第十話 夏の思い出
2004年7月20日、火曜日
書斎でPCのディスプレイを凝視していた。夏休みの課題のレポートの資料をWebで漁っていたのである。
「ハァ、中々まとまらない――――――――――――、それにしても暑いな」
俺がいるこの場所はとても暑い。なぜかは部屋の窓を開けエアコンを付けない状態でいるからだ。
静かに回転している扇風機も大して役に立っていない。
現在、各部屋の室内温度をコントロールしているシステムがダウンしてしまっている。
こんなくそ暑い時に限ってこれでは酷い仕打ちだ。修理は明後日の午後からだと管理人に言われている。それまで耐えられるだろうか?そんな中、暫く暑さを我慢して資料探しを続けていた。
それから約二時間頑張っていたから少し休憩を取ろうと思ってリヴィングに向かおうとした時、インターフォンの音が聞こえて来た。応答受話器を取る事なくそのまま玄関へと向かう。
「どなたですか?」
『ガチャッ、キィーーー』とドアが開きその軋む音が聞こえた。
「ハロハロォハァ~~~貴斗ちゃん、元気してたぁ~?」
オレは許可も出していないのに勝手に扉を開け玄関先に侵入し、挨拶をして来た人物は?
「麻里奈さん、お久しぶり。相変わらず元気そうだな」
彼女に会うのは確か半年ぶりぐらいだったかな?本当に久しぶりだ。
「この暑い中、貴斗ちゃん、いつまで私をここに立たせている気?」
「俺は入ってくる許可を出した積もりない」
「アァ~~~ンッ、酷い事、言うのねぇ。私が知っていた貴方とはまるで別人よ」
麻里奈にとって不満になる事を俺が言うといつも記憶喪失前の俺と比較する様な事を彼女は口にする。そう彼女はオレの昔を知っているようだ。それについて、去年の暮れにある程度の事を話してくれていた。
義理の姉になるかもしれなかった人だ。嬉しい様で嬉しくない。それと職業については知っている。
ユニオと言う組織のエージェントだそうだ・・・・・・・・・、としか聞かされていないのでその詳細は謎のまま。
「冗談だ、中も暑いが上がってくれ、麻里奈さん」
そう言って彼女をリヴィングに通した。
麻里奈はリヴィングに着くと我が物顔で寛ぎ始めた。
しかも俺の事なんて気にして居ないのか、着ていたスーツを脱ぎ捨て、目のやり場に困る非常にラフな格好になって居た。
そんな彼女を鼻で小さなため息をついて、呆れた目で見ながら麦茶といつ買ったのか分からないビールを出していた。
日本酒やその他アルコールは飲むがビールは余り好きじゃない。
麻里奈に出した物は慎治が買って置いていった物。
「気が利くわねぇ、貴斗ちゃん・・・、でもまだ勤務中だからこっちの方を戴くわ」
「そんな格好になっておきながら、良くもそんな言葉が吐けるものだ・・・」
「暑いんだからしょうがないでしょぉ~~~」
その真相を知ってか知らずか。そう言いながらビールではなく麻里奈は麦茶を選んで飲み始める。
〈チッ、そっちかよ〉と俺は内心舌打ち。
彼女がそれを飲み終わるのを待つ。そして、彼女がそれを飲み終わったところで声を掛けた。
「今日、どうしてここに来たんですか?」
「チョッチ、貴斗ちゃんに頼み事をしようと思って」
「なんです頼み事って?厄介事はゴメンだ」
「ソッ、そんな事はないわよ、ホラッ、去年、貴方からから借りたデータディスクが在ったでしょ?」
「何のために俺が持っていたのか分からなかったあれか?」
「そう、そう、あれよ」
彼女と俺が言うあれとは記憶喪失だった俺が持っていた三枚組みのMOディスクのことである。
その中身を確認していなかったのでどんなデータが入っているのかは不明なまま。去年の暮れに彼女からそれを貸して欲しいと言われたのでそれを直ぐに彼女に手渡していた。
「麻里奈さん、そのディスクがどうかしたんですか?」
「内の局員も頑張って鍵外しやっているんだけど。そのディスクの鍵が難くて中身を見られないのよ」
「それでそのプロテクト外し、クラッキングしてみろ、って言うんのか?」
「さすが貴斗ちゃん。察しがよくて麻里奈、嬉しいィ」
「俺、引き受けるなんて一言も言ってないだろ」
「そんな事を言わないで、お姉さんを助けると思って」
「いやだ、そんな面倒くさい事、お断り、いそがしいな。それに俺がそのプロテクトを崩す事が出来るとは限らないだろ」
「貴斗ちゃんなら大丈夫、だからおねがぁ~~~い」
