第8話 パノプティコンの石板②
ゴールドパーク家の朝食は家族全員が集まる。
全員とはファブリーゼと父母、祖父母、それからなぜか居るおじい、そこに黒マキも同席する事になった。
ゴールドパーク家の朝食は緑色のパンみたいなヤツと何らかの燻製(魚とかべコル)、それから何かの卵料理、黒酢にんにく、カルエース(ヨーグルトみたいな味がする飲み物)とごくありふれた物だった。
総じて塩分の高そうな味付けである。
祖父はそれに塩をふりかけている。ずっとふりかけている。雪が積もった様に見えるまでふりかけている。
それで祖母は祖父がよそ見した隙に横からもっとふりかける。
二人して認知症の疑いあり。
ファブリーゼの父は子煩悩な所があるのか、食事中は
「ファブリーゼに友達が出来てよかったよぉ」
って話と
「ファブリーゼ、カルエースは美容にいいからね。飲みすぎるともっと美人になっちゃうよぉ」
って話を交互に繰り返していた。
ファブリーゼの母親はファブリーゼに似ている。主に見た目が。
性格はそうでもなさそうだ。
家の外から小鳥達が集まって来て、肩や頭の上にとまっているくらい穏やかで慈悲深い性格の様だ。
「まあ、かわいい。黒酢にんにく食べる??」
この平和な家庭が金細工商家のゴールドパーク一族だ。
朝食を終えると工房や販売店には従業員達が続々と出勤して来る。
ファブリーゼは家業では雑用ばかりさせられている様で、この日は商店街に販促用のチラシを配布しに行く予定だ。
パノプティコン商店街。
街のはずれに昔からある商店街だ。比率としては短命種の住民が多い様だが、鳥人種やダークエルフ、道路族、オカマなど多種多様な人種が集まって賑わいを見せている。
この商店街の一軒一軒にミラーボールの販促チラシを置いてもらうのがファブリーゼの仕事だ。
もう何度も来ているようで、各店主達はファブリーゼの顔を見ると立ち話をしたり、新作のおかしや黒酢にんにくを試食させてくれたりする。
八割ほど販促チラシを配り終え、「ヤマさんのパン屋さん」(☆3.2)の店先に来た時だ。
「わたくしとした事が、大切な事を忘れていましたわ」
「なにを忘れとったが」
「福引よ、商店街の福引が今日まででしてよ」
パノプティコン商店街では定期的に福引大会が開催されている。
本作の読者に多い日本の一般市民にはあまり馴染みの無いイベントかもしれないが、これは商店街で一定の買い物をすると石板が貰え、その石板と引き換えに豪華賞品が当たるくじが引けるのだ。
ちなみに今回の一等はパノプティぽん(たぬきを模した商店街のオリジナルキャラクターだよ)の等身大ぬいぐるみである。
「そうと決まれば買い出しするわよ」
「おぉ~~」
ファブリーゼは会社の備品調達もしていたので文具店や雑貨店、お茶屋、黒酢にんにく屋、花屋などを何軒か回り、黒マキの腕には石板が積もっていった。
「重い」
「あら、元気がないなら黒酢にんにくを毎日食べるといいわ。私も昔は朝が弱かったんですのよ。でもこの黒酢にんにくを食べ始めてからは朝もスッキリ目覚めて体操にも行けるようになりましたの」
※個人差があります。
「おっおぉ……」
「えっ臭いが心配??それは大丈夫。この黒酢にんにくはソフトカプセルに包まれているから気になりませんわ」
「わかった。今度食べるちゃ」
二人がそんな会話を交わしながら福引所へ向かっていると、他の店からごきげんな歌を歌いながら少女が出て来た。
「犬猫わんわん~~リュド王国♪♪」
随分と身なりのいい長名種の少女だ。
それから、彼女に続いて従者らしき男が後に続く。
その男もまた、手に石板を積んでいた。
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