終 章 彼岸の向こうに見える希望

第十九話 冷たいベッド

第十九話 冷たいベッド

2004年8月19日、木曜日


 事故ってから既に三日が過ぎようとする。俺は病院のベッドの上で死線を彷徨っている様だった。

 恋人、詩織は俺の手を握り、すすり泣きしながら、俺の目覚めを待っている。しかし、そんな彼女の手を握り返すことも〝大丈夫だ〟と声を掛けてやることすら今は出来ない。

 詩織のとても悲しげな顔を見ると、とてもいたたまれない気分で気が狂いそうになるが体も動かないし、目も開けられない。

 宏之の恋人である春香、彼女もずっと目覚めるまでの三年間こんな気持ちだったのだろうか?

 折角、目覚めた彼女に俺がした行動、嘘で塗り固め様とした現実を打ち壊す、俺のした行動は・・・・・・・・・、正しかったのだろうか?嘘の現実でも目覚めた彼女にてっては良かったのかもしれない。それを壊してしまった。

 自分の周りにいる大切な人達を不幸にしてしまう。俺って最悪な存在だ。こんな俺に生きる価値、意味などあるのだろうか?

 あの時、あの場所で宏之達と遊んでいなかったら雪菜は死ななくて済んだのかも知れない。

 あの日あの場所に行かなかったら父さんも、母さんも、龍一兄さんだって死ぬ事は無かったはずなのに。

 あの時間、何時もの様に素っ気無く電話の対応を早く切り上げていれば春香は事故にあわずに済んだのに。

 麻里奈は兄の死を知ったときどれだけの悲しみをその胸に受けたのだろう?

 従兄弟であり親友の宏之は春香がずっとあんな状態だったのを看ていてどれだけ苦しんでいたのだろう?

 記憶喪失だった俺と付き合っていた詩織は?

 俺にずっと軽蔑のまなざしで見られていた香澄は?

 ずっと俺の理解者で居てくれた慎治は?みんな今何を思っているのだろう。

 みんな、俺の事を心配してくれているだろう、俺はそう思いたかった。

 そう、信じたかった・・・・、・・・、・・・、しかし、今の俺にそれを知る術は無い。

<ハァ~春香>キミは今どうしてる?無事なのだろうか?

<うぅーーーーーーーっ>意識が持たない。

 そして、また意識の中のさらに下、深い闇へと堕ちていった。


2004年8月23日、月曜日


 俺を心配してくれた親友達が見舞いに来てくれた。しかし、未だ病院のベッドで色々な計器を着けられたまま寝かされている。

 当然、目も開けられない、体も動かない。声も聞えない。果たして、俺は生きているのだろうか?会話が聞える。

「俺達、馬鹿だよ!コイツが何の考えもなしに行動する事、ありえる筈なのに」

〈どんな行動を実行してもそれが功を奏さなければ意味がない〉

「そうよね、何時でも貴斗、意味のない行動とる事、なかったもんね」

〈それは俺がお前と一緒にいた幼馴染みの頃の話だろ、今の俺はどうだか・・・〉

「いつかは誰かがやらなくちゃならなかった事。それは俺だったのかもしれない。コイツ、それを肩代わりしてくれた。なのに、俺はお前を・・・。聞えるか、貴斗!お前、俺の迷っていた気持ち知ってたんだろ?だからっ」

〈気付かない方がおかしい・・・〉

「やめて、皆、お静かにしてください!貴斗、ゆっくり休めないじゃないですか」

「しおりン」

「わっ、わりい」

「貴斗、また涼崎が眠っちまったって知ったら如何すんだろ?」

〈おっ、俺は一体何を・・・・・・、してしまったんだろうか?〉

「八神君、貴斗の前でその話しはよして!」

〈詩織・・・、慎治にそんな事、言わないでくれ。悪いのは総て俺なんだ〉

「ごめん、配慮なかった」

〈春香さん、また眠ってしまったって言うのか?やっぱり俺の所為で・・・〉

「皆、私と貴斗、二人っきりにさせて、お願いです」

〈詩織・・・、何もして遣れなくてすまん〉

「わかった、貴斗の事、宜しく」

〈みんな・・・・・・・・・・・〉

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