何を根拠にそんな事を言うのだろうか彼女は瞳を潤ませ両手を組み懇願する様な仕草で訴えて来た。しかし絶対彼女、演技していると思った。だから直ぐに言葉を返す。
「オ・コ・ト・ワ・リ、キッパリと辞退願いさせていただく。さっきも言っただろう、厄介事はゴメンだって」
そうハッキリと彼女に自分の意思を伝えてやった。
「この前は麻里奈を助けてくれたじゃない」
「この前は仕方がなく手伝っただけだ」
「ぇエェ~~~んそんな事を言わないでお姉さん貴斗ちゃんが気持ちよくなる事してあげるからさぁぁぁぁっ!」
彼女は冗談の積もりでそうしているのだろうと思うが恥ずかしげもなく、そして艶めかしくそんな事を言い、擦り寄って抱きついて来た。
そんな麻里奈から視線を逸らし、玄関の方を向くと一つの影がさしていた!?双方の瞳中に赤々と炎を燃やし、左手に拳を作りそれを〝プルプル〟と震わせながら今にも怒り爆発寸前の女性が立っていた・・・・・・・、ヤバイと思った俺は弁明するかのようにその人に言葉を掛ける。
「シッ、詩織これには訳があるんだ、訳が、落ち着け、落ち着いて聞いてくれ詩織!」
しかし、麻里奈の今の姿で言った所で、俺の言葉が効果を見せるはずもなく唯、彼女を余計に煽るだけだった。麻里奈がこんな下着に近い格好だから、言い訳しても通じないのは当然だったのかもしれない。
「訳ってどのようなものなのですかっ!たぁかとのバァカァーーーーーーーっ!!」
彼女はそう言うと右手に持っていたハンドバックを俺めがけて投げて来た。
「アウチッ・・・、ジホイ、ハイフホンホホォーフ(詩織ナイスコントロール)」
麻里奈に抱きつかれていた・・・、捕えられていると言った方が当たっているかもしれない?な状態だったのでそれを避ける事が出来ず顔面に諸に食らっていた。
「アハァハハハッ」
麻里奈は直撃を食らった俺を見て大きく苦笑していた。だが、いまだ詩織の怒りは収まっていないようだった。
それを見た麻里奈が、スーツを着直してからこのような状況になった事を説明していた。そして、暫くの気絶から俺が復帰すると直ぐに詩織が俺の言葉を向ける。
「ごめんなさい、タカトォ」
彼女は少し涙混じりの表情で謝罪して来た。
「もう、いいヨ済んだ事だ」
しかし、オレの面は不機嫌そうだったのか詩織は謝罪顔で言葉を続けていた。
「タカトォ、そんな顔しないでください、本当に悪いと思っているのですからぁ」
「貴斗ちゃん、そんな顔しないで彼女を許して上げなさい。そんな事じゃ男が廃るわよ」
「よくもまぁそんな事が言えますねぇ、麻里奈さん」
「だって、貴斗ちゃんが悪いんでしょ、初めから私の頼みを聞いていればよかったのにア・ナ・タぁ~が断るからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は余りにも麻里奈の言いように言葉を詰めてしまった。『麻里奈さん、貴女って人は何て図々しいんだ』と心の中で訴えていた。
「ハイ、ハイ、どうせ俺が悪者だ」と皮肉タップリと彼女に言ってやった。
「アハハッハハッ、私が悪かったはそんなに機嫌を損ねないで貴斗ちゃん」
彼女は笑いながらそう言ってくるが全然反省の色がみられない。そんな俺と彼女のやり取りを中断させるように詩織が割って入ってきた。
「この方の言うとおりです。貴斗だって悪いのですからね。アナタが、私に隠さずこのような美人の方の知り合いがいるって教えてくださっていればこのような事になりはしなかったのに・・・、貴斗、そちらの女性を私にちゃんと紹介してください」
詩織が麻里奈の事を知っていたとしてもこの様な状況下だったら、さっきとは代わらなかっただろうと俺は勝手に思う・・・。
詩織は据わった瞳で俺を見ながら〝美人〟って言葉を強調しそう言って来た。
なぜ、その言葉を強調していたのかさっぱり理解できない。さっきまでのしおらしかった彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。詩織に麻里奈の事を簡単に紹介した。
「ハァ~~~イ、今、彼から紹介を受けた神宮寺麻里奈よ。宣しクゥ~~~」
「貴斗の恋人をさせて頂いています藤宮詩織です。こちらこそ宜しく御願いいたします」
「可愛らしい彼女ねぇ~~~、貴斗ちゃん」
麻里奈はにやけた表情でオレの腕を叩いて来た。彼女の言葉を聞いた詩織は幾分表情を赤くしていたようだった。確かに麻里奈の言う通り詩織は可愛いと思う。だが、俺は沈黙する。
