第25話 僕のはじめて

彼女に出会ったのは中学1年の夏休みのことでした。



部活にも入っておらず、私立の中学校でエスカレーター式に進学するため、受験前だからと塾や予備校の夏季講習に通わなくてもよくなり、だからといって山のように課された宿題に手をつける気力もなく、だらだらと一日過ごしていました。


両親は「受験疲れで気が抜けたのかしら、ゆっくり休んだら」などと優しくしてくれて昼夜逆転の生活をしていても、何も言われませんでした。




あの日も、僕は明け方近くまであてもなくネットサーフィンをしたり、掲示板を見ていたので、寝ようと思ってベッドに入った時は、もう空が薄明るくなっていました。




目を閉じてうとうとしていると、不意に耳鳴りがしてきました。生活が不規則になったせいかと思いましたが、身体が動きません。


指一本動かせませんでした。


しかし意識だけははっきりしていて、両目だけは自由に様子をうかがうことができました。部屋の空気が、妙にざらざらと粒子が粗いような気がしました。



ふと、腰から下に違和感をおぼえました。身体が動かせないので精一杯両目を動かして見てみると、彼女が僕の上に、またがるようにして座っていたのです。髪の毛は長く、僕よりも年上で薄紫色のワンピースを着ていました。丸く小ぶりな乳房と、細いウエスト、裾から伸びる太ももに、僕は自分の置かれた状況を忘れて、興奮しました。


彼女はにっこりと笑い、僕の上で身体を上下に揺らしました。すると腰から下がしびれるような気持ちよさと、柔らかさに包まれました。未経験の感覚に、僕は声にならない叫びを挙げました。




それから毎日、僕が眠る頃になると彼女は金縛りとともに部屋に来て、僕にまたがり同じ動作を繰り返しました。僕は彼女を心待ちにして、夏休みを過ごしました。




新学期がはじまり、授業や文化祭など、めまぐるしい毎日に追われるにしたがって、彼女は僕のところにだんだんと現れなくなりました。最後にふたりが、その行為を終えたあと、彼女は僕の右手首にくちづけをして消えてしまいました。


ふたりがおこなっていた行為の呼び名を、僕はあとで知りました。経験したいと騒ぐ同級生たちは、様々な幻想を思い描いていました。僕は、同級生への優越感と同時に、誰よりも早くその行為と、気持ちよさを知ってしまったことが恥ずかしく、ずっと秘密にしていました。




もうこれで、僕が恋人を作らない理由がおわかりいただけたでしょう。彼女は僕の理想であり、僕の全てでした。今でも色あせることはありません。


彼女が右手首にのこしたくちづけの跡は、僕がこっそりと部屋で、ひとりで済ませるときに、あの頃に味わった気持ちよさをよみがえらせてくれるのです。




だから、僕はとても幸せなのです。

たとえひとりぼっちでも。



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