第2話 招待状と紅茶占いの話
「ようこそ私の屋敷へ。こちらへどうぞお庭にお茶会の用意がしてあるの」
あの高田なんとかという男子生徒を占った週の日曜日。私、咲杜茉莉と姉の咲杜恋歌は同じ学校に通う女子生徒、真知田 恭子の自宅に招待されていた。真知田さんは貿易商の父を持つ俗にいう金持ちだが、言葉遣いから座り方など一つ一つに品ある。そのため学校でも人気者かと思いきやそうでもなく、占い好きというのが転じて気味悪がられている。そんな真知田さんの自宅兼屋敷から招待状が入っていたのは金曜日、学校から家に帰ると自宅のポストにオカルト研究部宛ての手紙が入っていたのだ。ちなみにオカルト研究部は私と姉の恋歌しか部員はいない。手紙の内容はこうだった。
"親愛なるオカルト研究部の皆さんへ
はじめまして私は2年B組の真知田 恭子といいます。
いきなりこんな手紙を受け取り混乱しているかもしれませんが、
私と貴女方には接点がなくても高田 幸喜という人物を介し間接的には接点あると思います。
私はその高田 幸喜に告白された女子生徒です。
無論、断りましたがなんでも彼が私に告白してきたのは、貴女方が裏で糸を引いていると占いからわかりました。
それなので是非、その時のお話を詳しく聞けたら良いなと思っています。
29日の日曜日、添付しているもう一枚の地図と住所を見て遊びに来てくださいね。
~Incredibilia sola Credenda.~
以上、同級生の占い師 真知田 恭子より"
*
私と恋歌、そして真知田さんは庭にある白いガゼボでダージリンの紅茶の香りを楽しみながら高田氏の占い時の様子を話していた。話し終えると真知田さんはティーカップをソーサーに置き、私の方をじっと見ていった。
「まだ話していないことがあるんじゃないかしら茉莉さん?」
私は思わずびくりと跳ねてしまった。図星だ。例のタロットカードの山札に関することは口にしなかったからだ。
「Incredibilia sola Credenda.」
「あれ~それ確か手紙にも書いてありましたよね」
真知田さんの呟きに恋歌が反応する。そのフレーズは確かに真知田さんからの手紙の最後に書かれていた。
「そうそう覚えていてくれて嬉しいわ。これはね...」
「"信じ難きことのみ信ずるべし"という意味ね。かのイギリス人作家アーサー・マッケンの作品"生活の欠片"にて登場するフレーズよ」
「その通りよ、すごいわ茉莉さん」
手を胸の前で合わせてはしゃぐ真知田さんに、恋歌もすごいすごいと囃し立ててくる。褒められ慣れていない私は恥ずかしさのあまり黙って下を向いていた。
「信じ難きことのみ信ずるべし。だからね茉莉さん。貴方がさっきの話の中で話してくれなかった部分って信じられないような...こうオカルトチックなことが起きたんじゃないかしら?」
「何故そう思うのですか?」
ふふと真知田さんは上品に笑うと、空になったティーカップを私と恋歌に見えるように傾けた。ティーカップのそこにはぐるりと13個の印が描かれており、その印に重なるように茶葉が残っていた。
「紅茶占い…ですか?」
私が尋ねるとこくりと頷く真知田さん。
「紅茶占いと言ってもこの印、つまり象徴性は全て私が考案したものなの」
確かに言われてみれば紅茶占いで使用される十二宮の印は一切描かれておらず、代わりに月の満ち欠けが描かれていた。そのことを指摘すると真知田さんは解説を始めた。13つまり一年間におけると満月の回数。満月というのは西洋魔術や占いにおいて変化の象徴とされる。真知田さんはその変化を数値化することで、Aという要素がBという要素に与える影響力を知ることができるという。そして今回の高田氏の告白の件を例に挙げるのなら、高田氏が真知田さんに与える影響はほぼ0に近かった。にも関わらず水曜日、つまり私が高田氏を占った日に紅茶占いをしてみると高田氏が真知田さんに与える影響力が上がっていたのだ。
「えーとつまり…?」
話についていこれなかった恋歌が首を傾げる。すると真知田さんは紙ナプキンにボールペンで名前と数字を書き始めた。
高田 幸喜 4+1+2+1+4+1+2+7+2+1 =25(=7)
真知田 恭子 4+1+3+5+1+4+1+2+1+7+2+7 =38(=11)
咲杜 茉莉 3+1+2+1+4+7+2+1+4+1+4+3+6+2+1 =42(=6)
「あっ茉莉ちゃんがよく使ってるゲマトリアだ。…ってあれ?でもなんか数字が違うような?」
「恋歌姉、その違和感の正体は対応表が違うんだよ。私が使ってるのはラテン式、真知田さんが使ってるのは恐らくヘブライ式。それぞれアルファベットに対応する数字が違うんだよ」
ですよねと真知田さんに視線を投げかけると、真知田さんは頷き話を続ける。
「まず高田くんだけど彼は7、そして私は11。11は7の昇華数だから絶対的な壁がある。でもね茉莉ちゃんの数字を見てみると6。これはティファレト、つまり太陽の数字。そして"炎の剣"において6のティファレトの次は7のネツァク、勝利なの。だから本来であれば高田くんが茉莉ちゃんに相談した時点で、彼の願いが成就されることは決定していたの。
「あれ?でも真知田さん高田くんを振ったんですよね?」
えぇそうよと笑顔で返す真知田さん。占いの理論展開と現実との違いに疑問を覚える恋歌とは別に、真相にたどり着いた私が真知田さんの話の続き受け継ぐ。
「恋歌姉が疑問に思っているのは本来であれば高田氏が私に相談した時点で、真知田さんへの告白は成功することが確定しているのに何故、高田氏が振られたのかが疑問ってことでしょ。それは簡単。真知田さんの数字が11だから。11は魔術の一般数、あるいは変化しやすいエネルギー。詳細は省くけど、真知田さんは11故にその運命を変化させることが出来たってこと」
とは言え紅茶占いをして高田くんの挙動に気付けなければ、運命を変えれず付き合っていたでしょうけどね。と真知田さんが付け加える。
「えっすごい!じゃあ真知田さんって魔術師さんなの?」
私と真知田さんは恋歌の発言を聞くなり自然に目を合わせた。そして二人して下品にも大笑いしてしまった。恋歌は何か変な発言でもしたかと慌てていた。進歩しすぎた科学は魔法と見分けがつかないと言うが、それは魔術も同じだ。磁界や電気など本来目に見えないものに物質を添加して、観測できるようにする。磁界なら砂鉄を、電気なら銅線を。人の繋がりならタロットを、人の性格ならゲマトリアを。形而上学的、つまり目に見えないから存在しないわけではない。むしろこの世界は目に見えにものから影響を受けて成り立っている。
でもそれを知らない恋歌みたいな人たちからすれば私たち占い師は、魔術師か詐欺師にも見えるのだろう。そんな意味合いが私と真知田さんの笑いに含まれていた。
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