第 四 章 崩壊のPreリュード
第十七話 目覚める悪夢Ⅱ
2004年8月16日、月曜日、3時59分AM ~
私は今頃になってまたあの夢を見ていました。
それはある夏の出来事、未だ幼さを面影に残す少女が街を一望できる高台の丘で大きな木の木陰で座りながら街の景色を眺めていた。
少女は可愛らしく彼女の背の中程まで伸びた髪をくるくると弄りながらその待ち人の来るのを待っている。未だ来ないその幼馴染みみを思って彼女は、
「フゥー、遅いなぁ~貴ちゃん」と小さな溜息を吐きそう言った。
〈別に時間を決めて約束したのではないからしょうがないね〉
心の中で自分に言い聞かせた。そして、どこからか時刻を刻むチャイムが鳴る。しかし、何時を示しているのかは判らない。
それと時を同じくして私の待ち人が私に声を掛けてきた。
「しおり、遅れて、ごめんよ」
「アッ、貴斗君、そんな事ないよ、だって私がちゃんと時間を決めなかったのがいけないんだもん」
「でも、ヤッパリ、しおりを待たせちゃったから・・・、ゴメン」
「貴斗君、だから謝らなくていいってばぁ~」
「ゴメン、しおり」
「判ったわ、ゆるしてあげるね」
「しおり、ボクに大事な話しってなんだい?」
彼はここに呼び出された事に対してその質問を私に投げかけてきた。顔をほんのり紅く染めモジ、モジと身体を蠢かせながら恥ずかしそうに口にしたの。
「タッ、貴斗君、あっ、あのねぇ、今から大事なお話しするから、ちゃ、ちゃんと聞いてね」
一呼吸してから私は彼に告白しました。
「私、ずっと前から貴斗君の事、スッ、好きだったの。だから幼馴染みなんて関係もうイヤ!私だけを見ていて欲しいの・・・」
そこまで言うと私は顔をさらに紅潮させ彼から顔を背け彼の言葉を待った。
「ごめん、しおり。今、ボクそれに答えられないよ」
彼に振り返り不安の表情で聞き返した。
「貴斗君、どうして、どうしてそんな答え方するの?」
彼の言葉に動揺を隠し切れなかった。
「今のボクにはなんて答えていいのかわからないけど。しおりもカスミも僕の大事な幼馴染みだから、ソンナ事、決められない。それにぼく・・・ぼくは・・・、行かなくちゃならないから」
「えっ、今なんて言ったの?でっ、でもジャァ、いつだったらその答えを聞かせてくれる?」
「・・・わからない。あぁっ、僕、もう行かなくちゃならないから、ジャアネ、しおり!」
「あっ、待って、貴斗君」
彼は中途半端な答えと私をそこに残し丘の上を逃げるように駆け降りながら行ってしまった。
その夢の終わりでハッとなって目を覚ます。・・・夢ではないそれはリアルな過去の記憶。
「あつぅ~~~っい」
そう口にしましてから胸元を『パタ、パタ』と仰ぐのでした・・・。暑さは一層増してしまう。布団から出ますと扇風機の前に座りまして電源を入れる。
静かにファンが回転しまして、幾分ましな風が吹き付けてきたのです。先程見ました夢を思い出してみる。
昨年と同じくらいの時期に同じ夢を見てしまいましたわね。しかし、今回はさらにその鮮明度を増していました。
彼の最後の言葉 『・・・わからない』。
それは彼が本当の意味をお隠しになって言いました言葉。その本当の言葉とは・・・・・・、『受け入れられない』。
今風の貴斗のお言葉をお借りしましたら『否!』です。どうして、そう思うのかしらって?若し、私の女の勘が当たっていますとすれば、それは香澄と言いますもう一人の幼馴染みの女の子の存在です。
小さい頃から彼は彼女と私に分け隔てなく優しく接してくれました。分け隔てなくです。
ですから、片方の女の子だけを大事にするような事を彼には絶対出来なかったのだと思うのです。それに付け加えまして彼は私や香澄に渡米する事を隠していましたから、何時、日本にお戻りするかまったく見通しがないようでしたから、私の想いにちゃんとした答えを返してくださらなかったのではと今では思うのです。
それとも他に何か別の理由でも有ったのでしょうか・・・。しかし、今、彼は私の大事な恋人。
過去の記憶のない記憶喪失の恋人。
若し、彼が普通の状態で帰国し私に再会していたら・・・、彼は私の事を受け入れてくれたでしょうか?