「あらぁ?貴斗ちゃん、黙っちゃって若しかして貴方まで照れているの?」
完全にこの人は俺をからかって遊んでいるようだった。
「なぁわけあるかぁ」
冷静に言った積もりだが俺の言葉はぞんざいになっていた。
「クスクスクスッ」とそんな俺と麻里奈のやり取りをみて詩織は笑っていた。
「折角、貴斗ちゃんのガールフレンドが来たんだから邪魔するのも不味いし、私はこれで帰る事にするわね」
「そんな、神宮寺さん気になさらなくてもよろしいのに」
〈とっと帰ってくれ〉
詩織はそう言うが俺は言葉に出さずそう思っていた。
「あらぁ、そぉ~、だったらまだ少し居ていいかなぁ」
「麻里奈さん仕事はいいのか?」と遠まわしな表現で帰れと言ったが、
「私の仕事時間の融通、利くから大丈夫よ、気にしなくても」
俺のそれは彼女に通じなかった様だ。
「フフッ、それならしばらく神宮寺さんとお話出来ますね」
かくして詩織と麻里奈は勝手に人の家で会話を始める事になる。
麻里奈にオレの忘れてしまった過去を詩織に話され(それが本当かどうか俺には判らないが)と男の俺が耳にするには痛い事を散々いわれた挙句、プロテクトクラックの件を強引に押し付けて彼女は一時の豪雨のように去っていった。
今は詩織と二人っきりになり、暫く彼女も俺も沈黙したままだった。
俺の方から沈黙を破る様に彼女にどうして何の連絡も遣さずに来たのか尋ねていた。そして、彼女はその答えを返してきた。
「ねぇ、貴斗、明後日、一日中時間空いています?」
「バイト」
「明々後日は?」
「その日もバイト」
「土曜日は?」
「フルタイムだ」
「日曜日」
「その日はまだシフトが決まっていない」
彼女はそう言って来たのでカレンダーに書きこんでいるバイトのスケジュールを確認して、そう答えていた。すると・・・、詩織は涙目で不機嫌な顔を作って見せてきた。
「タカトォ、今月、バイト、バイト、バイト、ばかりで私と一日中一緒にいてくれた事、おありになりました?」
拗ねた口調で訴えて来た。・・・、暫し考えて見る。俺の方が時間取れた時、彼女をどこかへ連れて行こうと思って何回か誘った事が有った。だがその時に限って彼女の方が忙しかった様で二人で一日中一緒にいれた事はそれほど多くなかった。
「・・・なかった、詩織ゴメン。25日の日曜日はバイト入れないようにする。それでいいか?」
「本当はもっと、減らして欲しいのですけど、我侭を言って貴方に嫌われたくありませんから、それでいいです」
「その程度で詩織を嫌いになるはずがない」
「だったら減らしてくださるの?」
「どうすっかなぁ?」と曖昧にそう彼女に答えていた。
「貴斗の意地悪」
彼女は膨れた顔をしてそう言ってくる。このままじゃ、先に進まない。そう思った俺は彼女がどうしたいのかを尋ねた。
「それで詩織、日曜日どうする?」
「これなんですけど・・・・」
詩織はそう言って彼女の持ってきたハンドバッグから何かのチケットを四枚取り出して見せた。どこかのテーマパークのチケットのようだった。
「分かった、その日はそこに一緒に行こうな、詩織」
「ハイ、貴斗、有難う」
「ところで、何のテーマパークだ、そこ?」
「いってからのお楽しみです」
「俺の真似をするな」
「フフッ、貴斗の趣向が私にも伝染してしまったようですねぇ、だってそれにその方が面白いでしょうから?」
「ハハハッ、それもそうだな。ところでチケット四枚あるけど、残り二枚は?」
「翠ちゃんと八神君でもお誘いしようかと思っています」
「俺と二人っきりじゃなくていいのか?」
彼女の事を想って俺はそう答えていた。
「折角のチケット無駄にしたくないですから、それにこう言う所は皆さんでいった方が楽しいと思いますので」
「詩織がそう言うなら俺はそれに従う」
「それでは八神君に連絡御願いいたしますね、貴斗」
「了解、ヤツに連絡する前に何か必要な物はないのか?」
「特にありません」
それを聞くと時計で時間を確認した。午後7時を過ぎていた。確か今日、慎治は午前バイトだったはずだからバイト先にはいないだろう。携帯電話に掛ければ連絡を取れるはず。そう思った俺は早速彼に電話を掛けていた。受話器を耳に当て慎治の出るのを待った。そしてコール・ファイブで彼が出る
「モシモシ、八神慎治っす」
彼はいつもの口調でそう返事をして来た。
