嫌われ者の最弱勇者だけど実は最強です ~嫌われるほどレベルが上がる最強スキル『嫌者賛美<ジャッジメントレベル>』を持っているので、嫌われ勇者を演じるしかない!~
第17話 僕のしわざとバレずに助ける!
第17話 僕のしわざとバレずに助ける!
フィーリアが緊張した面持ちで言った。
「ここがダンジョン……ですか」
コマルネ村からたった徒歩一時間程度。
大量の木々を縫い、開けた場所に生まれたそのダンジョンの入り口からは、妙に禍々しい気配が漂っていた。
洞窟とは違って人口的な印象が強く、魔物をかたどった石像やレリーフがある。
ダンジョンが生まれる理由はまだわかっていない。
しかしダンジョンにいるボスを倒せば、ダンジョンが消えるということはわかっている。
恐らくパーティのみんなはダンジョンを見るのも初めてだろう。
僕は何度か攻略したことがあるけど。
ギルドで依頼を受けずに勝手にね。
「おい、そろそろ外せよ、もういいだろ!」
僕はサーシャに向けて叫んだ。
ここに至るまでずっとうねうねロープ君で拘束されていたのだ。
付き合いも浅いのに、みんなも僕の扱いに慣れてきたみたいだな。
うんうん、いい傾向だ。もっとガンガン来てね!
「仕方なしー」
サーシャが拘束を解いてくれると、僕は腕をぐるぐると回した。
最低限の準備を終えて、すぐに出立したためかなり軽装だ。
ダンジョンは通常の旅とは違い、特殊な準備が必要なんだけど、みんなわかっているのだろうか。
「では行くぞ!」
もはや僕を差し置いて、リーダーのようにふるまうテレジア。
マグナ君はリーダーなんてできないから、正直ありがたい部分もあるけど、現状だとかなり悪い方向に行ってるな。
嘆息交じりに先を進むテレジアの後に続くパーティ。
みんなを帰るように促すのはもう無理だ。
いっそ仮面でもかぶってバレないように全員気絶させて宿に運ぶって手も考えたんだけど、さすがに無理があるし。
テレジアは意固地になっていて、僕の言葉を聞くわけもなく。
ここからは何とか全員を助けつつ、嫌われ者を維持するしかない。
負担が多いが仕方がない。
さて、どうなるかな。
あんぐりと口を開けているダンジョンに僕たちは入っていく。
舗装された階段。
そこを数分下ると光が届かなくなる。
入り口は舗装されているが、内部は自然の洞窟に近い造りだった。
暗い。
そんな中、小さな声と共に明かりが突然生まれる。
サーシャとフィーリアが魔法と聖術で光源を出してくれた。
ほぼ全員が厳めしい顔つきで、緊張していることがわかる。
疲労に加えて、初のダンジョン探索。
そりゃそうなって当然だ。
張り詰めた空気。
コツコツという足音だけが響く中、僕は真剣に考えていた。
仲間たちを横目で見て、そしてぷくっと鼻を膨らます。
いい香りがする。
ダンジョンは狭い。
そして暗い。
ゆえに自然に肩が触れる程度の距離になる。
大森林の道中は自然の香りが強いし、それぞれ離れ気味だった。
しかしどうだろうか、ダンジョン内ではもうほぼくっついている状態で歩いているではないか。
「きゃっ!」
不意にフィーリアが悲鳴を上げる。
同時に、僕の肩に心地よい感触が生まれた。
これは……おぱーい!?
この世の物とは思えないほどの柔らかな弾力。
僕はその感触を楽しむように自分に言い聞かせた。
そうこれは仕方のないことなのだ。
「うへへへっ」
僕が漏らす気持ち悪い声に、フィーリアは反射的に離れた。
そりゃもう勢いよく。
距離が離れてしまったのでわかりにくいが、少し顔が赤いように見える。
「し、失礼しました」
「いやぁ、ダンジョンも悪くねぇなぁ。何度転んでもいいぜ?」
「……下郎めが」
テレジアの丁寧な罵倒に、僕は満足する。
ありがとうレベルアップ。
なんでだよレベルダウン。
もはや恒例となった、ダウンとアップの共同作業。
ダウンはおかえり願いたいが、しかしアップについてくるストーカーの如き存在。
お願いだから、二度とダウンしないでよね!
いまだに誰が好感を抱いたのか、誰が嫌悪を抱いたのか、判然としない。
この四人の中の誰かだと言うことだけは間違いないんだけど。
早くはっきりさせないと、嫌われ術も大して活用できない。
僕は目を閉じ、天上を見上げた。
ぼんやりと浮かぶ神父様の顔。
同時に回想が始まる。
数年前。教会内で人知れず僕と神父様は、訓練に明け暮れていた。
『いいですかマグナ。にっちもさっちもいかなくなった時の最終奥義を教えマス』
『最終奥義……!』
『そうデス。しかしこれは諸刃の剣。使うのは本当の本当の本当に最後にするのデス』
『わかりました! 本当の本当の本当に最後にします』
『いい返事デス。では教えましょう。最終奥義を』
ゴクリと生唾を飲み込む僕。
神父様はカッと目を見開いて叫んだ。
『おっぱいを揉むのデス』
『おっぱいを……!!!?』
『それもいきなり!』
『いきなり!?』
『例えイケメンだろうと、王族だろうと、富豪であろうと、どれほどの信頼や尊敬や好意を持たれていようと、いきなり揉み揉みしたら引かれマス!
