第十八話 記 憶
約三年前、2001年3月20日、火曜日
アメリカ・キャリフォルニア州フリーウェイ405号サンディエゴ方面
「貴斗ちゃん、そろそろ着くわよぉ~~~、起きなさぁ~い」
「ふぁ~~~っ、グッモォーニン。麻里奈さん、今どこら辺?」
今日の朝まで掛けて仕上げた卒業論文を両親と兄さんに見てもらいたくて二人が勤める研究所へと向っている。
「オハヨウ、今ね、オーシャンサイドよ」
「もうちょいだね。俺も運転できるのに麻里奈さんに運転任せてしまってごめんなさい」
「いいのよ気にしなくても。それより、よく頑張ってるわね、うまくいけば今年中に大学卒業ね」
「どうだろう?」
「大丈夫よ、貴斗ちゃんなら頭いいからね」
「そんなことないですよ」
「そこで謙遜するところがまた可愛いわ、惚れちゃいそう」
「ばっ、馬鹿言うなよ!麻里奈さんには龍一兄さんがいるだろ」
「だって、最近、龍の奴ッたら私の相手してくれないんだもん・・・・・・・・・冗談よ」
「ハァ~~~」と重い溜息をついた。
よく日本の小説や漫画のキャラクターで日本人が若い年齢でMIT(マサチューセッツ工科大学)やハーバード大学を主席で卒業、何ってのがある。でもあんなの嘘、無理。どうしてか、って?
さっき言った二つの大学は全米でも名門中の名門私立、金はかかる、人脈重要、入学、卒業共に簡単ではない・・・、人種差別と言う壁、表から分からないが、根が深い。
特に入学に関しては人気のある学部ほど門は狭くその道で有名な人の推薦状が必要だとかまあ色々とある訳だ。入る事さえ出来れば後は問題ないのだけど。
かく言う俺も今行っている大学は父さんのお陰で(無理やり)十四歳のとき放り込まれて現在に至る。何処の大学かって?
どうせ言っても知らないさ。UCBerkeley(キャリフォルニア大学バークレイ校)。
有名なUCLAと同系列の学校で工学専門の所。初め入学した時は辛かった。英語はさっぱりだし、周りの奴らが変な目で見る。だから精神的に苦痛だった。あッ、それと麻里奈さんは俺の兄さんの婚約者でUNIOと言う所で働いている。義理のお姉さんになる彼女の言葉で現実に引き戻された。
「おかしいわねぇ~~~?」
「何がおかしいんですか?」
「ゲートの所、誰も居ないのよ」
「いつも通り、裏門から入ろうぜ」
「そういう問題じゃないんだけど、マッいいわ」
不承不承と言う表情で彼女は車を別の道に走らせ裏門へと回る
「とぉ~ちゃくぅ~~~っ!」
「麻里奈さん、ご苦労様」
俺達は裏の入り口から施設へと入って行った。しかし何だか雰囲気がおかしい。
彼女の運転して来た車、サバーヴァンから降り、薄暗い建物の中を暫く歩いていると足元に何か硬いものが当たった。驚いて下を除くと・・・?
「ゥウ」
死体が転がっていた。思わず叫びそうになるが麻里奈さんが俺の口を押さえた。
「静かに」と耳元で呟く。
いったいどうなってんだ?初めて見る本物の死体に驚いて動転する。しかし、麻里奈さんは全然動揺した素振りを見せない。そして、どこからともなく声が聞えてきた。
「えぇ~い、未だ奴らは見つからんか?早く探し出せぇー」
「イエッサー」
もちろん英語だけど・・・、何なんだいったい。麻里奈さんが声の聞こえて来た方を確認する。やがて、
『ズバババババッ、ズバババババッ!』
「ッツ、ジーズっ!」
『ズゥンッ、パスッ、パスッ』
「グワァッーーーーーーーーーーーーっ!」
『パキューン、パキューン!』
「キャーーーっ!」
「ガッデムッ!!」
さまざまな銃声と悲鳴が聞えてくる。ここは研究所だぞ。何で銃声なんか聞えるんだよ?何が起こってるんだ?
