【第二一話 無邪気なモノガタリ】


「ただいまぁ……」


 お店に入ってビックリする。こんな内装だったっけ?

 しばらくお店には顔を出してなかったから、困惑してしまう。

 店内至る所にシャイニングのポスターだらけじゃん!


「何これぇ!」


「あ、おかえり美優。どう? 宣伝頑張ってるでしょう? さっき届いて、急いで貼ったのよ」

「お母さん! やりすぎでしょうよ! うち何屋なのよ! シャイニング屋じゃないでしょ!」

「半分、シャイニング屋」


 半分とは言え、断言されちゃったわよ……もう何も言えん。


「幸せを呼ぶロッキー様饅頭はどうしたのよ?」

「そこに居るでしょう?」


 見ると、角の方へと追いやられた小鳥をかたどった饅頭コーナーがあった。


「短い命だったね、ロッキー」


『是非に及ばす……』


 二人して呆れながら、奥のお爺ちゃん、お婆ちゃんに挨拶して上の自分の部屋へと直行する。


「あーっ。つっかれたぁー!」


 ベッドにダイブして枕に顔を押し付ける。自分の部屋に帰って来たという安堵感で、一気に疲れが出た気がする。


『美優、おかえり! ボクは寂しくて死にそうだったよ!』


「ただいまジョウジ。私は疲れて死にそう」


 ごめんねジョウジ。この後に家族にも報告があるし、少し休ませてほしい。


『美優、大事な話がある』


 空気を読まない鳥が一羽……。


「えー? 後じゃダメ?」


『美優のこれからに関わる事だ。早いうちに心して聞いた方が良い』


 やれやれ。ベッドに座り直し、枕を抱えて姿勢を正す。


「分かった分かった。で、何?」


『まず横山殿をはじめ、他の者にわれの正体を知られないようにしてくれ。これからの様々な危険性のある事象を発生させなくする為だ。我だけでなく、美優を守る為なので厳守願う』


「そんなに危険?」


『美優の能力は軍事転用が可能だろう? 人質を取られて言う事を聞かざるを得ない状況が発生したらどうする?』


「そんな大袈裟な。軍事転用って何よ?」


『例えばミサイルに意思を持たせれば百発百中で、迎撃も避けるミサイルの出来上がりだ。他にもスパイらしき事もモノにさせる事が出来る。大袈裟だが、可能性はゼロではない。だが、世間に知られなければゼロに近い。分かってもらえないか?』


 それで横山さんとの話の時に正体がバレないように割って入ったんだ。なるほどね。ただ単に解剖が怖いって訳じゃなかったんだね。


「うん。分かった。誰にも言わない。見られない。気付かれない。注意する」


『幸いにも横山殿は美優が我を生み出したと思っておる。その設定のままでいこう』


「オッケー!」


『特に〝神の遺物〟に関する事は門外不出だ。これの争いでアトランティスは滅びた。あの悲劇は二度は御免だ。それに美優をまた死なせたくない』


 あらあら。珍しく感傷的な態度をしてるじゃないの。必死な姿勢で突っかかるなんて。


「またって何よ。私、生きてるから勝手に殺さないでくれる?」


『あぁ、すまない。言い方を変えよう。我を生み出したのは、アトランティスが最盛期だった頃の女王、シャレアティス・ド・ハーレー。そして美優、其方そなたはそのシャレアティス女王の魂の生まれ変わりだ』


