第9話 パノプティコンの石版③
二人はその少女と従者を見てすぐに理解した。
同じパノプティぽん狙いで福引を何回転もさせる気だ。
先を越されてはパノプティぽんを引かれてしまう。その考えがファブリーゼを焦らした。
「行くわよ黒マキ」
ファブリーゼは言うが、石版が重たくてそう速く歩けない。
「重い」
一方の少女と従者も同じ事を考えていたようで。
「急ぐのよ私のティトラン」
「こっちは石板を持っているのですよ。それは無茶な話です」
黒マキと従者は横一列に並んで競争し始めた。ゴールは100メートルほど先の商工会議所だ。
競争相手が真横に現れて闘争心が煽られたのか、黒マキの歩調が少しずつ早くなっていく。
「いいですわ。パノプティぽんを手にするのはこのファブリーゼ・ゴールドパークですわ」
このファブリーゼの宣言に釣られたのか、少女も宣言しようとして
「違うわ、パノプティぽんを手にするのはこのリィ……」
「リィ??」
そこで少女はなぜか黙ってしまった。
従者はかなり焦った顔をしている。
「このリーバスカード・オープンなんだから」
「リーバースカード・オープン??珍しい名前ですわね」
ファブリーゼの聞いたことのない名前だ。
「きっとどこぞの小金持ちの娘かなにかですわ」
「そっちこそ極小金持ちの娘でしょ」
「なんですって」
二人が言い争っているうちに、黒マキと従者は商工会議所の近くまで来ていた。
特設ステージではマグおじいさまが抽選器を加速させて待っている。
だが、ゴールに近づいているのは二人だけではなかった。
「おっと、お宝は全てこの海賊皇帝ノドグロン様がいただくぜ」
海賊皇帝は石板を十七枚も持っている。
「黙りなさい、陸の宝はだいたい全てこの大物盗賊アカパレーさんの物です」
大物盗賊は石板を頭に二十六枚乗せている。
「そこをどけ、道を開けろ、ここは冥鉄騎士エムザの通り道だ」
冥鉄騎士は冥鉄馬に石板を三十五枚乗せている。
「これだから素人は困る。この悪のプロ魔導士ノーメンの前では全て無力」
悪のプロ魔導士は四十八枚の石板を宙に浮かせて半裸になった。
それを見た従者ティトランは叫んだ。
「服を脱いだ。来るぞ炎が」
従者ティトランの言う通り、悪のプロ魔導士ノーメンは両手から特大の火焔を放射。
炎系の魔法は炎が自分の服に燃え移らないよう、半裸になるのが常識である。
「喰らえ、暗黒の炎エターナルバーベキュー」
灼熱の炎がファブリーゼ達を襲う。
「危ない!!どかれ!!」
ファブリーゼと炎の間に割って入ったのは黒マキだ。
その時奇跡が起きた。
黒マキを包み込んだかと思われた炎は反転して、海賊皇帝と大物盗賊と冥鉄騎士を経由して悪のプロ魔術師ノーメンを襲った。
「ぎゃああああああ」
従者ティトランはとっさに石板を捨ててリバースカード・オープンを担いで建物の屋根の上まで飛んでいた。
「何が起きましたの」
奇跡的にも二人は無傷だった。
「わからんちゃ、私は何もしとらんが」
それから、マグおじいさまは興味深そうに黒マキを見て
「なるほど月下の水面か。おめでとう合格だ」
パノプティぽんを黒マキの頭の上に乗せた。
勝敗は決した。
「帰るわよ、私のティトラン」
リバースカード・オープンが不服そうにその場から立ち去ろうとした時だ。
すれ違いざま
「何をしても無意味だ、帰ってラツィオにそう伝えておけ」
マグおじいさまは確かにそう言った。
帰り道、黒マキはその事をファブリーゼに聞いてみた。
「ラツィオって男性名だからあの子の父親かなにかかしら。だったらあの子の父親は国王と同じ名前ですわね」
「じゃあラツィオ・オープンやな」
「そんな人はどうでもいいですわ。それより貴女、もしかしてスキルが発現したんじゃなくて」
「スキル??」
ファブリーゼはまた訳のわからない事を言い出した。
「よその世界から来た異人さんは、特殊な能力に目醒める場合があるのですわ」
「もしかして、覚醒めてしもたんか」
覚醒めてしまったのか!?
次回黒マキのスキルに迫る!!
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