第九話 私の進路

~ 2004年4月26日、月曜日 ~


 無事にどの単位も落とす事無く大学三年生へと進級。

 今、人のまばらな大学内の第二図書館であと約三週間と差し迫りました司法試験―短答試験に向けまして必死に勉強をしています。どうしても今年中に司法試験に受かりたかったので。その理由は・・・、


2004年、元旦


 今年の神社の参拝は翠ちゃん、翔子お姉様、貴斗、それに加えまして八神君とそのお姉さまの佐京様とおまけで私の弟の響。その様な大所帯となっていました。

 騒がしいかったのですけど、とても楽しい参拝となりました。

 お賽銭のおり、いまだ記憶の回復の兆しを見せることがありません貴斗の事、それと目覚める事ない春香の容態の回復を祈りました。

 参拝の帰りに翔子お姉様が私に用事があるからとお言われしたので、藤原家のお屋敷まで彼女と向かう事になりました。そして、現在、藤原家の客間で私をお呼びになった本人を待っていました。

 その方がお部屋にお入りになり私の前に腰を降ろしになります。その後それに続く様に翔子お姉様がお入りになってきました。その方が挨拶をしてくる前に私の方からそれをするのです。

「洸大様、新年、明けましておめでとうございます、不束ではありますが。本年もどうぞ宜しく御願い致します」

 出来る限りその方に丁寧にご挨拶したつもりでした。

「ウムッ、こちらこそ宜しく御願いいたしますじゃヨ、詩織ちゃん。しかしなぁ、そんな畏まった挨拶など無用といつも言っておろうに。洸大ちゃん、今年もよろしくねぇ、とか」

「・・・・・・・・」と押し黙って私は心の中で苦笑してしまうのです。

 洸大様は世界にその名を知らしめる藤原科学重工のご会長でおありになられ、貴斗の祖父でもあります。

 何度か洸大様のお仕事を見学させていただいた事がありますが、その時はとても威厳に満ちていました。しかし、私生活ではその見る影もありません。朗らかとしてらっしゃる方です。それに付け加えましてとても色好みでございます。

 洸大様は香澄のお祖母さま、私のお祖父さまと戦友でもありました。

 隼瀬、藤宮、藤原の三家は先祖代々のお付き合いだそうです。

「詩織ちゃんも、大変綺麗になられたノォ~。もう少し私が若かったら、お付き合いしてもらいたかったわ、ワァーハッハハッ」

「おっ、お爺様、詩織ちゃんは貴斗ちゃんの恋人なのですよ。お鼻の下を伸ばしながらその様な変な事を彼女に申さないでください」

「ハハッ、そうだったのぉ、シッケイ、失敬じゃ」

 洸大様は本当に面白い方ですと胸のうちでそう思いました。

「ところで洸大様、私にご用件とはどのようなことでしょうか?」

「ウムッ、大学の勉強の方は滞りないのじゃろうか?」

「ハイッ、今年も無事、進級できると思います」

 今の状態から考えてその方にそうお答えしました。

「よろしいことじゃのぉ。・・・・・・・・・それで、貴斗の事じゃが・・・」

 その方は貴斗のこれからの事について色々と教えてくださいました。

 私の知らない所で貴斗は洸大様にお会いしていたようです。

 洸大様は自分達の関係と貴斗君の関係を何らかのご通達でやっとお打ち明けする事が出来たようです。しかし、今日の参拝で貴斗が翔子お姉様に対する様子は何時もと変わっていませんでした。