女子はとてもデリケートな生き物! ちょっと触っただけで嫌悪感マックスなのに、おっぱいなんて揉んだらもう最高潮に気持ち悪くなるのは請け合いデース!!』
『で、でもそんなことをしてしまったら大変なことに!』
『そうデス。いきなり揉む。それはセクハラ……いえ、もはやただの痴漢行為! ただの変態野郎デス!!
通常ならばお縄になり、ムショでは変態の烙印を押されいじめられ、世間は許さず、社会復帰も難しく、家族には見放されるでしょう……!
ですがあなたは勇者! 揉んでもギリギリセーフ!!!
王様も、勇者だからしょうがあるまい……と妥協すること間違いなしデス!!』
『王様が許しても……相手を傷つけてしまうかも』
『そうデス。ですから最終奥義なのデスよ』
神父様は真剣な顔のまま、僕の肩をガッと掴んだ。
『揉む時は覚悟を。世界のすべてを背負うという覚悟を持つのデス!!』
神父様の慈愛溢れるまなざしを思い出しつつ、僕の意識は現在に戻った。
そして同時に右手をわきわきと動かす。
できればしたくないけど……覚悟を決める必要があるかもしれない。
胸を揉みしだく、その覚悟を……!
僕が決意の炎を滾らせたと同時に、それは聞こえた。
「キャアアアアアアアアァァァッッーー!!」
全員が一斉に走り出す。
誰かの叫び声。
一般人が入り込んだのか?
声からしてそう遠くはない。
だが全力で向かわねば間に合わないかもしれない。
だったらやるべきことは一つだ!
僕は勢いよく地面を蹴った。
そして転んだ。
「ぐべっ!」
「マグナ様!」
「放っておけ!」
フィーリアが足を止める中、テレジアは僕を無視して走り続けた。
「いってぇな! やってられっか!」
僕は悪態をつきながら膝をさする。
僕が起きあがる気配がないとわかると、フィーリアは光の玉を僕の横に置いた。
「ひ、光はここに! 後で来てください!」
一礼してフィーリアが慌ててテレジアの後を続いた。
フィーリアが通路を曲がり、姿が見えなくなる。
同時に僕は足に力を込める。
「さあ、行くぞ」
渾身の力を込め、地面を蹴った。
一瞬にして視界が後方へ流れていく。
大気が僕の身体を押さえつけようとする、しかし僕の身体は光のように虚空を貫く。
一秒でフィーリアの横を通り過ぎた。
「きゃっ!??」
強風がフィーリアの横を通る。
さらに数秒後、テレジア、エフェメラ、遅れているサーシャの横を一瞬で通り過ぎる。
「くっ!? な、なんだ!?」
「…………っ?」
「おー?_魔物?」
風が彼女たちを襲い、そして視界をくらます。
視界に僕の姿は微塵も映っていないだろう。
早く、速く、迅く。
僕は洞窟内を駆ける。
悲鳴の聞こえた場所へ到達。
そこにいたのは十数体の大小の泥人形。
ゴーレムだ。
人間をかたどりながらも、ただれたような見た目をしており、手にはボロボロの剣や槍を手にしている。
落ちている松明が当たりを照らしている。
ゴーレムが囲む、その中央に少女が座っていた。
服は切り裂かれ、肌が露出している。
不幸中の幸いか、怪我はないようだった。
防具も武器もなし。ただの村人か。
それを一瞬で判断した僕はさらに、速度をあげる。
ゴーレムが今にも少女に襲い掛からんとしている。
次の瞬間。
ゴーレムは全員、動きを止めた。
少女は恐る恐る目を開ける。
刹那、ゴーレムは全員、吹き飛んだ。
泥の肉体は飛び散り、武器も跡形もなく破壊された。
そこにあったものはすべて消失し、残されたのは泥と錆びた武器と、呆気にとられた少女だけだった。
僕はというと、少女がいた場所から見えない場所まで移動していた。
地面に足をつけて速度を緩めながら体勢を整え、ようやく停止すると汗をぬぐう。
ふー、危なかった。
ギリギリ助けられたみたいだ。
通り過ぎた瞬間、全員を撫で斬りにしただけなんだけど。
速度が尋常ではないため、ゴーレムたちは遅れて破裂したみたいだ。
少女がいなかったらもっと簡単だったけど、かなり力加減が難しかった。
結構レベル上がったからなぁ。
体の動かし方を調整しないといけない。
とにかく助けられたみたいでよかった。
さて、戻るか!
再び足に力を込め、少女がいた空洞を素通りすると、テレジアたちとすれ違う。
「ま、またか!?」
「…………?」
「風ー?」
そしてフィーリアの横を通りすぎる。
「こ、これは一体……?」
と、元の場所まで戻ると、さっきと同じ体勢になった。
ふぃー、何とかうまくいったみたいだ。
そろそろテレジアたちが少女のところに到達するはず。
暗く、光源も少なく、狭いダンジョン内であれば僕の姿は見られないはずだ。
さすがに日中の外、遮蔽物もない開けた場所なら気づかれるだろうけど。
ダンジョン内というのが幸いした。
僕の仕業とバレず助ける、これが最上の選択だよね!
レベルの増減もない、安心安心。
「さてと」
僕が立ち上がるとフィーリアが残してくれた光の玉に手を伸ばす。
触れると、僕のすぐ隣にぷかぷかと浮かび上がった。
そして僕はゆっくりと歩き、テレジアたちの後を追った。
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