『えー! 美優って女王様だったの⁉︎』


 は? 何じゃそりゃ。私を女王様にしたいの? 残念だけど、私はエム寄りで……って違うか。


『メロウを生み出した時に確信した。あの時、美優は我を通して〝神の遺物〟に接触している』


「そう言われても、自分でも何が何やらで……」


『そしてメロウは自分から名乗れる程に記憶を最初から持った状態で誕生している。我の記録では、そんな芸当はシャレアティス女王しか出来ない』


「ほぇーっ。凄い人だったのね。でもロッキーは開発されたプログラムだって言わなかったっけ?」


『ふん。そう言った方がカッコいいだろう?』


 こいつ……そんな大見得を張って、どこまで高貴を気取るんだ。

 他にもまだ何か隠してないだろうな? まぁいいけど。


『我の機能は知っておるな? 時空を操る事も』


「うん。覚えてるよ」


『我の機能は女王の能力の完全コピーだ。なので美優はその能力をも有してる可能性がある』


「えー? 若返りのやつ? 興味ない。人間年取ったら死ぬんでしょ? その中で輝ければ私はそれでいい。過去の事象の書き換えだっけ? それももういい。アイドルにはなれたんだし。その後はもう現実から逃げないって決めたの」


『ふっ。美優らしいな』


 そう。私はもう逃げないし、負けない。まどかから貰った覚悟は、何事にも屈しないんだから!

 でも、あの媚薬は危なかったぁ。ギリギリで堪えれたから良かったものの、またあんな事が起きないように願うばかりだ。


「私はモノガタリじゃなくて、シャイニングなの! お分かり?」


『だが我は女王から頼まれて……』


「だぁー! うるさい!」


『はい!』


「私は私。シャッティアスだか何だか知らない、私の前世だと言う人がロッキーに何を頼んだのか知らないけど今の私に関係ないでしょ? メロウの時みたいに変な事が起きたらロッキーが助けて! それでいいんじゃない?」


 腰に手を当て、人差し指を立てて、姿勢を正してロッキーに突き付ける。


『うむむ……確かにその通りだ』


「じゃあ、そゆことで。もう無い?」


『では最後に一つ報告だ。メロウを吸収したろう? モノの魂のエネルギーの貯まり方が凄まじい。通常の魂の約十倍は貯まっている。〝神の遺物〟を通したモノの魂はエネルギー量も膨大な訳だ』


「そう……それだけでもメロウは役に立ってる訳ね。良かった」


 思い出すのも辛い。別れは悲しいよ。


 だから私はもうモノガタリとしての伊吹美優で居たくないのだ。

 自分で魂を生み出すのも、もう嫌だ。

 ロッキーには悪いけど、モノの魂の収集は今まで通り自分でやってほしい。

 メロウの魂で、私の人生分のストックはあるだろうから、私が新たに生み出す必要は無いでしょう?


『美優、泣いてるの?』


「大丈夫だよ、ジョウジ。ありがとう」


 よし。悲しむのはもう、お終い。やる事はいっぱいあるんだ! メソメソしてる暇は無いんだから。


「ジョウジ! 明日から新しいマンションに引っ越すよ!」


『ええ! 美優も一緒だよね?』


「一緒だよ。メンバーの凛ちゃんと一緒に住むの。ジョウジも合宿所のお風呂で会ってるはずよ?」


『そうなんだ! やったぁー!』


「凛ちゃんはジョウジの声聞こえないからね?」


『美優が居ればいいよ!』


 可愛い事言ってくれるじゃない。インテリなロッキーと違って、純真なジョウジは可愛いわ。


 ふと、突然ある疑問が頭に浮かんだ。


「ねえ、ロッキー。今まで会った他のモノガタリの人も皆んな言葉に出してたの? 心で会話とかしてなかったの?」


『うむ。殆どおらんな。アトランティス時代以降も、何人かは口に出さずとも思念で会話していたが、ここ千年ほどは居ない』


「そっか。まぁいいや」


 便利なようで、やっぱり不便だ、この能力。


 さぁってと。夕飯食べて、お風呂入って、一人でナニして……って、ああっ! 凛ちゃんと住むなら、一人でナニする時間と場所どうしよう!

 う~ん。まぁいいや。後で考えよう。

 我慢出来なくなったら、凛ちゃん襲えばいいしね! なんせ、いつでもオーケーの許可が出てるし。


 なんて、ムフフで淫らな事を考えながら、階段をお店のカウンターまで降りて行く。


「お母さぁん! 夕飯、キムチ鍋が食べたぁい!」

「いいわよぉ!」


 指でオッケーの合図をしながら、ウインクまでして返してくれる母が大好きだ!

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