「チッ、PPMの奴ら、行動、早すぎっ!」
「ハァンッ?PPM。何でこんなところにPPMなんかいるのさ?」
PPM(プレジデント・プライベート・ミリタリー)大統領私設軍。
現大統領は超タカ派で知られている。国民の税金を遣って自分の為の軍を造るくらいにね。
両親と兄さんは大丈夫なのだろうか?不安になって来た。麻里奈さんと俺は奴らに気付かれない様に移動した。ある一角を通り過ぎようとした時、俺達は誰かに引っ張られ闇へと消える。また〝誰だっ〟と叫びそうになったがまたも口を押さえられモゴモゴするだけだった。
「Move to Kill(動くと殺すぞ!)」
この声は?今度はちゃんと小声でそれを言った人物に問いかけた。
「龍一兄さんだよね?何でここに」
「タカ、それはこっちの台詞です!何でお前がこんな所にいるんですか?今日に限って」
「龍ちゃん、無事だったのね」
「麻里も一緒だとは・・・」
「私は、仕事のついでに貴斗ちゃんを一緒に連れて来たの。でも、失敗した、こんな事になるなんて」
「タカ、何故、連絡も遣さないで急に来たんです?」
「父さんと兄さんに早く俺が書いた卒論を見て欲しかったから」
「まったく、仕方がない奴、ここは危険です、地下施設に向いましょう!」
▽ 地下研究施設 ▽
「貴斗、どうしてお前がここに!」
「龍貴父さん、ごめんなさい。出来上がった卒論を見てもらいたくて」
「アナタ、そんなきつい言い方はなくてよ」
「美鈴、思えは黙ってなさい」
「あ・な・た!」
「わかったよ、そんな目で見るな。どれっ、そのお前の卒論と言うのを見せて見なさい」
「父さん、今はそんな事を言っている場合ではないでしょう?PPMの連中、我々のプロジェクトとは関係ない研究員まで殺しているのですよ。そんな悠長な!」
そこには俺の両親と父さんの研究に関わっているスタッフが計三十六名不安そうな表情で話していた。
「ミスター・フジワラ、総ての機能停止完了です」
「ここにある研究データ、バックアップ共に総てデリートしました」
「これで、爆発及び誘爆の危険性から93%の確立で回避できると思います」
「100%近くまでは・・・・・・、矢張り無理と言う事か」
「ハイ、リアクターに材質が残っていますので、アンダー・フィフティーにあるリアクターから今すぐに採りに行く余裕はないです」
「ヨシ、分かった、皆の者ここから非難するぞ。そうだ貴斗、お前にこれを渡しておく」
父さんはそう言ってMOディスク、三枚を手渡した。何でこんな物を?ユナイテッド・ステーツにはMOデバイスなんか無い筈なのに・・・。それから、父さんはそう言うと俺達を含め研究スタッフを緊急非常通路へ導き、それを使って表へ出るように指示した。
出口手前の扉、外から銃撃戦の音が聞える。
「私が頼んだ応援、もう来ているみたいね」
麻里奈さんと俺が車から降りた時、彼女が電話をしていたのはUNIOの応援を呼ぶためだったのか?彼女が扉を少し開き外の様子を確認する。銃声は聞えるものの俺にはどんな様子か見る事が出来なかった。
「アッチャァ~っ、結構居るわね。皆さんはここで待機していてください。私が気付かれないように出て、シールドをつれてきます」
麻里奈さんはそう言うと直ぐにこの場から消える。数分後、彼女は武装した十人位のスタッフを連れ戻ってきた。
「皆さん、お待たせ!彼等を盾にしてここから出ましょう」
皆、次々と彼女の指示に従って出て行く。後列にいた俺が最後に出様とした時、背後から現れた自分より体格のデカイ屈強そうな男に捕らえられ頭に銃を突きつけられてしまった。
「ドクター、やっと追いつめたぞ」
「What’s Up!!Who’s it? What’s the hell are you doing!!!!! Take off my son, now!!! Right now!(何だ、貴様は?息子を放せ!)」
先に出ていた父さんが距離にして5mぐらい離れた場所からコイツに向かってそう言った。
「Don’t be rush….,Hey, doctor! You come toward to me with your study collections data. It’s bargaining!(交換条件です。ドクター、貴方の持っているその資料とあなた自身こちらに来てもらおう)」
「Sure of course! Please release my son when I walk to you! OK?(わかった、私がそちらに歩くと同時に息子を放せ!)」