答えは・・・。嫌です、想像したくはありません。
香澄の事も私の事も異性として見てくれるでしょうけど一人だけの愛しい女性とは見てくれない。
唯の〝大事な幼馴染み達〟としてしか、彼は私達を見てくれないでしょう。若し、彼が記憶を取り戻したら彼と私の今の関係は・・・。
「イヤ、イヤ、いヤ、絶対嫌、ソンナ事」
心の中に過ぎりました不吉な思いを振り払いますように強く頭を振ったのです。
「ハァー、よくお考えしましたら、私の口調、あの頃と比べますと随分と様変わりしてしまったようですね・・・・・・、それは今の貴斗もそうなのですけど・・・」
一つの不安を打ち消したく思いまして、その様などうでもよい事を独り口にしたのです。
いつの間にか、私の部屋に朝の光が射し込んできていました。
今日と言います一日が始まる事をお告げするように。
早朝の嫌な事など心の奥に閉じ込めまして、今は貴斗の隣に座っています。病院に向います運転中の貴斗の車の中での会話で彼にお願い事をお聞かせする。
「ネェ、貴斗、約束してくださいます?」
「何を?」
「辛い事があったら、私に言って欲しい、相談して欲しい。自分で何でも解決しようと思わないで。私に頼って欲しいの!」
それは切実な願いでした。
彼は昔からどんなに思い悩んでもそれを自分で解決しようとする事を思い出しましたから・・・・・・・・、それと夢の中で嫌な過去の記憶を見ました事で。
幼馴染みの私や香澄にもそれに彼のお兄様お姉様、翔子さんや龍一さんにも殆ど相談する事が無かった。
昔の私は心も幼く、彼に甘えているだけでしたからその様な貴斗の一面を気にも留めていなかったのです。でも、今は違います。私だって歳とともに精神的に成長しているはずでした。だから私に頼ってもらいたい。そんな私の気持ちを彼にお伝えしていた。
「貴斗から見たら・・・、私なんて頼り無い女の子かも知れませんけど」
総ての不安を押し殺しまして、優しく穏やかに彼にそう最後に口にいたしました。最後の語尾は少し弱々しくなってしまいましたけど。
「そんなこと無い、お前を頼りにしている。詩織、約束する」
「本当にですか?」
「あぁ」
彼がそうお返しして下さいましたので顔には出しませんでしたけど、心はすごく安定しました。
ですが、まだまだ私は彼の事を理解していませんようでこの時、彼がどうお思いしていたのか見透かす事さえ出来ないままでいるのでした。
私達は病院に到着しますと車をパーキングに止め、そこで車から降りるのでした。
「皆、もう到着なされているのでしょうか?」
「さあねェ?・・・、・・・、・・・、他の連中、来ているかもナ?」
「どうしてですか?」
「それ見てみな」
彼は顎で一台のお車を示してきました。
「これですか?」
彼にそう言われましたのでその車に近付いたのです。・・・・・・・・・?見覚えのある車。
「これ、八神君の車!?」
「何でそう思うんだ?」
「だって何度か乗せて貰った事ありますから、ナンバープレートも私の覚えているもでありますし・・・。それに・・・」
彼に私は目を背ける様な感じでお答えを返しました。
「それに?」
彼が聞き返してきましたので指でチョン、チョンと八神君のお車の助手席のドアを指したのです。彼はその凹みを確認しました。
「これ、お前がやったのか?」
「ナハハッ」と苦笑することしか出来ませんでした。
「ナハハッじゃない!ナハハッじゃ!!」
私が苦笑していますと彼は私のオデコにデコピンをくださったのです。
「痛ぁ~いヨぉ、貴斗ぉ」
貴斗は手加減してくださいませんでした。本当に痛かったので涙目になってしまう。
「ハァァ~~~、行くぞ!」
そう言いますと彼はご機嫌斜め中の私の手を取りまして引っ張っるのでした
「ムゥ~~~」
「拗ねるナッ!お前が悪い」
彼は軽く私を諭してきました。
彼が正しいのは判っているのですけど、どうしてか私は彼に突っ掛かってしまうのでした。彼と共に春香の病室へと小走りで移動したのです。
― 春香の病室の前 ―
「貴斗、どうしてそんなに躊躇しているのですか?」
ドアの前で立ち止まったままの彼に私はそうお尋ねしました。
「違う、俺は皆と違って役者じゃない。三年前と同じに出来るか心配なんだ」
彼らしい答えをお返ししてくれるのですが強く促しますように彼の手を引いて入室しました。
「こんにちは、春香ちゃん、遅れてごめんなさいね」
