第6話 富山から来た女③

 ファブリーゼの一日は充実していた。

 朝一で王家と揉め事を起こし、そのまま転生の儀式を成功させて、異人と街の観光に出かけているのだから。


 それから、この日はもう少しだけ何かあったりする。


 二人は「岡から港の見える公園」に向かって歩いていた。

 道の脇に立っていたお兄さんに挨拶すると

「ここは柳条湖おもちゃ王国です」

 って言われた。

「はい」

「ここは愉快な国名やね」


 そんな愉快シティのどこかからざわめきが聞こえてきて

「!?」

 それは次第に近づき

「暴れべコルだ」

「時速40キロで西へ走っているぞ」

 と確かに聞き取る事が出来た時には、荒れ狂うベコルが一直線に突進、二人の55メートル後方まで迫っていた。

 ぶつかるまであと何秒かかるだろう。


「ひぃぃぃぃ10秒????」

 五秒後、今にも荒れ狂うベコルがファブリーゼを跳ね飛ばさんとしたが

「危ない!!どかれ!!」

 ファブリーゼとべコルの間に割って入ったのは黒マキだ。

 黒マキは角を掴んでべコルと押し合っている。


「うももぉぉぉぉ→→→」「←←←とろろぉぉぉぉ」

 黒マキは坂の上で有利という事もあるが、それを含めてもベコルと押し合って互角というのは異常な怪力である。


「黒マキっ押し返してしまいなさい」

 この時、黒マキは背をファブリーゼに向けていたので解らなかったのだが、その形相はもはや般若とか夜叉とか、とりあえずライトノベルのヒロインがしている顔ではない。

 その顔を見たベコルも何かを察し

「うわっ」

 と声を出して体を反転、そのまま走り去ってしまった。


「あなた凄い力ですわね」

「昔から力だけは自信あった」

 ファブリーゼは黒マキのその発言である事を思いついた。

「そうですわ」

「そうなんけ」

「いい事を思いついたのよ」

「そっちゃ良かった」


 と特に中身の無い問答をしているうちに、岡から海の見える公園についた。

 岡から海の見える公園ではなんと海が見える。

 リュド王国に豊かな海の恵みをもたらすシルビオネの港町まで見通せるほどの絶景なのだ。


 黒マキがアホみたいに口を開けて、海を眺めていると

「黒マキ、これをご覧なさい」

 ファブリーゼのは自慢気に石碑を見せびらかしてくる。

「かはなんけ」

「これは異世界人召喚成功の記念碑ですわ。おじいに大急ぎで作らせたのよ」

「半日でようやるな」


「今回は自信作じゃ」

「!?」

 どこからともなく現れたおじいが自慢気にしている。

「さすがはおじいですわ。でももう一つ記念碑が必要になりましたわ」

「おお、ええよ」


 ファブリーゼはこれ以上に何の記念碑を望むというのか。

「黒マキ、あなた私のボディーガードになりなさい」

「へぇ」

「私は良家の令嬢でしてよ。何かあったら命を狙われるかもしれないじゃない。それに将来的にはもっとビッグでクリエイティブな仕事もしていくつもりだから、ボディーガードとかそういうのが必要になるのよ」

「はぁ、ビッグでクリエイティブな仕事ってなんけ」

「それは……まぁ……これから考えますわ……」


 ファブリーゼがビッグでクリエイティブな仕事を成し遂げるのは、まだもう少し先の話だ。


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