「藤原貴斗です、八神慎治さんであっていますよね」
「そんな、変な聞き方スンなよ。どうしたんだ、お前の方から掛けて来るなんて珍しい、明日は空から槍の雨じゃなくて、メテオだな。あぁ、世も末、アーマゲドン来てるってか?」
「それは面白い、是非にでもこの目にしたいものだ」
「突っ込めよ貴斗!それに俺だって世の終末なんてのぞんでねぇよ」
「俺にその注文は無駄。いつものように用件だけ言うぞ。来週のシフトまだ決めてないよな?」
「まだだけど?それがどうかしたのか?」
「日曜日は必ず開けておけ」
「なんだ、俺とデートしよってのか?野郎とはお断りだぞ」
「俺だってゴメンこうむる。詩織と翠ちゃんが一緒だ」
「そうか、それならいいかも?で?どこに行くんだ?」
「三戸外のテーマパークようだ」
「だったら車、要るなぁ~~~」
慎治に行く場所と集合時間を言っていつもの様にその後何の会話を交える事なく電話を切った。それから、そんな俺に詩織が声を掛けてくる。
「貴斗、相変わらずですね。私の時だって同じなんですから」
「別に電話じゃなくたってこうやって合って話せばいいだろ」
「本当はそうしたいのですけど、そう出来ない時だってあるでしょ?誰かさん、いつもバイトでわたくしの相手してくれませんし」
ソファーに置いてあったクッションを抱きながら詩織はまた膨れながらそう言う。彼女のその言葉は何となく皮肉っぽかった。
「悪かった、もう少しスケジュールうまく調整するよ」
「期待しなぁ~~~いで待っていてあげますわね」
「チッ、信用されてないな、俺」
彼女の言葉に舌打ちしてそう言っていた。その後は彼女の作ってくれた豪華な夕食を食べ、いつもの様に過ごし今日、一日を終えていた。
詩織と約束してから五日後の2004年7月25日、日曜日
早朝、俺のマンション前。今日、向かうテーマパークのメンバーを確認していた。
〈詩織、翠ちゃん、慎治に俺?何で先輩がここに?〉
「焔先輩なぜ、アナタがここに?」
「やぁ~~~、そうですねぇ~~~。散歩がてらこら辺を歩いていたら偶然キミたちを見かけたのでここに来ただけですよ」
「先輩、それは嘘、だったらなぜそんな格好をしている?」
焔先輩は全然散歩をしていたと言う姿ではなく、どこかに遊びに行く気満々の格好をしていた。
「フッ、本当は藤宮さんにお誘いをもらったのですよ。それなら文句ないですよね、藤原君」
「私が先輩をお誘いしたのですけど、いけなかったかしら?」
「そう言う訳ではないけど・・・」
「ハイ、そこまで、さっさと行こうぜ」
「そうですぅ、時間もったいないですよぉ」
かくして俺達は五人パーティーで目的地のテーマパークへと向かったのであった。
移動には慎治のマークⅡワゴンと言う車を使う事になっていた。流石にこの人数じゃ俺の車で行くのは無理だからしょうがない。
運転は慎治にまかせっきり、俺も焔先輩も運転を代わろうかと彼に言ったが、それほどの距離がないから心配無用だと言われた。車の中で騒ぐ事おおよそ一時間。
やっとの事で目的地に到着。慎治が車をパーキングに停めると、みんな車から出てそれぞれの荷物を持ってテーマパークのエントランスへと移動したのである。それから俺達は正面ゲートに到着した。周りを〝ざっ〟と確認した。・・・・・・?
「詩織・・・、ここって?」
「見ての通り、世界初の水をモチーフにしたテーマパークですよ」
「・・・俺、準備して来ていないけど」
〈・・・、皆と一緒で良かった。詩織と二人っきりだと色々な意味で辛い〉
「今、私達がいる場所は湾岸副都心にある世界初のプールと水族館を融合させたテーマパークです。ここは熱帯の青く澄んだ海を人工的に作りその中に様々な種類の魚を泳がせています。そして、その人工の海に私達をダイブさせ、その魚達と戯れさせると言うのが趣向のようですね。他にもアトラクションプールや普通に観賞する事が可能なアクアリウムもあります。無論、水族館でおなじみの海の動物を使ったショーなどもございますよ。最後に、ここは水をモチーフにしたテーマパークなのでそれに関するアトラクションなどが幾つもあります。おまけに水の博物館と言うものも存在しているようです」
と先輩が誰に向かって言っているのか分からないがそう事細か、丁寧に解説していた。
それを聞いて、ただ呆然としていただけである。俺の硬直を解す様に詩織が声を掛けてきてくれる。
