第15話 情緒不安定系の勇者様

 王都を出発して三週間。

 ようやく初めの村、コマルネ村に到着。

 本来だったら十日ほどで着く距離だったのだが、色々あって遅れた。

 道中、仲間たちの連携はまったくできないままで――。


「皆の者、私に続け!」

「テ、テレジア様! そちらの道じゃありません!」

「はぁはぁ……疲れたー、もう休もー」

「…………(無言で何かを攻撃」


 こんなやり取りをずっと続けていたのだ。

 迷子のテレジア、世話役のフィーリア、虚弱体質のサーシャ、何を考えているかわからないエフェメラというパーティは、それはもう見事に連携が取れなかった。

 移動時間が大幅に延び、倍近くの時間が要してしまったのだ。

 ちなみに僕は傍観者に徹している風を装い、密かに手助けしたりしている感じだ。

 レベルもそれなりに上がったり下がったり。

 合計ではまあまあ増えた感じだ。

 僕が言うのもなんだけど、このパーティ大丈夫なんだろうか。

 フィーリアの胃が持ってくれるか心配だ。

 とにかく村に着いたのはよかった。

 うねうねロープくんに縛られて寝るのは、さすがにイヤだったし。


「む、村ー、やっと村ー」


 満身創痍のサーシャが杖に体重を預けながら叫んだ。

 わかる。大変だったよね……。

 サーシャだけでなく全員が疲弊している様子だった。

 僕もだ。

 レベルが高いから体力はあるけど、疲れないわけじゃないし。

 コマルネ村は人口百人くらいのまあまあ大きめの村だ。

 武器、防具、道具、魔道具、生活用品、宿泊施設、ギルドなど、最低限の施設はある。

 とりあえずの滞在場所としては十分だろう。


「宿ー、宿行こー」


 サーシャの提案に誰もが賛同する、と思っていた。


「まだ日は高い! 冒険者ギルドに行くぞ!」


 御冗談をテレジア様!

 長旅の上、疲労困憊なパーティにまだ頑張れと!?

 テレジア以外の全員が「嘘だろマジかよ」という顔をテレジアに向けた。

 エフェメラでさえ戸惑っている様子が見てとれた。


「し、しかし移動で皆様かなり疲労しておりますし、明日でよろしいのでは」

 グッドだよフィーリア!


「何を甘いことを言っている! 悠長にしている時間はない!」

 バッドだよテレジア!


 体調を整えてからの方が絶対にいいと僕は思う。

 というか普通は思うよ。

 しかしテレジアは思わないようで、不満そうに鼻を鳴らした。

 なんというプライドと意識の高さ。

 頑張るのはいいことだけど、今は休もうよ!

 仕方ない、ここは強引に……。


「ギルドに行くんならおまえだけで行くんだな。俺は疲れたから宿に行くわ」


 僕は背を向けて、恐らく宿があるであろう西通りへ向かおうとした。


「元より貴様に期待などしておらん! さあ、行くぞおまえたち」


 おまえたち(・・・・・)?

 宿屋へ向かう僕、ギルドのある東通りに向かおうとするテレジア、そして挟まれる三人。

 何これ、何この対立?

 なんで三人に選択迫っちゃってんのこれ。

 言い出した手前もう宿に行くしかないし。

 嫌われ者のマグナくんならそうするだろうけどさ。

 三人に悪い気がする。


「仕方ありませんね」

「あー、宿ー……休みたいー……」

「少しだけ我慢しましょう、サーシャさん」

「うー、うー! うへー……あい……」


 背後でフィーリアとサーシャの会話が聞こえる。

 僕は違和感ない程度にゆっくりと歩いていたが、不意に足を何かに掴まれた。

 そしてそのまま引っ張られ、見事に顔面を地面に打ち付けてしまう。


「ぐべっ!」


 うつぶせに倒れた状態で、いつの間にかサーシャの足元まで連れていかれる。

 足にはうねうねロープ君が巻き付いていた。


「おい! なにしやがる!」

「マグナも行くのー、逃げるのダメー

「マグナ様、申し訳ありません」


 憤りながら二人に悪態をつく嫌われ者のマグナくん。

 しかし内心は違った。

 ナイスだよサーシャ!

 君のおかげで僕は強引に一緒にいることに成功した!

 しかもレベルもいくつか上がった!

 そしてレベルがいくつか下がった!

 もうツッコムのやめるね!

 エフェメラはぼーっと遠くを眺めているだけだったけど、こちらを少しだけ気にしている様子だった。


「何をしている、さっさと行くぞ!」


 お姫様はおかんむりである。


「さ、参りましょう」


 フィーリアが歩き始めると、サーシャがふらふらとした足取りでついていく。

 僕は立ち上がることさえ許されず、うねうねロープくんに引っ張られていく。


「離せぇ! 俺を離せぇ!」


 離さなくていいよぉ! そのままそのまま!

 僕は地面にしがみつく振りをしながらただ引きずられていった。

 隣をエフェメラが歩き、ちらちらと僕を見ていた。

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