考えに没頭してた!)


慌てて視線を逸らし

「え な 何?」


「あの…さっきからカツヤの考えがパルスに乗って聞こえてくるんだけど…」


「え?」


「ち 違うの! 聞こうと思った訳じゃないんだけど その…強いパルスだったし 遮断するのもカツヤに悪いかなって思って…」


オレは焦ってどぎまぎしながら

「い いや大丈夫 大丈夫だから…うん」

(いや大丈夫って何だよ!何言ってんだオレは そうじゃなくて オレは…)


カツヤが視線を戻すとキーンは真っ赤になってうつむきながら

「それで… その… ホントなの…?私と…って…」


(今しかない!)

カツヤは体ごとキーンに向き直り

「ああ 本当だ! キーンが許してくれるのなら オレはこれからもずっとキーンと一緒に居たい!」


キーンがゆっくりと顔をあげる


カツヤはキーンの目を真っすぐに見つめ

「だからこの先何があっても 絶対にキーンの事を守ってみせる!約束する!」


キーンもそのプラチナの瞳を潤ませながらカツヤの目を真っすぐに見つめていた


「…うれしい」


2人は見つめ合い


そして


初めてのキスをした…

















 



  






  









 


 

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