「貴斗、心配、入りません、ちゃんと私がご用意して来てあげましたから。気にいって下さるかわかりませんが、ウフフフフッ」
彼女はおどけながらそう言ってくれていた。
「アハハハハッ、藤原君の将来の奥さんはとても準備が宜しいですね」
「クククッ、ハハッ、貴斗の将来は彼女に尻敷かれダナ」
「貴斗センパァ~~~イ、どうしちゃったんですかぁ?固まっちゃってますよぉ~」
「焔先輩も八神君も変な事を申さないでください」
詩織は顔を赤くし彼等にそう言っていた。しかし、彼女の表情は嬉しそうだった。そして俺は・・・・・・・・・、さらに硬直して白くなっていた。
だが、直ぐに正気に戻り慎治と焔先輩に軽く拳と蹴りをお見舞いしてやった。それから俺達はそのテーマパークの中に入り着替えてから指定の人工シーサイドで詩織と翠を待っていた。
「ハァ~~~、詩織に派手なもの渡されなくてよかった」
「藤宮から貰った物なら文句、言うなよ」
「そうですよ、彼女から戴いた物に文句を付けるなど、贅沢ですよ、藤原君」
「チッ、好き勝手言いやがって、俺にだって身に付ける物の好き嫌いくらいあるんだ」
本当にこの二人は好き勝手言ってくれる。まぁ、詩織の事だ、変なものを渡すはずがないと俺も勝手に決め付けていた。彼女から渡された物はトランクス系で柄は水迷彩色、幾つかのポケットがついていて中々機能的である。履き心地も悪くない。
「ところで、何でお前こんなところでグラサンなんて掛けてるんだ?眩しくないだろ?」
「俺にはこの位の日差しでも眩しすぎる」
本当は違うがそう答えていた。
「八神君、彼の言っている事は嘘です、違いますよ。藤宮さんが隣にいる時、他の婦女子の水着姿を物色しても彼女にばれない様にする為に藤原君は偽装サングラスを掛けているだけですよ」
自分の言っている事、間違いなしと言う感じで焔先輩は俺に指をさしながら言ってきた。
〈ギクッ!?〉
「やっぱ、神無月先輩もそう思いますか?」
「ホォ~~~、八神君もそう思っていたのですか」
「テメェら勝手に解釈するな」
「だったらそのサングラス、外して見せろよ」
「勇気がおありでしたらね」
彼等二人は俺をからかうようにそう要求して来た。確かに二人が言った事は遠からず近からず。詩織の前で不可抗力でも他の女性に目が行ってしまうと簡単に機嫌を損ねてしまう。それを隠す為にこれを掛けていた。特に夏場は俺にとって刺激的過ぎ。それにここは女性を更に解放的な姿に変えてしまう場所。俺だって男だ!嫌でも目が行ってしまう。だから尚更、これは外せない。
「フッ、無理のようですね」
「シャァ~~~ないな、俺はお前の気持ち判るから、これくらいで勘弁してやるよ。クッハッハッ」
焔先輩は軽く笑いながら、慎治は俺の気持ちを知ってか知らずか苦笑しながらそう言ってくれていた。そして、彼等の俺に対する心理攻撃が終わった頃にやっと待人、二人が姿を現した。
「皆さん、お待たせして申し訳ありませんでした」
「おまたせ、しましたぁ~~~」
「フフッ、二人とも、とても似合っていますよその水着姿」
「イヤァ~~~、今日はマジで良い日だ、こんな可愛い子達の水着姿見れるなんて俺ってラッキー」
「・・・・・・・・・・フゥ」
余りの二人の姿を見て嬉しさの余り溜息をついてしまった。
詩織は白?それとも薄い青?で斬新なデザインのビキニ姿に鮮やかの色彩のパレオと呼ばれる長い布を腰に巻いていた。
翠も詩織と同じでビキニである。
詩織のと、違って多色彩な物だった。・・・しかもエッ、・・・、えぐい。大胆過ぎ。
今の翠、精神的な側面を除けばその身体は昔のようにガキなどとからかえるモノではなかった。身長も詩織より少し大きいくらいである。
「ねぇええぇぇ、貴斗。どうしてしまったのかしら?」
「貴斗センパァ~~~イっ、私の水着姿どうですかぁ?」
言いながら二人は俺につめよって来る。
「フッ二人とも凄く似合っているかっ・・・、・・・、・・・、かっ、ぁ可愛い」
〈タッ、頼むそれ以上俺を悩殺しないでくれぇーーーーーーッ〉
「有難う、貴斗。そう言ってもらえてとても嬉しいです」
「やったぁ~~~、貴斗先輩が私の事を褒めてくれたぁ、スッごく嬉しいですぅ」
詩織は言葉と同じように表情も微笑ましく、翠もニコニコした顔でそう言っていた。
そんな俺と彼女達のやり取りを横で見ていた慎治と焔先輩は俺をバカにするように苦笑していた。様に見えただけなのか?
