【第一四話 ヤクザアニキは優男?】


 声がする……誰だ? 頭がぼーっとする。半分覚醒してる感じかな。


「しっかし、お前の女の趣味も相変わらずだよなぁ? とんだロリコンだぜ」

「アニキ、ちょっと違います。俺は合法ロリが好きなんすよ。それに美優は超エロいっすよ? ロリっぽくてエロいって最高じゃないすか?」


 この声は、元セフレだ。てか、私の事そんな風に見てたんだ。お前と会ったのも、たかだかニ、三回しかないくせに俺の女扱いしないでほしいわ。


「お前のロリのこだわりはともかく、エロいのはいいな」


 ちょっとずつだけど、体の感覚も戻ってきた。細かな振動と動いてる感じと……この音は車の中かな?

 あと足! 太もも撫でられてる⁉︎

 ジャケットにショートパンツと、結構ラフな服装にしてたのは失敗だ。私のバカ!


「凛の方は完全に受け身なんで、俺の好みじゃないんすよ」

「ははっ! 可哀想な彼女だな! まあ確かに太ももの触り具合は美優って女の方が気持ちいいな」


 あらそう? ありがとう……って言うか!


 凛ちゃんも乗ってるのね。凛ちゃんは起きてるの?

 ええと、頭が右に傾いて寄りかかってるのは……ドアかな?

 左足の太ももを撫でられてる感覚があって、直ぐ左に人の気配。たぶん後部座席?

 反対側に凛ちゃんが居るって事か。触ってるのはアニキって人?

 元セフレの声は前から聞こえるから、奴が運転してるんだ。

 だんだんと覚醒してきた。どうしよう……まだ寝たふりしておいた方がいいかな?

 でも太ももが、気持ち悪いよぉ!


「アニキ、この薬ってどれくらい効き目があるんすか? あと七、八分くらいで着きますよ?」

「あぁ。個人差はあるが、四時間は眠ってるはずだ。まだまだ起きねえよ」

「美優も凛もぐっすりっすか?」

「両方とも、太もも撫でても起きねえな。強い刺激は起きるかもしれないから、他が触れないのは残念だけどな」

「もう少しの辛抱っすよ! たっぷりと可愛がってやりましょうよ!」


 てか私、睡眠薬飲まされたの?

 しかも凛ちゃんにだよね?

 その凛ちゃんも眠らされてるの?

 どうして……どうしよう。

 何処に連れてかれるんだろう。貞操の危機だ!

 警察に知らせなきゃ! どうやって⁉︎


「どうやって⁉︎」


「は? お前、起きたのか?」


 しまったぁあ! つい声に出てしまったあ!

 バレたついでに目も開けてしまおう。隣で私の太ももを撫でてた男は、サングラスにつるっ禿げに白のスーツに黒のワイシャツ。


 どう見てもヤクザさんじゃねえか!

 元セフレさんよ、お前最低だな!

 何してくれてんじゃ!


「お嬢さん、どうやって可愛がるのか知りたいのかな? せっかく起きたのなら、到着するまでの残り七分くらいで話してあげましょうか?」


 冷静な人ね。私が起きても動じないなんて。


「え、いや。そうじゃなくて……」


 心の声が口から出たら、たまたま会話してるように繋がったただけです。違うんです!


「まあ聞いて下さい」


 随分と紳士なヤクザさんね。調子が狂うな。なら聞くだけ聞いちゃおうかな。


「あ、はい」

「お嬢さん方お二人はアイドルデビューされるんですよね?」

「え? あ、はい」

「これからお二人には、複数の男との淫乱な乱交現場を撮影されます。あ、心配しなくても大丈夫です。たっぷりと媚薬を飲ませますので、緊張する事なく快楽に溺れますよ」


 それはそれは、ご親切にありがとうございます……は?


「えええええ!」


「そんなに驚かないで下さい。違法すれすれな事は承知してます。撮影された動画を元に、あなた方の親族や所属事務所等に、高く買い取って頂こうと思ってるだけですから」


 おい私! どこが紳士だって?


「それに買い取って頂かなくても、あなた方が芸能人として売れ出したら、アダルトビデオとして販売しますよ。合意の元に撮影してると演出する、その為に媚薬を飲ませるんですから。そしてマスコミにの方に高く買って頂きます」


「そ、そんな事出来なっ」


「出来るんですよ。今向かってるのは山の上のコテージで人も居ない。携帯の電波も届かない。助けは来ない。あなた方お二人以外は、内の者しか居なくて十人以上居る。逃げられもしませんし、逃しません。どうやっても既成事実は起こるんです。諦めて快楽に溺れましょうか?」


 サングラスの下の表情は、不気味な程のニコニコ笑顔が分かるくらいに歪んでいる。


 ヤバい。これは本気でヤバい!


