第13話 因果応報ってやつ


「ご苦労ご苦労。ずぶ濡れでいい感じじゃねぇの。いやぁ、壮観だなぁ! げへへ、やっぱみんなエロい体してていいねぇ!」


 僕が挑発的に言うと、テレジアが睨みを利かせる。

 しかし何か言ってきたりすることはなかった。

 僕に期待するのは諦めちゃったみたいだ。

 僕の視線に気づいたのか、テレジアとフィーリアは手で身体を隠した。

 サーシャはなぜか堂々としていたが、エフェメラは僕と距離を取っている。

 5レベルアップ。

 4レベルダウン。

 うん、セクハラを好意的に受け取った人、手を挙げてくれませんか?

 お願いだから、エッチマグナの効果が弱まっちゃうから……。

 僕は内心で戸惑いを覚えていた。


「と、とにかく乾かしましょう! 風邪引いちゃいますから」


 フィーリアの言葉に反対の声はあがらない。

 そろそろ夕刻だし、野営の準備をする必要もある。

 夕食は携帯食料があるから大丈夫だけど、次の町まではそれなりに遠いから途中で食料を調達する必要はあるだろう。

 さすがにみんなも気づいているだろうけど。


「よし、私に続け!」

「テレジア様! そちらの方向へ行くと戻ってしまいますよ!」


 フィーリアの言葉にテレジアは足を止める。


「……ふん、おまえたちを試したのだ」


 なるほどなるほど。

 この姫騎士は方向音痴なんだな。

 うんうん、認めたくないよね、わかるよ。

 テレジアはなぜか僕をキッと睨むとその場に佇んだ。


「……と、とりあえずあそこの岩場へ行きましょう」


 遠くに岩の群衆地帯が見えた。

 反対意見がなかったため、フィーリア主導のもと近くの岩場へ行き、薪を集め、焚火を作った辺りで空は暗くなっていった。

 火を囲む五人。

 食事を終えると無言で火を見つめた。

 全員、さすがに疲労が顔に出ている。

 僕も色々あって疲れたし、寝たいところだけどそうもいかないかな。

 そんなことを考えていると、テレジアが鋭い目つきで僕を睨んだ。


「おい、まさか貴様、そこで寝るつもりではないだろうな?」

「ひ、酷いな……俺たちは仲間だろ? 一緒にいるのが当たり前じゃないかぁ」


 僕が悲しそうに目を伏せて言うと、テレジアはまぶたをピクピクとさせた。

 しかしレベルの増減はない。

 すでに嫌われているからかな。


「貴様がいては安心して寝られん! 離れた場所で寝ろ!」


 テレジアの意見には他の三人も賛成らしく、フィーリアでさえ助け舟を出さなかった。

 僕としてもそうなって当然だと思っているし、別にどこで寝ようと構わない。

 むしろ動きにくくなりそうなので、離れて休む方がいいとさえ思っているけど。

 とにかく今の内に互いの妥協ラインを作っておくべきか。

 どうしようかと迷っていると、サーシャが鞄をごそごそと探り、何かを取り出した。


「じゃーん、うねうねロープー」


 取り出したるは名前の通りうねうねと動くロープだった。

 なんだかミミズみたいで気持ち悪い。

 やや引き気味でフィーリアがロープを指さす。


「サ、サーシャさん、その気持ち悪……い、いえ、ロープは……もしかして魔道具でしょうか?」

「うんー、これで拘束すればいいー。魔力を編みこんでるから強度も高いー。簡単には解けないから、安心ー」

「ほう、でかしたぞ。サーシャ、それでこの腐れ勇者を拘束するとしようか。寝ている間に、何かされかねんからな」


 テレジアが嬉しそうに笑う。

 彼女の笑顔を初めて気がしたが、最初の笑顔がこんな歪んだ笑顔なんて……。

 ぬぼーとした顔のまま、サーシャが僕に迫る。


「へっ! 【絶対回避(スピードスター)】のマグナ様が拘束されるとでも……ん? お、おい」


 気配なく僕の背後に回っていたエフェメラが、がしっと肩を掴んでいた。

 そこに殺気も、攻撃的な気配もなかった。

 視界にも入ってなかったので避けることもできない。

 【絶対回避(スピードスター)】の致命的な弱点、それは見てないと避けられないということだ。

 その弱点があるからこそ【絶対回避(スピードスター)】を持っているという風に装えるんだけどね。

 右手はテレジアが、左手はフィーリアが拘束する。

 なんという連携。魔物との戦闘では見せなかった完璧なコンビネーションだった。


「お、おいよせ、やめろ! やめてくれ!」


 僕は身をよじり何とか逃げようと軽くもがいてみた。

 嬉々として僕の手を掴むフィーリアとテレジア。


「も、申し訳ありません勇者様。これは必要なことなのです……!」

「精々、己の行いを反省するのだな!」


 エフェメラは無言のまま、ガッチリと僕の体を掴んだままだ。

 背中に柔らかな感触があるが、今のマグナ君にはそれを楽しむ余裕はなかった。


「ロープくんー、マグナを拘束するのだー」


 サーシャの命令でロープが生き物のようにうねり、僕の肌の上をすべる。

 ぐっ、き、気持ち悪い!

 ロープが這いずり、手足を拘束すると、みんなは僕から離れた。

 後ろ手に拘束された上に、足まで動かせない。

 夜に催したらどうすればいいの、これ。


「く、くそー! 夜は俺様の独壇場になる予定だったのに! エロい女がそこにいるのに何もできないなんて生殺しだ! 離せ! 揉ませろ! 触らせろォッ!」

「はははっ! いい気味だ! 朝までそうしているんだな!」


 高笑いするテレジアの横で、フィーリアが申し訳なさそうに何度も頭を下げた。

 そして4レベルダウン。

 僕の無様な姿を見て、誰かの気が少し晴れてしまったのだろうか。

 エフェメラはいつの間にか、もとの位置に戻っているし、サーシャは欠伸をした後、何やら呪文を唱えると横になった

 フィーリアは辺りを一周して、小さく祈る。

 すると辺りに淡い光が生まれ、そして消えた。

「結界を張っておきましたので、何かあればすぐにわかります。皆様は安心してお眠りください」

 フィーリアがそう言う前に、もう寝ている仲間がいたけど。

 夜の番が必要ないのは助かるけど、この拘束は厳しい。

 各々が寝入る中、僕は夜空を見上げた。

 そして目を閉じるとふと思う。

 この拘束ってこれから毎日されるのかな、と。

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