第10話 会敵
僕たちは王都から少し離れた平原を無言で歩いていた。
気まずい、なんて気まずいんだ。
まあ原因は僕なんだけどね!
とはいえ、フィーリア以外の人間は口数が多い方ではないようでもあった。
テレジアは話すには話すけど自分から話すタイプじゃないみたいだし、サーシャは不思議ちゃん、エフェメラは無表情で無口、それで僕は性格終わってる系嫌われ勇者という、このパーティ大丈夫かって感想を僕も抱いている。
ごめんねフィーリア、唯一まともな君がこのパーティの要だ。
僕は嫌われるという使命があるので安易に仕切ったりできないし。
しかしこの無言はさすがにまずい。
仕方ない、ここは僕の小粋なトークを見せようか。
「で、おまえら彼氏いるのか?」
あまりに予想だにしない質問だったのか、テレジアとフィーリアが呆気に取られていた。
サーシャは目を真ん丸にして、エフェメラは無表情のまま僕を凝視した。
4レベルアップ。
そして9レベルダウン。
は? なんでレベルダウンしてるの?
意味がわからず僕は全員の顔を見比べた。
そもそも僕を好いてくれる人はまずいないから、レベルダウン自体かなり珍しいんだけど。
神託を受けてしばらくはそういうこともあったけど、嫌われ勇者の行動が染みついた今ではそういうことは一切なくなっている。
酒場ではテレジア関連でレベルが下がったから、もしかしたらテレジアに敵意を持っている人がいるのかもしれないと思ったけど、そうじゃなかったのだろうか。
わからない。まったくわからなかった。
ああ、神父様がいてくれたら多分わかるのに!
「あ、あの今のは聞き間違いでしょうか? 彼氏がなんだと、聞こえたような……」
おずおずと聞いてくるフィーリアに対して、僕は自信満々に首肯を返す。
「あ? 彼氏がいるかって聞いたんだが? んだよ、問題あんのか?」
「も、問題というか、何というか……その、聞く必要があるのでしょうか?」
「ある」
怒りに打ち震えるテレジアと戸惑うフィーリアに対して、僕は逡巡せずに答えた。
そうすると彼女たちの中にほんの少しだけの疑問が浮かんだようだった。
僕はその隙を逃さず、畳みかけるように言った。
「勇者の従者って重要な役どころなのに、彼氏やら婚約者やらいてみろ。男のことを考えて旅に身が入らないとか、帰りたくなるだとか、下手すりゃ妊娠してるとかそういうことになりかねないだろうが。で? いるのか? 想い人やら彼氏やら婚約者は」
僕はあくまで真顔で言った。
完全なセクハラである。
しかしあながち間違いでもないかもしれない。
真摯な態度に戸惑いを覚えつつも、一応は納得してくれたらしく、フィーリアが恥ずかしそうにもじもじとし始めた。
「お、おりません……わたくしは聖女ですので、だ、男性との関わりも少なく、こ、ここ、恋人なんているはずもありません」
「おー、ボクもいないよー」
フィーリアはわかるが、次にサーシャが答えてくれたのは驚いた。
サーシャはじっと僕を見て、何か観察しているように見える。
なんだろう、この背筋がぞくっとする感じ。
あの目。まるで実験動物を見るような……。
「…………ふん。貴様に話すつもりはない」
テレジアは頑として話す気はないらしい。
まあ王族なら政略結婚とかありそうだし、意中の相手はいなくても婚約者はいるかも。
ただ神託で従者に選ばれたから、色々と面倒なことになってそうな気はする。
残りのエフェメラは僕と目が合うと興味なさそうに逸らした。
いない、ということでいいかもしれない。
さて、そろそろけん制するか。
僕は下卑た表情を浮かべて、全員を品定めするように舐めるような視線を向けた。
「くくく、全員相手はいねぇみたいだな。こりゃいい。ま、いたらいたで俺としちゃ構わねぇけどなぁ? しかし俺は運がいいぜ。まさか従者全員が良い女だとは思ってなかったからな。清廉潔白なのにエロい体した聖女、均整の取れた体つきで気品漂う男好きのしそうな姫、スタイル抜群でクールなエルフに、ロリ体形の魔法師とはなぁ! これからの旅が楽しみで仕方ねぇなぁ、おい!」
「なっ!? ききき、き、き、貴様、勇者でありながらそのような不埒なことを考えているとは……ゆ、許せんッッ! やはり貴様は剣の錆にせんと気が済まん!」
テレジアは我慢の限界だったらしく抜剣し、即座に僕へと振り下ろした。
僕はその剣閃を僅かに身をよじるだけで回避する。
「おいおい、俺様が誰だか忘れたか? 【絶対回避(スピードスター】のマグナ様だぜ? そんな攻撃が当たるとでも?」
内心では驚いていた。
まさか本当に殺そうとするとは、この人、どんだけ好戦的なのさ!
僕は、実際には【絶対回避(スピードスター)】のスキルを持っていない。
レベル差がかなりあるから避けられたけど、僕のレベルが低かったら死んでたよ!?
複数回のレベルアップとダウンが交互に訪れる。
避けたことで好感を持ったのだろうか?
でもこれは勇者として普通のことだし【好印象を持つほどのこと】なのだろうか。
「お、落ち着いてくださいテレジア様。ゆ、勇者様もきっと場を和ますためにおっしゃったのでしょう! ね? そうですよね、勇者様!」
「あれ? わかっちゃいました? そうなんだよなー、俺様、気を遣うタイプだから」
「な、何をぬけぬけと! こ、ここ、この男がそんな気を遣うはずがないだろうが!」
テレジアは顔を真っ赤にして激高していた。
なんとわかりやすいほどの怒りだ。
この五年の活動がなければ間違いなく平謝りするくらいには恐ろしかった。
しかし幾度も訪れたレベルダウン……一体何が起こっているのだろうか。
残念ながら、人は簡単に人を嫌うけど、簡単に好きにはなりにくいものだ。
ワガ村の人はわかりやすかったのに、仲間たちのことはまったくわからない。
テレジアが僕を嫌っているだろうことはわかるんだけど、誰が僕に好印象を抱いているのか。
その人物を見つけて、対策を練る必要があるだろう。
簡単なやり取りで10前後のレベルが増減するくらいだ、もしかしたらレベル上限は100……もしかしたら1000を超えるのか?
五年間頑張ってようやくレベル1500程度まで上げたのに、下手をすればその努力が無駄になってしまう。
仲間たちには絶対に嫌われる必要がある。
ただし最低限の連携や、協力ができる程度の関係性を維持する必要はある。
嫌われてレベルを上げても仲間がおらず、一人の状態で魔王を倒すのは不可能だ。
魔王と直接戦うまで多くの魔物が立ち塞がるのだから。
もちろん連合軍の共同戦線が張られるだろうが、実際に討つのは勇者一行であるため、やはり仲間の助力は必要不可欠になる。
とにかくまずは見極める必要がある。
あまりテレジアばかりに嫌われても、さっきのように殺されかけるだろう。
気を付けないと、思ったより彼女は気が短いようだ。
……思い返すと、殺されてもしょうがないほどの不敬を働いているとも思うけど。
不意に感じた気配に僕は振り返った。
しばらく遅れてエフェメラが弓を構え、全員が様子に気づいて身構えた。
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