2.初夏の帰路
太一が教室をでれば、美形の男子が待ち人でも待っているのか物憂げな表情で廊下の端に立っていた。そして、太一は極限まで存在感を排して通り過ぎようとした。これは無視ではない。そもそも出雲亮介ともあろうものが遠山太一などを待つなどありえない。そう心の中で誰に訴えるでもない言い訳を唱えていた。
「太一くん、今日は部活ないの?なら一緒に帰っていい?」
そんな太一の努力やら申し訳なさやらその他もろもろをかっ飛ばす勢いで、出雲亮介という男は太一の正面に回りこみ、そう問いかけた。
「ヤダ」
「って言われてもどうせ方向同じだから勝手に一緒に帰る形にはなるんだけどね!」
「ソウデスカ」
「そうですよ!」
ストーカー、もとい出雲亮介はふふんと言いながら得意げに胸をはっていた。
いや、そりゃ、俺がオメガで、こいつが(多分)アルファだし、多分運命の番とやらだろうから気にするのもあるんだろうが…こいつよりどりみどりだろ…アルファだって誰からもうわさされているやつ…待てよ?知人もしくは友人らしく接さないと俺がオメガであるのがばれるのではないか?
様々な懸念が脳内をぐるぐると回って悩ませる。困った。
と、太一が思考の渦に入っていると、数歩先に歩いていた亮介が急に止まった。
「聞いてた?太一君?」
むすくれた顔で後ろを振り向きながら聞いてきた。彼が勝手についてきて、勝手に話していたとは言えさすがに一つも聞いてやってなかったのは少々良心を痛めた。
「ごめん。ぼーっとしてた」
「もう。学園祭の話してたのに~ぼーとするなんて!それに段々歩くのが遅くなってるし、」
そこで言葉を切ったかと思うと何を考えたか顔を青くする。こんな夏日の日差しに当てられながら顔を青くするとは器用だなとも思うが、厄介なことを言い出すのだろうという直感が当たらなければいいとも思う。
残念ながら太一の直感はよくあたる。テストの分からない問題を適当に答えた部分の正答率が8割を超えるほどには。
「…熱中症?!日陰に入ってて、冷やすもの買ってくる!いやむしろ店内ですこし涼もう!」
直感が示した通りに暴走した出雲に巻き込まれてしまった。暑かったし、まあいいかとされるがまま、自身のものより幾分か細い指がついた手を引かれて、数メートル先のスーパーに入る。
暑い中歩いていたからこそ、冷房の効いた店内がオアシスのように思えた。いつも何の音楽なんだと思うような店内の音楽でさえも良いものに思えた。
「ん~涼しい。せっかくだし水買ってくるわ~。あ、別に俺熱中症とかじゃないし熱とりシートとか買わなくていいからな」
「そうだったの?わかった。何も買わずに出るのは少し悪いし、俺も何か買おうかな」
「ん。なら後で合流な。レジでたところくらいで」
まあ、そう言っておいて逃げてもいいんだけど、俺はそこまでひどくないのです。女子高生ならともかく男子高校生がべったりしながらスーパーを徘徊するのはスーパーの広くない通路には邪魔だし、邪魔だからといって縦列は滑稽なので、一度離れるのを提案する。
冷えた店内は確かに涼むにもちょうどよく、じんわりとかいていた汗が冷えることで、自分の思っている以上に体温は熱くなっていたことがわかっていく。
お目当てのものを各自買い、また暑いお外に自主的に放り出される。
「何買ったの?」
「ん?炭酸水。暑い日は炭酸水のシュワシュワが恋しくなる。そういう出雲は?」
「アイスだよ~歩きながら食べようと思ってさ。はい、半分こ~。太一君炭酸水好きなんだね~」
ぱきりとアイスを割って渡してくる。夏季限定桃味か。食べたかったやつだ。
「半額出すよ。いくら?」
「ええ~出さなくていいよ!一緒に食べたいから買っただけなんだからさ~!」
それに僕の好きな味を独断で決めたし、ホラホラ受け取って、と出雲は半分のアイスを動かしている。そこまで言われて食い下がるのは少しくどいだろう。また何かで返そうと心に決めて、ありがとうと受け取る。
「美味しい!夏になると一回は食べないと気が済まないんだよね!」
出雲はみみっちく、蓋の部分に残ったアイスを外装ごと噛んで押し出して口に含んでそう言う。
この味のアイスは夏には一度食べないと気が済まないのは同意する。でも、同じ味が好きとか言うのがなんとなく恥ずかしいので言ってやらない。
「これは美味しいけど、期間限定のものって当たりはずれ大きいよな。あと、通年商品の味がどんなだったか食べたくなるよな。」
「あ~コーラのオレンジ味とか、ポテチの変わり種とかね。」
一口分かじって、亮介は答える。
「コーラのオレンジ味は当たりだろ?」
「口直しの意味じゃなくって、オリジナルが恋しくなったって意味で!」
「それはそう」
それで、さっきの話の続きなんだけど、と学園祭でのクラスの出し物についてを話し始めるのを止めて、最初の方聞いてないから初めからよろしく、と願うと意地悪呼ばわりをされた。
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