第8話 俺の家
ふわり、ふわり、気付けばここで
するり、するり、気付けばここで
にくい、にくい、何が憎い
殺せ、殺せ、楽しい嬉しい
今日は だれと 遊ぼうか
綺麗な妻と、可愛い娘
優しい母に、賢い上司
楽しい日々が、回って回って
ああ、俺は忙しい
忙しいけど楽しいな
ああ、俺は幸せだ
このままずっと、続けばいい
突然消えた 全部が消えた
俺の体は投げ出され
強く強く打ち付けた
痛い、イタイ、といいながら
嫌だ、イヤダ、といいながら
俺は、俺は、這いずりまわって
ああ、ただいま、俺の家
今日は何があったのか
楽しい話を聞かせておくれ
何かおかしい、俺の家
暗い、暗い、俺の家
皆が俺に、背中をむける
おかえりの声はきこえない
どうして、どうして、俺をみない
どうして、どうして、聞こえない
どうして、どうして
どうして、どうして
どうして、お前らは生きている
どうして、俺は死んでいる
ああ、寂しいな、俺一人
ひとりで皆をみてるだけ
愛する妻よ、そいつは誰だ
愛しい娘、そいつは違う
優しい母よ、忘れたか
俺は、僕は、ここにいる
みえなくたって、ここにいる
そうだ、いいこと考えた
みえないならば、みせればいい
ゆっくり、ゆっくり、手にかける
細い、白い、首筋に
綺麗な瞳が俺を見て
大きく、大きく、開かれた
俺を、俺を、みてくれた
やっと、やっと、みてくれた
可愛い瞳が俺を見て
小さく、小さく、呟いた
ああ、その通り、おまえのパパさ
優しい瞳が俺を見て
見据えて小さく息をのむ
さあ、おもいだせ、俺はいる
静かな、静かな、俺の家。
結局俺は、またひとり。
おかえりを待つ、俺ひとり
寂しい、寂しい、家族がほしい
寂しい、寂しい、俺をみろ
寂しい、寂しい、きいてくれ
家は、だんだん暗くなり
家は、だんだん朽ちていく
ああ、悲しいな、俺の家
だけど最近楽しいな
客人がくる、俺の家
暗く、壊れた、俺の家
馬鹿で、明るい、笑い声
客人には、もてなしを
その目に何を映してほしい?
大きく、大きく、見開いた
その目に何かを思い出す
いない、寂しい、家族が消えた
そうだ、そうだ、家族を作ろう
逃げないでくれ、きいてくれ
おかえりが欲しい、それだけだ
ゆっくり、ゆっくり手にかけて
君を、家族に迎えよう
ああ、楽しいな、俺の家
ふわり、ふわり、気付けばここで
するり、するり、気付けばここで
たくさん、たくさん、家族ができた
殺せ、殺せ、家族を増やせ
ああ、楽しいな、俺の家
今日は だれと 遊ぼうか
夏の宵の、一つの家の
寂しい、寂しい、男の話
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます