第9話 嫌われ後、出立

「わ、わたくしから自己紹介させてくださいませ! 聖神教団聖女フィーリア・ハインリ・メフィストと申します! 聖術が使えますので、癒しと不死属性の魔物や魔族に対してはお任せください! お気軽にフィーリアとお呼びくださいませ。レベルは198です!」


 立ち上がり自己紹介するフィーリアに視線が集まる。

 彼女の所作は気品があり、妙な色気があった。

 動くたびに揺れる乳房が何とも背徳的だった。

 レベル200付近あれば、十分なレベルだ。

 中級以下の魔物なら対応可能なくらいには強い。

 今後成長することを考えれば妥当なレベルだろう。


「で、ではお次は勇者様、お願いいたします」


 フィーリアは司会よろしく、場を仕切り始めた。

 そうね、君がそうしないと回らないもんね、本当にごめんね……。

 僕は気怠そうにしながら答えた。


「俺様は勇者マグナ。スキルは【絶対回避(スピードスター)】。名前の通り回避に特化したスキルだ。剣、槍、弓と簡単な魔法は使える。レベルは90だ」


 レベルと使える魔法に関してはかなり抑えめに言っておいた。

 僕はテレジアが顔を顰めたのを見逃さない。

 まあ、かなりレベル低いよね。

 明らかに鍛錬サボっていた勇者のレベルだもんね。


「お、お次はサーシャさん、どうぞ!」


 フィーリアに言われてサーシャが面倒くさそうに立ちあがった。

 動きがゆっくりだ。彼女の周りだけ時間遅延の魔法でもかかっているかと思うほどだった。

 そんな魔法ないけど。


「宮廷魔法師のサーシャ。大体魔法は使える。火魔法が一番得意。燃やすの好き。ぼーぼーって明るいのがいい。レベルは203。好きなものはイケメン。マグナはイケメン?」


 いきなり僕に話しかけてきたので少し驚いた。

 しかしイケメン好きとは結構な遊び人なのかな?

 というかなぜイケメンかどうか僕自身に聞く?

 よくわからないけど、嫌われ者のマグナ君ならきっと肯定するだろうけど、いいのかな?

 彼女はイケメンが好きだと言っている。

 僕が自分はイケメンだと言えば好感度が上がるのだろうか。

 しかしこれはフェイクで僕を茶化すために言っているという可能性もある。

 どっちだ。どっちが正解だ。

 僕は一瞬だけ考えた。そして結局こう答えた。


「へっ、見りゃわかるだろ。俺様はとびっきりのイケメンだ!」

「おー、イケメン。じゃあマグナ好きかもー」


 デロデロデー。レベルが五回ダウンした。

 おいぃ! 額面通り受け取っちゃったよこの子!

 僕がイケメンじゃないことくらい見ればわかるのに、鵜呑みにしてるし。

 な、なんだこのサーシャって子、変だぞ。

 しかし少し遅れてレベルが上がったので良しとするか。

 他の三人が僕の返答を気持ち悪く思ったんだろうな、うんうん。


「で、では次にエフェメラさん、どうぞ」


 すっかり仕切り役のフィーリアだった。

 エフェメラはゆっくりとフィーリアと僕を見た。

 数十秒間の無言。

 全員が何事かと固唾を飲んで見守る。

 そして小さく手を挙げて。


「…………エフェメラ。エルフ……弓を使う……レベルは195」


 終わったらしい。

 それ以降は何を言うでもなくじっとテーブルの中央付近を見つめていた。

 ……無口な子、なのかな。

 クールタイプって言うんだっけか、こういう人もいるって神父様が言ってたな。

 サーシャみたいにちょっと変な子なのかもしれない。

「そ、それでは最後にテレジア様! お、お願いいたします!」

 テレジアは立ち上がる、横を向きながら言った。


「リンドブルグ第三王女テレジア・ラウツェニングだ。レベルは220。剣と強化魔法を使う。剣技ならば近衛騎士隊長にも引けを取らん。そして……此度の神託は何かの間違いだ! このような不遜で不埒で品性のかけらもない悪辣者が勇者なわけがない!」


 テレジアにビシッと指をさされる。

 僕は小さく嘆息して見せ、フィーリアに尋ねた。


「なあ、勇者の条件に品性が入ってるのか?」

「え? ……そ、それは、わたくしの知る限りでは、その……」


 フィーリアは言いにくそうにテレジアを見た。

 テレジアはその視線を受けて、僅かに顔を顰める。

 今度はテレジアに話しかけた。


「勇者ってのは性格がよくなけりゃダメなのか? 勇者に求められるのはそういう部分なのか? 違うよなぁ。勇者は【唯一魔王を殺せる人間】だ。聖神から神託を受けた特殊な力を持つ存在だ。その人間に品性なんて役にも立たねぇもんが絶対に必要か? あ?」


 いや、必要だと思うけどね、僕はね。本当はね、そう思うよ?

 やっぱり多少はそういうのあった方がいいと思うんだ。

 でも嫌われ勇者のマグナ君はそうは思わないってだけでね。

 ただ実際に勇者は唯一魔王を殺せる存在であり、他の人間は魔王に傷をつけることも困難で、倒すことは不可能だ。

 勇者は魔王を倒すために存在し、魔物に大して特殊な能力があるわけではない。

 ただスキルは強力なので、普通の人間に比べると強いんだけど。

 テレジアは何か言いたげだったけど、「くっ!」と言った後、言葉を呑み込んだ。

 残念ながら歴代の勇者は、全員が全員、品性のある人ではなかった。

 それはつまり性格が悪いって意味じゃなくて、貴族とかの高貴な生まれじゃなかったってこと。

 僕もそうだけど平民だけでなく貧民、奴隷などから勇者が出ることもあったし。

 過去には色々あったらしいけど、今はそれが当たり前になり、勇者となった場合、過去にとらわれないようにするという意向が強くなっている。

 むしろ絶対数が少ない貴族や王族から勇者が出たことの方が少ない。

 ちなみに王族が従者になったことも多分ない。

 しかし神託は絶対。

 王様もテレジアも内心は納得していなくても、受け入れるしかなかったのだろう。

 その後、まとめ役のフィーリアの的確な指示により、所持品と所持金などを互いに確認した。

 従者の旅立ちに必要な支度金や道具は最低限と定められていたため、それぞれ大して持ち合わせはない。

 しかし王都内の食事は無料だ。勇者だからね。


 何となく重い空気を感じつつ、僕たちは王都を旅立った。

 馬は使えない。馬車も使えない。所持品は旅に必要な道具と最低限の薬品類。

 所持金は数泊すれば消えてしまうほど。

 旅立ちは万全でなく、僕たちの仲はすでにかなりギスギスしている。

 しかも支援者の影はどこにもない。

 これ僕のせいで完全に見捨てられたな。

 王族のテレジアがいるから本来なら支援すべきなんだろうけど、第一でも第二でもなく末の第三王女だし、僕みたいな勇者に支援したって噂が流れればそれだけで風評被害があるだろうし。

 多分、他の勇者であるクラウスとリアンだっけ、あの二人の方に行ったのかも。

 それに勇者は他国にも存在するし、百人に至るまで毎期、三か月に一度神託が下るから、次回に賭けたという支援者もいるだろう。

 どっちにしても僕たちには縁のない話になってしまったらしい。

 しかし、それでも全員が前に進むしかなかった。

 不本意ながらも神託に従うためか、あるいは別の目標があるのか、それは人それぞれだろう。

 僕は魔王を倒すという目的のために王都を後にした。

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