他の三人とは別に詩織とだけ一緒に行動していた。
人工の岩場に腰を据え、海面に足を浸していた。詩織はと言うと近くに現れたイルカと戯れている。あんな生き物まで放し飼いにされているとは流石、人工の海なんでも有りって感じだ。イルカと遊んでいる詩織の姿はとても微笑ましい光景である。
暫くして、そのイルカもどこかへ行ってしまい、詩織は人工の海から身体を上げる事なく俺の近くの岩場に腕を置き俺の方を見ていた。
「ウフフッ」
「なんだ、急に笑ったりして」
「だって、こう言う所に来てもその首輪を外さないんですもの。錆びないのかしらと思いまして」
「チョーカーと言え!チョーカーと」
「意味は一緒でしょ、フフッ」
「だから何で笑うんだ?若しかして詩織、態と首輪って言ってないか?」
「クフフッ、それはどうでしょうかしらねぇ~~~」
確かに詩織の言う通り俺はこのチョーカーを肌身離さず付けている。何故そうしているのか俺には分からない。だが、これを外してしまうと何故か大切な―――、絆と言う物を失ってしまいそうだと思っていた。だから俺はこれを外せないでいるのだろう。
このチョーカーを俺にくれた人物は翔子・・・・・・、姉さん。俺の実の姉であるらしい人。
「ねえ、貴斗、そろそろ海の中に潜りましょうよ」
「そうだな」
そう簡単に答えるとトランクスのポケットに入れていたゴーグルを取り出し、それを装着して彼女より先に人工の海水の中に飛び込んだ。
今、詩織と共に携帯アクアラングを口に銜え深海5mの人工の海の中に居る。
アクアラングはここのテーマパークに入る時渡されたものであった。掌サイズの大きさで一時間三十分の潜水が可能だと説明を受けている。またシリンダー内の酸素がなくなったら交換に来るようにとも言われていた。この中はちゃんと水が対流している。静止している状態だと少しずつ流されてしまう。だから詩織とはぐれない様に手を繋いで泳いでいた・・・・・・、って言うか俺が彼女に引っ張られている状態なのかも?流石は元水泳選手、泳ぎが上手い。それに今は母校で翠たちのコーチをしている様だった。
焔先輩が言っていたようにこの人工の海の中には様々な魚達がいた。他のエリアには海の小動物もいるらしい。途中何度か詩織にその魚の種類について教えて貰っていた。そして、今また彼女に魚の説明を受けていた。
{ここにいるのは何て魚だ?}
マグネットパネルと呼ばれるボードに文字を書き彼女にそれを見せた。マグネットパネルとはパネルの中に砂鉄を仕込んで磁石式のペンでその上をなぞると文字が掛けると言う仕組み。紙じゃないので濡れても心配なく使える。パネルの大きさは大体30cm×15cmで両端にベルトが通されていて肩に掛ける事が出来る。これもここへ来る前に渡されたものだ。サービス万全のようだ。恋人もそれを使って俺に答えを返して来た。
{ライトブルーのお魚はナンヨウハギ}
{黒い縦縞と尾鰭がワインレッドのお魚はレッド・バタフライフィッシュ}
{背びれが大きくて、ネイヴィーブルーのお魚がアカモンガラ}
{赤の格子状の模様のお魚はクダコンベ}
{薄いピンク色のお魚はフレームアンティアス}
彼女はボードに書いてくれた。彼女の書いてくれたそれと俺達の周りに遊泳している魚達を交互に確認して見た。
{流石は詩織、博識だ!惚れ直したぞ}
ボードに書いて少しだけ表情を変えてそれを詩織に見せてやった。
{本当かしら?口が使えないからって嘘書いていない貴斗?}
彼女は笑い顔を浮かべながらそれを俺に見せていた。詩織に俺の意図は丸見えだった。だから軽く苦笑して、また彼女の手を握り泳ぎだした。
少し泳ぐと形勢は逆転し、また俺が彼女に引っ張られるような状態になっていた。泳ぎながら時計でどのくらい時間が立ったのかを確認した。
一時間ちょい過ぎ。深海10mに一時間、少なからず減圧しながら上昇しなければ駄目だろう。そう思って彼女にここから上がる事をジェスチャーで知らせた。そして、彼女も頷いてそれに同意してくる。
この人工海中には至る所に水深を示したポールが立っている。それには1mごとにマーカーがされていて減圧上昇の時の目安として使えるようになっていた。
彼女と俺はそのポールまで泳ぎ2m五分間隔で上へと上昇して行った。アクアラングの酸素ギリギリの時間でようやく水面に辿り着く。
「プハァーーー、久しぶりの外の空気だ」
「ウフフゥっ。貴斗。まるでずっと海で暮らしていた見たいな事を言うのですね」
彼女はまだ泳ぎ足りないような表情と笑いながらそう言って来た。
「俺は詩織と違ってマーメードじゃない、長時間、泳ぐのは無理だ」
「フフッ、貴斗ったら何を言っているのかしら、私達まだ1時間と少ししか泳いでいないのですよ」
一時間も泳ぎ続ければ十分だ。それでも物足りなそうに彼女は微笑みながらそう返して来た。そんな詩織の笑顔が太陽の光もあいまじって余計に眩しく見えた。
俺は一人ゆっくりと人工の岩場に向かっていた。そして、そこまで到着すると体をそこから出し岩場に腰を据える。
詩織は水面から上がる事なく立ち泳ぎをしながら俺の方を見ている。そんな彼女を俺は眺めていた。時折、立ち泳ぎを止めクロールや背泳ぎでその場を旋回するように泳いでいた。泳いでいる詩織の姿はとても楽しそうだ。彼女は本当に泳ぐ事が好きなようだ。しかし、なぜ、詩織は大学に入ってからも水泳を続けようとしなかったのだろう・・・。
「ファ~~~~~」
大きな欠伸を俺はしていた。それから、岩場に寝そべってサングラスを掛けて大空を眺める。何かがオレのその視界を遮った。
「貴斗先輩、ここにいたんですねぇ。そろそろお昼にしましょうよぉ」
上から覗きこむような感じで翠はそい告げた。
「そうだな」と寝そべったままの体勢でそう彼女に答えていた。
「ところで詩織先輩はどこに行ったんですかぁ?」
そう聞かれたので指で詩織がいる方向を翠に示す。
「ぇえっ?いませんよぉ」
「なわけないだろ」
そう答えながら体を起こし、辺りを見回した。だが、そこに詩織の姿はなかった。
「・・・・・・・・!?どこだ詩織!」
慌てて、そう俺は叫んでいた。不安がよぎる。そして、すかさず水面の中に飛び込もうとした。その時、翠がそんな俺を呼びとめた。
「貴斗さん、これっ!」
彼女はそう叫んで携帯アクアラングを俺に渡して来た。それを受け取り直ぐに人工の海の中にダイブした。さっきまで使っていた自分のアクアラングのゲージを確認して酸素が残っているか確認した。
〈まだ少しある〉それを知るとすぐにそれを銜え体内に酸素を取り込むんだ。ついでに翠から渡された物を確認した。
〈ゲージは1/4か〉詩織の事を考え、それを自分には使わないようにと決めた。
しかし、俺が銜えている物後どれだけ持つかわからない。こう言うものは10~15%くらい余分に酸素が注入されている筈だが本当にそうだかは確証がなかった。
〈俺のがなくなる前に何とか詩織を見つけないと〉
必死で海中を探索する。しかし中々彼女は見つからない。不安が俺を焦り苛立ちさせる。
〈どこだぁーーー、しおりぃーーーっ。クソッ、俺は一体何をやっていた!俺は親友の彼女をあんな目に合わせた上、今度は自分の恋人までそうさせる積もりか。何て俺は愚か者だ〉と心の中で自分を罵っていた。
やがて水深12m位の海底に到着する。血眼になって海底を見渡した。
海底には人工で出来た珊瑚や岩場などの遮蔽物があって探索しづらかった。然し俺にも詩織にも一亥の猶予も与えられていない。l
直感に任せてあたりを探す。何度も何度も時計を確認しながら。時間は数分もたっていない。だが俺は焦っていた。それから約7分が経過していた。
砂に少しだけ埋もれ静かに対流に乗っている詩織を発見する事が出来た。息苦しくなってきた。オレのシリンダー内の酸素が底を尽きたようだ。懸命に彼女の所まで泳ぎ、そして彼女を抱き起こして揺らす・・・・・・・・・、反応がない。
直ぐに彼女が銜えていたアクアラングを外し翠から受け取った物を銜えさせ緊急用ボタンを一瞬だけ押し彼女の体内に酸素を送り込んでやった。
依然、まったく反応を示さない。
自分に対する怒りと不安を押さえながら海面へと急上昇した。長時間海底にいたわけじゃない、減圧の必要なしと思ったからそう行動を取った。それに彼女を早く水面に上げ応急処置をしなければならないとも思ったからだ。
〈グハァ、ゴボゴボォ〉
俺の方も苦しくなってきた。上まで後少し苦しみに堪え懸命に上を目指した。そして、やっとの事で海面に首を出した。
「プハァーーーーーーっ!!!」
大気中の酸素を体の中に一気に取り込む。
「詩織先輩は?」
「貴斗、藤宮は無事か?」
「藤原君、早く上がって彼女を」
岩場の直ぐ近くに出られるように上昇して来たので、俺が水中から顔を出すと翠が呼んで来たと思われる慎治と焔先輩がそこにいた。
今オレのいる場所はポイント的に良い所のなのか?周囲には結構人がいた。だが、今そんな事は気にしていられない。
周囲の視線など無視し、意識のない詩織の首に慎治と焔先輩からから渡されたタオルを丸めて敷く。気道を確保し人工マッサージを始めていた。更に、翠は硬直していた詩織の両足を丁寧かつ迅速に揉み解していた。
〈詩織、詩織、目を覚ましてくれ〉
無言で時間を数えながら一定の間隔を置いて彼女に心臓マッサージをしていた。男とは違う詩織の胸の形が邪魔してやりにくい。マッサージで彼女の胸を圧迫した回数は百を超えていた。だが依然として彼女の意識は回復しない。
「クッ、どうすればイインダ」
冷静でなかった俺は焦りの余りそう言葉に出していた。
「人工呼吸」
翠の口から小さな声でそう言葉が漏れていた。翠のその提案を耳にした俺は即座に彼女のその言葉に動こうとする。、それを言う彼女の表情は何故か不満そうであった。それに気付くはずもなく詩織に人工呼吸を開始。
人工呼吸と心臓マッサージを交互に繰り返しそれを行う。
その間、詩織の名前を声に出して呼び続けていた。それから、どれだけの時間が過ぎたのだろうか?