そうご挨拶しながら病室を確認しますと最後に到着したのは私達の様でした。
小声で押し黙っています彼をお呼びしました。それにちゃんと彼は小さくお答えをくださるようでした。
「努力する」と。
「ウフフッ、二人とも如何したの?ヒソヒソ何ってして?」
「ハハッ、なんでもない。遅れてゴメン、涼崎さん」
出来ます限りの演技をして、みんなの会話に合わせました。
暫くして急に貴斗の表情が一変してしまうのです。なんとなく不吉な予感。
喜劇ではなく悲劇の銀幕が昇ろうとしていました。
「ワァーーーッハッハッハッハ、アァーーーッハッハッハ、アッハハッ!?」
突然、貴斗は恐ろしく不可解な笑い声をお上げになったのです。
その彼の行動に私は居竦んでしまいました。
私は他の皆様と違いまして直ぐに声を出す事が出来ないのです。
「如何したのよ、急に大声を出して笑ったりして?」
「気でも狂ったのか?」
「何だ、急に」
「貴斗さん何か悪い物でも食べたんですか?」
「ハハッ、これが笑わずに居られるか!」
「貴斗!アンタ、いったい何を企んでるの?」
「フッ!企む?何も企んでないさ。こんなぁ、茶番、付き合ってられるか!」
彼は不敵な笑みを浮かべ、その様なこの場をお崩しになるような暴言をお吐きになったのです。
「貴斗君!」
彼の行動を制止しようと思いまして、ようやく彼の名をお叫びすることが出来たのですけど。
「黙れッ!」
その様な彼の凄みがありますお言葉に恐れ戦き恐怖で涙が出てしまいました。
「お前なぁーっ!」
柏木君はお黙りしたままでしたが八神君だけが貴斗にそうお言いになったのです。
そのお二人は冷徹になってしまわれた貴斗を非難するかのよう鋭い視線を投げかけていたのです。
「何だ、お前らその目は?」
春香は呆然となすがまま、翠ちゃんは私と同じく怯えて何もいえない状態。
「お前ら、本当にこれでいいのか?こんな状態の彼女を見て何とも思わないのか?嘘、偽りの中に何があるってんだ!こんなこと、ずっと続けて春香さんは本当に嬉しいと思うのか?俺は・・・、おれは・・・、潰れそうだ。答えろよぉーーーーーーーーっ!」
〈貴斗、矢張りあなたはその様に思われていましたのね〉
いまだに竦んだままの私はその様に心の中で呟く事しか出来なかったのです。
「タッ、貴斗君、何を言っているの、私には分からないよ!」
彼の叫びの声の意味がお分かりにならないようで春香は目に涙を浮かばせてきたのです。
「春香っ、お前、今まで俺を〝貴斗君〟なんて呼んだ例あるか?」
〈貴斗、貴方だってそうじゃないですか、どうして春香の事を名前で呼ぶのですか?女の子にとって名前は特別なの。好きでもない男の人に名前なんて呼ばれたくはないのですよ!〉
二言三言、貴斗が暴言をお言いになりますと不気味な静寂が辺りを支配したのです。しかし、その静寂を終わらせになったのも貴斗、彼でした。
彼は何かを持ち出してゆっくりと春香の所へと歩み寄ろうとしたのです。
彼の手にお持ちしていますのが何でありますのかお分かりになったのは八神君と香澄だけです。
やっとの事でして、私もそれが何なでありますのか理解しました。ですけど、いまだに気が動転して身動きが取れない状態。
後数歩で貴斗が春香の所までお辿り着いてしまいますその時、どうにかして金縛りを解き放ちまして、私は彼の前に出ましてそれを食い止めさせて頂こうとしました。
「貴斗ぉ、やめて頂戴ッ!」
彼にその様にお叫びし、進行を止めようとしましたが、
「邪魔だ、どけ」と低い声で言い放ちまして、それとほぼ同時に私を弾き飛ばして下さったのです。
「キャッ!」
〈やぁーーーー、たかとやめてぇーーーーーっ!〉
突き飛ばされてしまいました私はその様な言葉を最後、心の中で叫び気絶してしまったのです。
御願い、誰か止めて、貴斗を止めて、今、彼をお止めしないと何か、何か取り返しのつきません事が起こってしまいそうな気が・・・、その様に思えて。
気を失っています最中、彼を春香のお見舞いへとお連れするのではなかったと深く後悔してしまうのでした。
* * *
事実それは起きてしまっていました。
私が気絶から、目を覚ましますとそこには調川先生と幾人かの看護婦がお駆けつけしていたのです。
貴斗の何かした行為で春香は苦しみ出してしまった様なのです。
私達は調川先生の命で外へと追いやられました。
