第5話 富山から来た女②

「キツツキがおる、キツツキ」

 黒マキは初めて見るリュド王国の風景に目をぐるぐると回していた。

 クチバシの長い鳥が木を彫っている。

「あれは「3Dプリン鳥」ですわ。木とか石を掘って仲間のデコイを作る習性があるのよ」

「器用なヤツやね」

「図面を見せたらその通りに作ってくれるのよ」

「かしこい。あっちはなんがいね」


 往来で台車を引いているのは、四足で歩く角の生えた全長2メートル程の動物だ。

「あれは「ベコル」、この国では一般的な家畜ですわ」

「うまそうやね」

「食用にもするけど、力が強いから荷物の運搬とかにも活用されてますわ」

「へぇぇうまそうやね」


 二人は高級店の並ぶ屋根の高い高いガレリアを通り抜けて、路地裏にある小汚い店に入った。

 中は小汚いカウンター席があるだけだ。

「小汚い店やち」

「ここは小汚い店だけど味は確かですわ」


 出て来たのは米に肉を小汚く盛り付けた食べ物だ。

「これは……」

「牛丼ですわ。庶民的な味付けですが味は確かですわ」

「これがこの世界の牛丼」

 少し硬めの食感だが脂身が少なくあっさりとしているが力強い旨味の肉、それがこの牛丼の違和感だ。

「か、何の肉け」

「何ってベコルに決まってますわ。牛丼と言ったらベコルでしょう」

 ベコルはリュドの食文化に深く根付いているのだ。米はパサパサさしていた。



 食後はリュド王国の名所観光をする事にした。アクロス明太子工場へ見学に来た訳だ。

 ここは明太子の製造工程を見学した後、試食や買い物まで出来るリュド王国でも屈指の人気観光スポットである。


 ルツィアとミレミヤもそこで明太子作りをしていた。

「なにしてるんです、あなた達」

「むっ、今朝お会いしたお嬢様」

 ミレミヤは明太子を握りつぶしてしまった。

「私達は冒険の先で保存食を作る方法を模索してるんですよ」

 ルツィアが凄まじい速さで明太子の傷を検品しながら言った。

「姫様、この明太子は冒険の食料として持って行けるよう、国王に提案しておきましょう」

 二人は真面目に仕事で来ているのだ。遊びではない。


 一方で黒マキは早くも試食を食い荒らしていた。

「それにしても、明太子だけやなんご飯も欲しい」

「そんな人のためにフランスパンとご飯は常備されてますわ」

 ファブリーゼが近くに置いてあった宝箱を開くと、炊き立てご飯が湯気を立てて待っていた。

「米がパサパサしとる」


「そこのあなた、随分と変わった服を着ていますね」

 ミレミヤが目をつけたのは黒マキの着ていたジャージだった。

 どうもこの国の住人には珍しい服らしい。

 ミレミヤもかなり気になるようで、ジャージの袖を引っ張ったりしている。

「なかなか丈夫で動きやすそうな材質ですね。何で出来ているのでしょう」

「しらん」

「防御力はそこまで高く無さそうだが、そこは魔法でなんとか補えないものか。ラクノス先生にも相談しなくては」

 ずいぶんとジャージが気に入ったらしい。

「姫様、これを冒険の際の装備として正式採用しましょう」

「ええっ」

 後にミレミヤの提案は採用され、魔法で強化したたジャージが量産、勇者一行に装備品として支給されたらしい。


 再三述べさせていただくが、二人は真面目に仕事で来ているのだ。遊びではない。

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