「父さん、駄目だ!俺、父さんがどんな研究しているのか分からないけど、こんな危ない連中に渡しちゃ駄目だ!絶対駄目だよっ!!」
俺を押さえている相手に分からないようそう日本語で父さんに伝えた。
「馬鹿を言うでない!何処の世界に子供を見殺しにする親があるか!」
「Haah, What are you doing, doctor?(ドクター、何をしている)」
「Oky, ok, I am going now!! that so don't do anything to my son!!!(まっまて!今、行く)」
父さんはそう答えて俺の方へと歩みだした。そして、俺はそれと同時に男から突き飛ばされる。
「Don’t plot anything, oky doctor when so ever my muzzle of gun ready to kill your son!!!!( ドクター、妙なまねするなよ。私の銃口は何時もお前の息子を撃てるのだからね)」
父さんが奴の所へ辿り着くと同時に俺もまた父さんがもと立っていた場所へと到着した。
「You really clever dog! I’m so releif, but…Kukkukk(ドクター、貴方、大変物分りのよい方で助かったよ。だがねぇ、ククッ)」
その男は不敵な笑みを浮かべ、父さんに銃口を向けていた。
「Your thought is completely danger for our nation, our economic!Must be given deth you!(貴方の考え方は我が国にとって脅威だ、死んでもらいます)」
「Nothing means that document when I am gone. Are you sure? (私を殺せば、その資料なんぞ何の役にも立たなくなるぞ、それでもいいのか)」
「Hah, Don’t worry, no problem, we have a lot of genius staffs more than you! Farewell and good luck! (フッ、私の国には貴方以上の天才など幾らでもいる。そいつらに任せればよい。名残惜しいですが、グッドラック!」
口を動かすとその男は何の躊躇もなく銃の引き金を引いた。
『パァーン、パァーン、パァーンっ』と三回、乾いた銃声の音が辺りにこだました。
「とぉーーーさぁーーーーんッ!」
「あなたっ!」
「逃げるぞ!」
目の前で父さんが撃たれたと言うのに兄さんと麻里奈さんはそんな事を言ってきた。
「でも父さんが」
「貴ッ、いいから早く!」
兄さんは俺の手を強く引く。
「分かったから放せ」
兄さんの手を振りほどき走り出した。
「You cannot run away! I am absolutely kind man, so I’m going to take you heaven for your father, kukuku.(逃がしませんよ、ドクターだけヘヴンに行くのは可哀想なので、アナタ方もご一緒にどうぞ。クックックック!)」
その男はそう言ってゆっくりと銃のマガジンを換えると笑いながら連射してきた。
「貴斗、危ない」
「えっ、なに?」
俺がそう言った瞬間、母さんが目の前で胸を赤く血で染めながら倒れこんだ。
「かぁさん!」とそう言って慌てて近付こうとしたが、
「こちらに来ないで、早く行きなさい!」と母さんは必死に訴えてきた。
「いやだ!」
俺の行動を止めようと麻里奈さんが戻ってきて肩を掴むと額を小突いてきた。
「貴斗ちゃんアンタ、死にたいの?早く、逃げるわよ!」
「なんでこんなことに・・・、どうしてだよぉーーーーーーっ!」
そう叫び麻里奈の乗って来た車に向って走った。麻里奈さんの車に乗り、あの場所から逃げ出して約1時間が過ぎていた。
「何時まで、メソメソしているんだ貴斗!男だロッ!身体だけはデカイくせして」
「龍ちゃん、言いすぎ。こんな異常な体験どれだけの人が出来ると思っているのよ。アァ~~~、分かった。龍ちゃん、貴斗ちゃんに当り散らして、気分を紛らわしているのね」
「私はその様な子供ではないですよ、麻里。タカを心配しているだけです」
「ニヒッ、そんな事を言っちゃって。そういう事にしておいて上げるわ。それより貴斗ちゃん、元気を出してね」
「ハイッ」と返事はするけど気分は深く澱んでいる。
「これから、どうするんですか?」
「このままLAXに向って、ここから出るのよ」
「ちょっと待ってよ。俺まだ、大学終わってないですよ?」
「そんな事を言っている場合じゃない」と兄さんと麻里奈さん、二人の声がハモった。
「貴斗ちゃん、あと1時間位でLAXに着くけど何も考えず休んでなさ」
「わかりました」
考えるにも何も頭が混濁していて出来るはずがなかった。それから、一時間も経たない内にLAXのインターナショナルターミナルに到着していた。
「私、チケットの手配をしてくるわ、龍ちゃん、貴斗ちゃんここで待ってて」
「パスポとかドウするんですか?」
「貴斗ちゃんは何も心配しないで待っていなさい」
数十分して、この場所も異様な場に変貌した。PPMの奴らが何人か追ってきたのだ。
「麻里、タカを連れて早く行け」
「龍ちゃん、貴方は?」
「早クッ!」
「でっ、でもぉっ!」
「私を誰だと思っているのです?」
「そうね、でも片付いたら必ず連絡頂戴、いいわね」
「分かった」
兄さんはそう言うと公衆の面前で麻里奈さんとディープ・キスを交わしていた。この国ではキスシーンなんてごく有り触れた日常の光景。だから周りの人間は全然気にもとめず行き交っていた。それから、暫くして、その大人の熱いキスが終わる。
「龍ちゃん、続きは後でね」
「それじゃ、私は行きますよ」
兄さんは何処からともなく拳銃を取り出し、俺達の敵と思われる方向へ向かおうとしていた。
「龍一兄さん、やめてよ、一緒に行こうよ」
「元気でな、貴斗!。それと、日本にいる妹の翔子と洸大爺さんを宜しく頼む」
兄さんのその言葉はまるで死別のような言い方だった。
「何でそんな事、言うんだよ」
「フッ!」と鼻で笑い、奴等の方へ駆け込んで行った。
「龍一にぃさぁ~~~んっ」
「時間がないわ、行くわよ、貴斗ちゃん!」
麻里奈さんは俺の体を強引押す。出発ギリギリのチケットを買ったのでもう出発まで時間がない。
「でも、龍一兄さんが」
「龍ちゃんなら大丈夫!」
「何でそんなこと言えるんだ!」
「龍ちゃん、今はアナタのお父さん、彼の研究サポートをしているけど、以前ドンナ仕事していたか知っているわよね」
「麻里奈さんと同じUNIO」
「せ・い・か・いっ!しかも、将来特一クラスに成れる期待の星でもあったの。だから、心配ないわ」
そんな会話をしながら最後の乗客として乗り込んだ。しかしこの世で龍一兄さんと顔を合わせることはもう二度となかった。
~ JALビジネスクラスシート ~
「ゴメンね、ファーストクラスにしようと思ったんだけどね、取れなかったから、ビジネスで我慢してね」
「ビジネスクラスだって俺にとっては贅沢だから、そんなこと気にしないでください」
「理解があって助かるわ、アリガト、ヨシヨシ」
彼女はそう言いながら俺の頭を撫でてきた。
「やめてくれ、俺ソンナコトされるほど子供じゃないんだから」
「あらっ、さっきまで〝ブー〟たれていた子の言葉じゃないわね」
麻里奈さんは苦笑しながらそんな事を言った。
「さっきは・・・、それより、何でこう言う事態になったのか説明してください」
この事態の説明を彼女に教えてくれるよう俺は要求した。
「日本に着いたら、全て教えてあげるから、それまで心を落ち着けて休みなさぁ~~~い」
「分かりました!その代わり絶対教えてくださいね!」
それだけ言うと仮眠をとる事にしたのである。
※ 貴斗の精神世界 ※
貴、斗、二つの超自我が語り合う。
〈これでカレが目の前で大切な人を失うのは何人目だろうか・・・・・・・・・、斗ヨ、君はこの事態をどういう風に考える?〉
《貴、僕にはコノ事実、カレには重過ぎると思っているよ》
〈斗ヨ、それじゃ、僕と一緒だね〉
《貴、カレは優しすぎる。また、自分の所為だと思い込むみ、独り悩み、苦しむだろう》
《でもカレにはもう耐えられそうも無い・・・、そしたら、カレもボクタチも潰れてしまうね》
〈斗ヨ、それだけは避けなければ〉
《それじゃ、ドウすれば、僕達はカレを護れるだろうか?》
暫し、二つの精神は考える。
《カレのコノ部分だけの記憶を閉じよう!》
〈無理だね、そんな一部分だけなんて都合の良い事、ボクタチの力では無理だ〉
《それじゃ~~~、どうすれば?貴》
〈斗ヨ、いっその事、総て閉じてしまおう〉
《そうしたら、今まで、出会った大切な人達の想い出は?駄目だよそんな事》
〈今、カレとボクタチが潰れるコト、記憶を総て閉ざす事、ドチラの方が大事だと思う〉
《そっ、それは・・・》
〈大丈夫、カレが今まで出逢ったタイセツな人達とは、また巡り逢える。必ず〉
《貴、因果律だね》
〈そう、因果律〉