「ケホッ、ゲホッ、クゥ」
ついに詩織は咳き込みながら体内に侵入していた人工海水を吐き出し虚ろな感じの瞳を俺や周りに向ける。彼女が上半身を起こした刹那俺は無意識に彼女を抱きしめた。
「しおり、シオリ、詩織ぃーーーっ!!」と叫んでいた。
彼女は驚く事なくオレの胴体に手を回して来る。それから、その存在を証明してくれるように言葉を出してくれた。
「貴斗、ごめんなさい」
「何を謝る、悪いのはオレの方だ。俺が詩織から目を放さなかったらお前はこんな目に遭わずに済んだ。俺はお前をずっと護って行くって決めたのにクソだよ、俺は。本当に駄目な奴だな、俺は」
最後、俺は絶対彼女に言わないと誓っていた言葉を口にしてしまった。〝ずっと護っていく〟と言う言葉。そんな不可能な言葉を口にしていたのだ。絶対などと言うこの世界にはありえない言葉を口に出していた。
「ありがとう、貴斗」
答えてくれると彼女が俺に抱きつく力が強くなったような気がする。
「アァ~~~、涼しい場所のはずなのに何だか暑くなってきちゃったなぁ~~~」
「オウ、オウっ、貴斗、見せつけてくれやがって、妬けるねぇ」
「ハァ~~~、感動の御対面も宜しいですがもう少し周囲を気にして下さると有難いのですが」
三人の言葉にいつもの冷静さを取り戻し自分がいましている状況に気付く。
「フッ、詩織、無事でよかった」
そう言って彼女から強引に体を離した。俺が詩織から距離を置きみんなの方を振り返ると何故か三人は苦笑していた。
「しかし、あれだなぁ貴斗、よく迷わず人工呼吸なんて出来たな」
「黙れ、人の命が係ってたんだ、四の五の言っていられるものか!」
「ハハッ、わりい、別に変な意味で言ったんじゃない。お前の事だ、若し俺が同じ目にあっても同じ事したろ?」
「無論だ」と冷静に慎治に答えたが、
「まっ、お前に人工呼吸されるなんて、そんな事態は願い下げだけどね」と笑いながら返された。
「テメェ、慎治お前から振ってきたくせに何て返し方しやがる」
「わりいな。許せよ、貴斗」
「フゥ、そんな慎治の性格嫌いじゃない」
「ハハッ、俺もお前のそんな捻くれた性格嫌いじゃないよ」
俺と慎治のバカ話を割って入るように焔先輩が話しかけてきた。
「しかし、藤原君は奇特な方ですね」
「焔先輩、俺をバカにして言っているだろ」
「いえ、色々な意味で殊勝だと思います」
「先輩の言い方は何か含みがあるような気がしてイマイチ信用できない」
「フゥ、心外ですねぇ~~~っ!」
「アハハッハハッ、クゥフフフフッ」
慎治、焔先輩と俺とのやり取りを見ていた詩織と翠はお腹を押さえ笑っていた。そんなミンナに俺は苦笑した表情を見せたら余計に笑われた。それから、俺達は昼食を取り易い場所に移動し、詩織が作ってきてくれた料理を片手にみんなと談話しながら時を過ごした。
午後からはアトラクションプールに移り、俺達五人離れず行動した。そして、疲れを知らない俺達はプールから上がった後もこのテーマパーク内をくまなく歩き回り閉園まで楽しんで行ったのである。
帰りの慎治が運転してくれる車の中で俺に寄りかかり、小さな寝息を立てている詩織を見ながら考え事をしていた。
これからずっと彼女を護り、好きでい続ける事が出来るのだろうか?記憶喪失のまま、三年が過ぎてしまった。もうここまで経ってしまうと今と言う時が大切であれば昔の記憶などどうでもいいように思えてしまう。
だが、昔の記憶を取り戻しても今の関係はずっと続くのだろうか?・・・・、どうして俺はこんなにも自分の過去の記憶と彼女の関係に拘るのか理解出来ない自分がそこに居た。
それに三年経とうとする今も・・・、春香は目覚めない。
彼女一人を蔑ろにして他の仲間たちと楽しい時間を共有していいのだろうか?そんな事が俺に許されるのか・・・・・・、とても不安でたまらない。しかし、詩織の前では俺のそんな気持ちも表情も見せたくなかった。それは俺の強がりでしかないのだが・・・・。しかし、まだまだ考える事が可能な時間は幾らでも残されている。だから、これについてはこれくらいにしておく。
そう、くくって自分の考えを頭の奥に片付けると、また詩織の寝顔を覗いていた。
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