貴斗は柏木君のお呼びします声に一瞥しますと私達を無視しまして、この場を立ち去ろうとしました。
「まって、貴斗どこへ行くのですか!」
そう言葉に残しまして、彼の後を追うのでした。そして私に続くように他の皆様も何かを口にしますと足をお動かしになられました
貴斗を追いまして私達は病院玄関前の芝生へと出ていました。その場所で彼は歩みをやめたのでした。
「・・・病院内では静かに。ここなら、大声を出しても平気だろ」
病室のときの態度とは打って変わりまして、彼はその様な至って冷静で静かな声を私達にお聞かせしてくださったのです。
「お前ら俺に言いたいことあるんだろ」
「説明しろよ、何であんなことしたんだ!」
「・・・、説明?慎治、それなら病室内で言ったはずだが?それとも、もう一度言って欲しいのか?」
「ああいう事するにもタイミング、ってのがあるでしょ!」
「タイミング?それはイツだ?それは、明日か、明後日か?1年後?10年後?何時なんだよ、いったい。隼瀬、そんなこと、言う割に俺がとった行動一度も止め様としなかったな。あれか?もしかしたら彼女また意識不明になり、宏之が自分の所に戻ってくれるとでも思ったのか?」
貴斗は香澄にその様な惨い事を言い放っていました。
〈どうして、貴斗アナタは香澄の事を分かってあげないの・・・、どうして・・・、どうして〉
香澄は私にとって貴斗と同じくらい大切な人。
ですから彼が彼女にお言いになった言葉を許せないのです。だけどそれを口にしてしまいました時、貴斗の私を見る目がお変わりになってしまうのではと思えまして何も言葉にする事が出来ないのです。言葉に仕様か仕まいか悩んでいます時、香澄はお言葉を一瞬、詰めてしまっていました。ですが、彼女は直ぐに反論するのです。
「アンタが記憶喪失じゃなかったらこんな風にはならなかった!」
香澄は何を思いましてその様にお言いになったのか〝記憶喪失〟を口にしたのです。
「ホォ~、自分でやった事を俺の所為にするのか?俺の記憶に何があるって言うんだぁ!」
「貴斗!いい加減にしてください、香澄の気持ち、考えたことあるのですか?」
これ以上、貴斗の香澄に向けますお言葉が許せなくなりましてついに私は彼をお諌めしますようにそう言って差し上げたのです。
だって、彼の記憶が香澄や私に大きく影響しているのは明白なのですもの。しかし、私のそれは効果を見せず、
「考える余地など無い!」
と貴斗はハッキリとそうお答えしました。
彼がそう言いますと八神君と柏木君が鋭い視線を彼に浴びせました。
「何だ、その目は俺と殺り合おうっていうのか?手加減しないぞ」
貴斗はお言葉とご一緒に御二人を挑発するように武術の構えをお取りになったのでした。
「テメェ~、いい加減にしろーーーっ!」
柏木君と八神君、そのお二人は貴斗の挑発に乗ってしまい彼に殴りかかってしまったのです。
「二人ともやめてぇーーーッ!!!」
私のそのお言葉に八神君だけが一瞬、怯み一度だけ貴斗をお殴りするとその動きを止めてくださいました。ですが、柏木君には届いてはくれません。
「やめて、止めてよ、柏木君!お願いです止めてください!私の貴斗にそんなことをしないでえぇぇっぇえっぇえっぇえ!!!」
柏木君の名を何度も強く叫んだのですが、彼の行動は一向にとまってはくださいません。
これ以上、貴斗が、お殴られになる姿を見たくないと思いまして、彼の楯になろうとその場を動こうとしましたが脅えてしまいました身体は言う事をお聞きして下さらなかった。
何故その様にするのかまったく理解できませんでしたが、貴斗は柏木君の行為からお避けする事も身をお護りする事もなく全てを受け入れていたのです。
「宏之ッ!いい加減にしなさい」
香澄も彼の行動を止める為にそうお言葉にするのですがそれでも柏木君は止まっては下さらないのです。
そうして、八神君がついに動き出してくださり、柏木君を力ずくでお止めになって下さったのです。
貴斗、彼は全身痣だらけになり、その場にお倒れになってしまいました。
「貴斗ッ!」
やっとの事で身体の自由を手に入れました私はそう彼の名を叫びまして、彼の所に駆け寄ろうとしたのですけど香澄が私の腕を掴できました。
「そのままにして置きなさい」
「カスミッ!どうしてその様な事を申すのですか!」
「そこで少し頭を冷やして貰った方がいいわ、彼の今日の行動は唐突過ぎる」
「取り敢えずこの場から離れた方がいいわね、行きましょう」