 ぶん殴ってやろうと思い、手を動かそうとして初めて気付いた。両手が後ろ手で縛られている。

 足も歩幅以上は広げられないように縛られていた。


「あぁ、すみませんねぇ。媚薬を飲ませた後でその手足は自由にしてあげますね?」


 ヤクザアニキは笑顔を崩さないまま、優しい口調で続けて言う。

 ドラマとかによくある、悪人が余裕がある時は絶体絶命のやつを現実に体験している。

 もうダメだ。せっかくこれからだって時に、私のアイドル人生はここで終わるのかもしれない。


 そんなの嫌だ! 絶対に嫌だ!

 助けて……誰か……ロッキー。

 絶望感にうな垂れて涙が……出ると思ったら大間違いよ!


「この! このこの!」


 せめてもの抵抗だ。運転席である前の座席を足を抱えるように上げて、左右交互に蹴り上げる。


「ちょ! 美優、てめぇ!」


 シャイニングのリーダー舐めんな!

 こちとら覚悟を決めとるんだ!

 そうそう簡単に屈してる程、やわじゃないんでね!


「止めろ美優! 危ねぇだろ!」

「知るか! 事故ってしまえ!」


 と、突然にヤクザアニキの手が私の首を押さえ付けてきた。

 一瞬だったので何も出来ずに、息苦しさで足が止まってしまう。


「お嬢さん。元気なのは構わないが、あまり暴れると後で自分に返ってきますよ? 大人しくしていてもらいましょうか」


 サングラス越しでも凄みのある眼力に、体が縮み上がる。

 殺されるかもしれない。本気で恐怖が込み上げてきた。


「そう。それでいいんです。もう直ぐ着くので良い子にしてて下さいね?」


 丁寧な話し口調が余計に恐怖を駆り立てる。もう大人しくするしかなかった。

 打ちひしがれて窓の外を眺めてる内に、今度は本当に頬を涙が伝う。


 悔しい……悔しい!


 何が覚悟だ。そんなもの非力だ。何も出来ない自分の弱さに絶望感が更に増長されている。


 窓の外を見てたけど、そんな事を考えながらだったので、移り変わる景色なんて覚えていなかった。

 気が付いたら車は停まっていて、降りるように促される。


 ここはどこだろう……周りを見渡しても、木、木、木の連続で、山の中としか分からない。

 目の前に建売戸建の二棟分の大きさのコテージみたいな建物がある。

 乗ってきた車を振り返ると黒のスカイラインだった。ヤクザアニキの車かな。

 他にも同じような黒のクラウンみたいな車が三台ある。多勢に無勢すぎる。

 逃げようにも帰る道が分からないし、無事に下山出来るとも思えない。


 終わった……完全に終わった。


 凛ちゃんを肩に担いだ元セフレが私の背中を小突いて、歩けと指示される。


 いちいちムカつく!

 お前だけでも殺してやりたい。


 建物の中は殺風景としていて、装飾はこれと言って見当たらない。一番奥の部屋に通されて、中の様相に愕然とする。

 部屋の真ん中に円形のキングサイズのベッドがあり、周囲にストロボや撮影機器が点々としている。

 そして壁には……SMクラブで見掛けるような道具や拘束具がズラリと並んでいた。


 いつの時代のラブホだよ!


「それじゃ凛が起きるまで、俺達は飯食ってるから、美優はゆっくりしててくれや。トイレはしたくなったらベッドの外で漏らしていいからな」


 まだ眠ったままの凛ちゃんも一緒に、二人ともベッドに投げ出されて、男達は部屋から出て行き、鍵を掛ける音がした。


 そりゃそうよね。逃げられないように鍵かけるわよねぇ。

 窓は……一枚ガラスで開かないタイプのやつで、こちらも無理。まあ当然だよね。


 周りの器具は、動画とかで見た事ある物や、見た事無い物まであるけど、どう使うとか考えたくもない。

 手足が縛られてるので動きづらいけど、何とか凛ちゃんの近くまでベッドの上を這って行く。


「凛ちゃあん! まだ起きないのぉ?」


 ピクリとも動かない凛ちゃんの横で、仰向けに寝転んで天井を見る。電灯と換気扇があるだけで何も無い。


「ったく。シャンデリア位は付けなさいよね!」


 これから起こる事を考えるのを脳が拒否しているのが分かる。くだらないツッコミでも入れないと精神が保てそうになかった。


 はぁ……。


 深いため息と共に目を瞑ると、一度は覚醒した眠気が、また襲ってきていた……。

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