 隠し事が多いいのは今も昔も変わらないようですがどうして、私に言ってくださらなかったのか不思議に思えてしまいます。

 現在記憶喪失でありまして、それが戻りませんでも貴斗、彼は大学卒業後、洸大様のご事業の一端を引き受ける事にしたみたいです。

 それにはどうしても司法資格を持ったものサポートが一人以上必要みたいでした。

 洸大様は貴斗の事を案じ、そのサポートを私に頼んできたのです。しかし周りの重役達がそれを認めるはずもなく。

 ですから、その方達に私の実力の程を知らしめる為に出来るだけは若い年齢の内に司法資格をとった方がよいと洸大様が言ってきてくださったのです。

「どうじゃ、やってはくれまいか」

「詩織ちゃん、私からも貴斗ちゃんの為に是非、宜しく御願いいたします」

 お二人は私に貴斗の司法秘書になって欲しいといってくださるのです。

 考える必要などありません。貴斗と一緒にお仕事が出来るのを知って嬉しくなり即答でその言葉を受け入れました。しかし、司法試験の難しさを知っていましたのでより一層の努力が必要であると感じました。

 洸大様にあった後、貴斗に今一度会いその事を彼にお話して私が幼馴染みである事を口にして見ましたのですけど・・・、彼はその事になるといつものように倒れてしまい。

 またその時、言った事を総てお忘れしてしまったようで、なんだか凄く不条理な思いです。そうこれが現在、私が勉強している理由です。で、今、過去の短答問題の例題を眺めながら頭を悩ませていました。

「ハァ、ここの問題はどうお答えした方がよろしいのかしら?」

 周りにご迷惑をお掛けしない様に小さく呟く。

「藤宮さん、何かお困りの様ですね」

 その様に私にお声を掛けてくださいましたのは神無月焔先輩。

 学年一つ上の法学部の先輩。サークルご勧誘の時にお声を掛けてくださいました以来、色々とご親切に貴斗を含めまして私の面倒を見てくださっています先輩。

 性別的には男性なのでけど、なんとなく男性と女性の間、中性と申しますのでしょうか?その様な感じを受ける方です。

「ほホォ~、司法試験の勉強ですか?宜しかったらお手伝いしましょうか?」

 神無月先輩はなんと十九歳で司法試験に合格したほどの雄才、それとも宏才と言った方が宜しいのでしょうか?それに彼はその事をケシテ自慢したりしないそんな方です。

 神無月先輩の差し伸べてくれた手助けに、私は頭を下げて、先輩に協力してもらう事に致しました。

「商法と民法は何とかなりますけど。どうしても刑法が理解しにくくて」

「ホォ~、そうですか、お手伝いのし甲斐がありますね」

 神無月先輩は大学卒業後、検事さんになるそうです。

〈刑法が得意なのも当然かもしれませんね〉

 その様な事を胸の内でお思いしながら、私の理解できない部分を彼にお聞きしました。

 神無月先輩は憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法の六法総ての条項を彼の脳内データーベースに総て記憶しているといいます。なんだか凄いですね。

 それから三時間、彼のご助力で何とか今日の私の目標まで終わらせる事が出来ました。

「神無月先輩、どうも有り難う御座いました。大変お助かりしました」

「いえ、お役に立てて何よりです。藤原君には色々とお世話になっているのでね、それの恩返しもかねて」

「えっ、貴斗ガデスカ?」

 貴斗もよく彼と何かしをしているようですが、その詳細は神無月先輩も貴斗もお教えしてはくれないのです。

「アハッ、あハハッ、私、彼の名前なんて出しましたっけ?」

「かんなぁづきぃセンパァイ、貴斗に何か変なことさせていないでしょうねぇ」

 どうしてか嫌な予感がしましたので先輩にその様にお伺いしました。

「ハハッ、変な事とはどんな事でしょうか?」

 先輩はそう口にしますとわざとらしい態度でズボンのポケットから取り出しました懐中時計をご確認しながら言葉にしてきました。

「オッ、とイケませんねぇ、スッカリこれからの用事を忘れていました。それではこれにて失礼させて頂きます。藤原君に宜しく言って置いてください」

 そうお言葉を述べますと先輩はソソクサと軽くお笑いしながら私の元から逃げていきました。

「もぉ、先輩、貴斗に何させているんですかぁ?」と小さく声にしていました。

 それから閉館になるまで違う問題集を眺めながら彼是と考えるのです。

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