「行きましょう?行きましょうって、何を言っているの?香澄。貴斗を置いていける訳ないでしょう!はなしてよっ、かすみっ!」
香澄に私はそう言いましたけど彼女は私の腕を強引に引っ張りそこから歩き出しました。
貴斗をこの場に残す事などできるはずもありません。ですから、私は香澄に逆らうようにその場に踏み止まろうとしました。しかし、私も力はある方ですが彼女の比ではなく、ずるずるとその場から離されてしまうのです。
「放して、放してったら香澄!たかとぉ、タカト、貴斗ぉーーーーーーーーーっ!!!」
そして、どれほど、どれほどに香澄の私を引く力に抗っても勝つ事は出来ず、彼女に連れられまして、家まで強制送還させられました。貴斗をその場に置き去りにして。
香澄に監視されますこと約一時間。
彼女は貴斗があの場にソロソロ居なくなってもおかしくない頃に言葉を掛けてきました。
「ごめん、しおりン、監禁するようなまねして」
「香澄のバカ、馬鹿、ばかア、莫迦ァぁぁぁあぁーーーーーーっ、何であんなコト言うのよ、なんでアンなことするのよ、貴ちゃんになんかあったら、ゆるさないんだから、かすみのばかぁ~、ふワァああぁーーーっ、ハァあァワァ~~~」
言葉も幼稚になってしまいました私はその様に彼女にいいますと彼女の洋服にしがみつき、大声で泣き喚いてしまったのです。
その様な姿の私を香澄は強くお抱きしめになり、私の頭を慈しむ様にお撫でになるのでした。
「私だって、貴斗の事、心配してないわけじゃないわ」
彼女は切なげなお声と本当に済まなそうに表情に蔭りをつけながら私に謝ってきたのです。ですがその様な彼女のお姿を香澄の胸に顔を埋めています私には確認できません。
貴斗の行動を止められませんでしたから、強く香澄を責める事など出来るはずもなく。それに私はそれだけではない、こうなる事を予感めいていたのに止められなかったのです。
私にとっての悪夢がその兆しだったのでしょう。
命一杯、香澄の中で泣きじゃくった私はいつしか平静さを取り戻していたのです。ですから、香澄に言葉をおかけする事にしました。
「香澄、その様な顔をしないで、私、香澄の気持ち、わかっている積りだから。辛いのはわたくしだけではありませんものね。香澄だって・・・、ですからもうその様なお顔をお見せにならないで」
* * *
それから、さらに時間が過ぎまして、香澄も私の家からお帰りになりました。
私はと云いますと貴斗に電話をお掛けしている処でした。
『お客様のお掛けになりました・・・・・・・・・・・・』
「やっぱり繋がりません」
何度も、何度も貴斗の携帯電話それと自宅にお掛けしましたけど全く繋がらなかったのです。彼はどこへ行ってしまわれたのでしょうか?私、貴斗の恋人失格ですね。
どうしてあの時、貴斗を置いてきてしまったのかしら?
たとえ、元親友のためと思いまして、どうして春香のお見舞いになんか彼をお連れしてしまったのか・・・。
気分が滅入ってきてしまいます。
『ピロロロロッ♭』
不意に携帯電話の呼び出し音がなったのです。
誰からかしら?私はコールIDを確認せずに電話に出ました。
「もしもし、詩織ちゃん?」
「翔子お姉さま!如何したんですかいつもなら家の電話にお掛けして来ますのに」
「驚かないでお聞きしてくださいね。実は・・・・・・・・・」
翔子お姉さまのお話を聞いてしまった時、私の眉間に必要以上に皺が寄ってしまっていた、如何していいのか分からなかった。
どんどん嫌な方向へと事が運ばれてしまっていたのです。
「今から病院へ行きます!」
翔子お姉さまの言葉を聞いて居ても立っても居られなくなりそう応答をしていました。
「無理なのですよ、貴女は中にお入りする事は叶わなくてよ」
「どっ、どうしてですか?」
「貴斗ちゃん、今ICU室に・・・・・・。ご家族以外入室禁止と言う事になっていまして」
「そっ、そんなぁっ」
お姉様のそのお言葉を耳に入れてしまったときは愕然としていまいました。
「ですが私とご一緒なら大丈夫ですから、ご一緒に行きましょうね、詩織ちゃん」
お姉様は私の気持ちを理解してますようでそう言葉を綴って下さったのでした。
即答で彼女の言葉に返事をしまして、静かにお眠りになる貴斗の病院の病室へと向いました。
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