第2話 闇の転生②
石畳の街道をファブリーゼとサタケは街はずれへ向かって歩いている。
プライドの高いファブリーゼの自尊心はひどく傷つけられたようで
「それにしても腹が立ちますわ。転生だか召喚だかなんだか知りませんけど」
「国家の一大プロジェクトですからね」
「知った事ですか。そうだわ、いい事を考えましてよ」
こういう時のファブリーゼはロクな事を考え付かないってサタケは知ってる。
「一応聞きますけど」
「あのお姫様が召喚の儀式を行う前に、このわたくしが一番に異世界からの召喚を成功させるのですわ」
「ほらこうだ」
サタケはぼやいた。
「それでわざわざ異世界から転生者を呼び寄せてどうするんです」
「そこは特に考えてなかったわ。まあ、お茶でも飲んで帰って貰えばいいかしら。とりあえず意味が無くても転生して来てもらいたいのですわ」
ファブリーゼはルツィアの先を越せれば後はどうでも良かったのだ。
「そうと決まれば召喚成功の記念碑をおじいに建ててもらわらないと。そうだ、ちょうどそこに「アイスのあたり棒を引いた記念碑」があるでしょう。その隣に建てましょう」
ファブリーゼの言うおじいとはゴールドパーク家の用務員兼庭師兼菜園管理人をしている老人である。サタケと同じくファブリーゼのわがままに振り回される役回りで、この街にあるファブリーゼの記念碑も彼が建てた物だ。
ここでサタケは根本的な問題を提示する。
「あのですねぇ、だいたいそんな闇しかない転生術を誰がどうやってやるんですか」
「それはあれよ…………おじいがなんとかするわ」
「可哀想なおじいさん」
偏差値の低そうな会話をしている内に二人は街はずれの大邸宅の前まで来ていた。
ここがゴールドパーク家の邸宅だ。高い門と生垣の奥には水の出ている噴水があって、さらにその奥に宮殿のような建物がある。中には全室ミラーボールが完備され、風呂は三つあるしトイレは五つもあるらしい。
ゴールドパーク家は古くから金細工や宝石などを取り扱い、近年はもっぱらミラーボールの製造販売を生業にしている商家。というのは表の顔で、リュド王国の裏社会でも色々となにかやってるって噂だ。
という訳でそこの一人娘のファブリーゼは金持ちなのだ。大体の事は金でなんとか出来る。例えば異世界転生者の召喚とか。
「できるよ」
庭の木を剪定していたおじいは言った。
「出来るんかい」
サタケは思わずひっくり返ってしまう。
「ほら、おじいに任せておけばいいのよ」
「おじいさん、いくらお嬢様のためとはいえ無理な事は無理だと……」
サタケはおじいの脚にしがみつくが
「まあ大丈夫だろ……」
などと楽観的な言葉を返されるばかりで。
「じゃあさっそくやりましょう」
「これ切ってからね」
おじいは再び木の剪定を始めた。
「メイドも木から落ちる~~」
「はいっ」
メイドかるたでサタケと暇を潰すこと一時間。
「さて、やりますか」
庭の手入れを終えたおじいが戻って来た。
「待ってましたわ」
二人はおじいに連れられて地下の階段を降りていき、古びた鉄の扉が目の前にある。
「うちにこんな場所あったかしら」
おじいが扉を開けると中に痩せた男がいて
「混ざっちまったんだよぉ、なぁピラフとパエリアが一つに混ざっちまったんだよぉ」
って言いながら皿の上のライスをピンセットで仕分けている最中だった。
「先客がいたか」
おじいは扉を閉じた。
「えっ誰!?」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫なの!?」
おじいが今度は隣の部屋の扉を開けると、中はカビ臭くて真っ暗な石造りの空間だ。
「アレクサ、光よ」
おじいが唱えると天井のミラーボールがきらきらと回り出した。
「どうだ明るくなったろう」
「おじいって本当に器用ね」
「これは魔法なのでは……」
なにも無いと思っていた部屋だったが、床には赤いなにかで図形のような線が引かれている。これは魔法陣というやつだ。
それも三角が横に二つ重なって並んだ模様で、ファブリーゼの見た事もない魔法陣だ。
おじいがそれにそっと触れる。
その時、部屋に女が入って来て
「ハニートーストとフライドポテト盛り合わせお持ちしましたぁ」
「あっそれ隣の部屋の」
「失礼しましたぁ」
出ていった。
「えっ誰!?」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫なの!?」
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