《分かった、君の意見、そうしよう》
〈分かってくれたようだね、もう一人のボク。それじゃはじめるよ〉
《いつでもいいよ!》
そして、総ての記憶は己の超自我によって閉ざされてしまうのであった。
さらに記憶をたどる約十四年前の1990年7月22日、日曜日
僕は月に一回くらいお父さんとお母さんが働く研究所に遊びに行っていた。幼馴染みの詩織や香澄も一緒に行きたいって我侭を言うけど二人を連れてこなかった。だって研究所って場所は危険だってお父さんが言っていたからね。
僕は怪我なんてヘッチャラだけど、二人が怪我するなんて僕には耐えられない・・・、実は他にも理由があるんだ。
ここには従兄弟って子が遊びに来ているんだ。一人は同い年で名前は宏之。もう一人はヒロの一つ下の妹でユキ(雪菜)って言う可愛い女の子。ここに来ると良くユキの相手をしていた。
カスカスもシオシオも僕が他の女の子と遊んだり、お喋りしたりするとなんか不機嫌になるんだよな。だから、ユキと遊ぶこの場所には二人を連れて来たくないんだ。
今日はユキと遊んだあとヒロとキャッチボールをしていた。ヒロって凄く運動神経いいからキャッチボールをずっとしていても全然飽きてこない。
ユキは僕とヒロがしているそれを楽しそうに眺めていた。シオシオやカスカスと違った可愛らしさ。そんな妹を持ったヒロがうらまやしくも思えた。
あれっ?なんか言葉が違うアッハッハッ。
キャッチボール、フルバトル二時間も続けていたら流石に疲れてきちゃった。
ヒロもバテバテの様子。休憩しようと思ってユキが座っている大きな石の上に僕も腰掛けた。
ユキが真ん中で僕とヒロがその隣、僕たち三人はテレビでやっているアニメのお話をして楽しんでいた。その話が終わりかけた頃。
『ドォゴォーーーッン!!?』
モノ凄い轟音が聞こえてきた。直感で危ない!そう思ってユキを庇っていた。その時、背後からとてつもない衝撃が襲ってきたんだ。
どれだけの時間が過ぎたのかな?ヒロの言葉で一瞬だけ気が付いた。
「おい、タカ、ユキナ大丈夫か!」
「ぼっ、僕は・・・、だいじょうぶ・・・、ユキは?」
目もとの流血の所為で何も見えなかった。だから抱き締めているか、そうでないかも分からないユキがどうなっているのか心配になってヒロにそういっていた。しかし、僕はヒロの返事を聞けないまま、再び気絶してしまった。
僕の方がユキより重傷だった。直ぐにでも心臓移植をしないと危険な状態だったみたい。
でもその手術をするために必要な心臓がなかった。もう駄目なんだって思った。・・・・・・、だけれども僕は生きていた。
ユキが僕に与えてくれた心臓によって生かされたんだ。
本当はこの国の法律でユキの心臓は移植提供出来ないはずだった。だけど・・・・・・・。
宏之の妹、雪菜のそれによって一命を取り留めた。雪菜が逝ってしまった事により当時の宏之は暫く自分の殻に閉じこもってしまった。
それから這い出た時、宏之は俺の事も彼の妹である雪菜の事も忘れてしまっていた。そして、俺はその時、何も全然分からない子供だったけど雪菜がくれた命だから宏之の為なら何だってしてやろうと心の中で誓った。
それと二度と大切な女の子を失いたくないと思ったから自分を捨ててでも幼馴染みの詩織と香澄を護ろうっても誓っていた。
当時の移植技術では成功後、長く生きられる確率は低かった。それを行ってからの十五年後の生存確率は9%にも満たない。だからこの命を大切な人のために遣って生きて行こうとしたのに・・・。
それなのに従兄弟である宏之に誓った事さえ守れず、あまつさえ彼の恋人、春香を二度もあんな目に合わせてしまった。
記憶喪失の所為で大切な幼馴染みの詩織と香澄を必要以上に心配掛けさせ彼女達の心を傷つけてしまった。いつも俺の事を心配してくれる慎治に何もして遣れなった。俺って・・・、すごく最低だ。そんな俺を皆はどんな風に見ていてくれたんだろうか? ・・・、今それを知る事は叶わない。だが、ただ一つ理解した事があった。それは、性格は違えど雪菜の小さい頃と春香の小さい頃の容姿が似ていた事。雪菜が今頃の歳に成長すれば・・・、多分、今みたいな春香の姿をしていたのであろう事。
雪菜を忘れてしまった宏之は心のどこかで春香に雪菜の面影を追っていたのかも知れない。だから、強く惹かれるのであろう推測した。・・・、しかし、それが本当であるかどうか今の俺にはそれを確かめる事は出来ない。
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