第4話 富山から来た女①

 全て失敗した。


 ファブリーゼの企みがである。

 いまいち思っていたやつと違うのが転生して来た。


 そのまま返すのもあんまりなので、とりあえず応接室に黒マキを通す。

 サタケは気を効かせてお茶を出した。

「どうぞ天然ガス入りミネラル麦茶です」

「きのどくな(ありがとう)」

 黒マキは一気にお茶を飲み干して

「もう一杯」

 なかなか豪快な人物である様だ。


「ところであなた、もしやパパスとか言う国からやって来たのではなくて」

 もしもそうなら、ルツィアを出し抜いた気分になれるとファブリーゼは思った訳だ。

「なんなんなん、私は富山から来たが」

「トヤマ??知らない土地ね。パパス人で無いのは残念だけど、とりあえず本物の異人さんみたいね」


 ファブリーゼのイメージの中の転生者は、目が三つあったり、大剣を携えた半裸の男だったり、身体が機械で出来た税理士だったりするので、黒マキの姿はかなり普通に見えた。

 農村を探せばわりといそうな風貌である。


「でもその青い服は合格ですわ。この国には無いモノですわ」

「服って学校のジャージけ」

「そう、鶴皇のジャージーって言うのね。でもまだ少し地味ですわね…………そうですわ」

 何か思いついたのか、ファブリーゼは部屋から飛び出していった。


「あのぉ異人さん、召喚されたのに凄く落ち着いてますね」

 サタケがずっと気になっていた事だ。

「そうけ」

「はい、普通召喚されて来た人って、異世界に来た驚きで鼻炎とか目のかゆみ、鼻詰まり、酷い人だと頭痛になったりするものですよ」

「ここ異世界なんけ」

「はい、ここはリュド王国。あなた達の住むトヤマとは別の世界かと」

 黒マキは鼻水を出した。

「気づいて無かったんですね」

「夢の中やち思ってた」


「遠い一家より近いメイド〜」

 とりあえずメイドかるたでサタケと時間を潰していると、ファブリーゼが何かを持って戻って来た。

「さあ、これをつけなさい」

 黒いマントであった。

「かゆい」

「おおっ雰囲気出ますわ。それからこれを持って」

 手渡されたのは刀剣の様だ。鞘や柄に金細工がされていてきらびやかである。

「良いっ、異人さんらしくなってきましたわ」

「そういうもんけ、ふんっ」

 黒マキは刀を抜いてぶんぶん振り回している。

「さて、らしくなったところで参りますわよ」

「どこへ」

「みんなに自慢するのですわぁ」



 黒マキが連れて来られたのは近所の空き地だった。

 寝かした土管の上に二人は並んで立ち、その周りを近所の子供達が取り囲んでいる。

「暗黒邪龍界から来た魔神クロマキウスですわ」

「えっ」

 ファブリーゼの演出は少し大げさなところがあった。

 しかし、子供達の目も昨今は肥えているようで

「その人、異人さんなの??」

「見た感じ普通ですね」

「暗黒邪龍界ってうな重より凄いのか」

「偽物ね」

「だろうな。それよりイワンモールでも行こうぜ」

 とあまり信じて貰えていない様子だ。すぐに飽きられてイワンモールに行ってしまった。


「そういえば、私ってなんのために召喚されたんけ」

 黒マキは去っていく子供達を見送りながら尋ねた。

 もちろん意味など無い訳で、あるとしたらファブリーゼの見栄のためでしか無い。

 だが、ファブリーゼはなんとなく言いづらかったので

「それはあれよ、いずれそのうちきっといつかわかる時が来たらわかるわよ。それより、ご飯でも食べに行きましょう」

「おおっ行く、行かんまいけ」

 今はまだ誤魔化しておこうと思った。


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