第16話 古の精霊武具
夜明けの奇襲作戦は成功し、無事に1つ目の集落の殲滅に成功する。
集落の外側に配置されていた忍び衆なども集まってきて、現在の状況や次なる集落の情報が、事細かに正虎へと報告されていく。
生き残った鬼が居ないか警戒をしながらも、討伐に参加した人達が続々と集まってくる――
「では早速……次の集落に向かうぞ。次なる戦場は、特殊個体の鬼など、あきらかに上位種の鬼も発見されている。今まで以上に厳しい戦いになるだろう。決して油断だけはしないように」
「「おうっ」」
正虎は討伐隊の人達に声を掛けながら、様子を確認していく。
集められたのは精鋭ばかりとあって、程よい緊張感を保ちながらも、みんな落ち着いているみたいだ。
今回の様に大規模な魔法の制限といった縛りもなく、次こそが本気の戦場となる。
迅人は高ぶった気持ちを落ち着けるように、普段よりも丁寧に武器の状態を確かめたり、予備の棒手裏剣などを確認する――
殲滅した集落から、素早く移動していく討伐者達。
次なる集落は、山際に作られた集落となっていて、洞窟のような場所も確認されている。
洞窟の中はいったいどうなっているのか……忍び達でさえ安易には入り込めない場所のせいで、何か居るのかもわからない状態だ。
いざ討伐開始となれば、集落の殲滅と同時に、洞窟前にも多数の討伐者が向かう手はずになっている。
前回と同じ様に布陣した討伐者達。
「ピーーッ、ピッ、ピーーッ」
「では、我らもいくぞ!」
「「おうっ」」
合図の笛が鳴り、正虎の掛け声と共に、一斉に飛び出して行く精鋭14名。
群がる小鬼達を、通りすがりの一太刀にて次々と切り伏せていく。
前回と違うのは、小鬼達の中でも時折り体格の良い個体が居たり、武器を手にしている鬼が多い事だ。
同じ小鬼と言えど、今まで出会った中でも手ごわかったけど……。一緒に行動しているメンバーは精鋭ばかりとあって、軽々とたおしていく――
正虎が遠目に何かに気づいて声をかける。
「弓持ちと、魔法使いが居るぞ!」
正虎の声に気づいて、その方向に視線を送る討伐者達。
比較的大きめの建物の前には、特異個体なのか体格の良い小鬼達が、味方の被害も考えずに、小鬼達ごと巻き込むのも気にしないとばかりに、こちらに向けて弓矢や魔法を放ってくる。
「まずはあそこだ! 突っ切るぞ!」
正虎の掛け声と共に、忍び達の弓の援護を受けながら、討伐者達は……ただひたすらに突き進んでいく。
「ハァァーッ」
迅人は、鬼と戦いながら進む中、味方に遅れないようにするだけで必死だ。
近づいてくる鬼には容赦なく刀を振るい、距離がある鬼には棒手裏剣を放っていく。攻撃した後は倒し切るのも確認せずに、正虎の後を追うようにどんどんと進んでいく。
弓持ちや魔法使いは、近づいてしまえば簡単に倒す事が出来るが、近づくまでが大変だ。
忍び衆の弓の援護や、魔法使いの攻撃などが遠距離戦では本当に頼りになる。
「儂の出番かのう。それっ! 【風神:旋風牙】」
「魔剣いきますっ! 【氷剣:剣の乱舞】」
魔法を得意としているバルザックさんと、氷剣のユキナの魔法が、容赦なく遠距離から敵を狙っていく。
まるで小さな竜巻といった感じの、バルザックさんの風魔法。
そして、剣を振るごとに……まさに飛ぶ斬撃といった感じで、三日月形の氷の刃が敵に飛んでいく氷剣。
他の名のある討伐者達も、それぞれが他の人達に負けない戦いぶりだ。
近づく鬼を頑丈な盾で吹き飛ばしながら進む、まるで重戦車のような鉄壁のガルド。
短めな弓を手に、早業のように次々と弓矢を放つ疾風のジェード。
軽やかな身のこなしで、飛び跳ねるようにして鬼をたおしていく山猫のルビス。
先頭を走る正虎さんの近くでは、戦えるのがたまらないとばかりに、楽しそうに敵をなぎ倒していく、戦闘狂のような神宮司家の武尊さんもいる。
そういった精鋭達の戦う姿を見ながらも、迅人とスミレも必死に鬼達を討伐していく――
遠距離攻撃をしてくる魔法使いや弓持ちを倒し、ほっとするのも束の間。
突然、大きな叫び声と共に……やつらが現れる。
「グォオオオォォォオオーーーー!!」
魔法使い達がいた建物の屋根を突き破り、突然降りて来たのは……ほとんど黒色といっても良い程の、角の長い赤黒鬼達が3匹。
そして、最後に飛び降りて来たのは……巨大な石柱を背負った、一際大きく金色の目をした真っ黒い大鬼だ。
視線をグルリと彷徨わせて討伐者に向けると……今までに感じた事のないような、濃密な殺気がまき散らされる。
一番近くに居た鉄壁のガルドが、軽く振るったように見える石柱の一振りを受けて、盾でしっかりと受け止めたのにも関わらず……建物の壁をあっさりと壊しながら、遠くへと吹き飛ばされてしまう。
今までは、自分にも倒せるだろう。そんな風に思うような鬼達ばかりだった。
だがその姿を見た瞬間に『格上』という言葉を思わせるような、存在の違いを感じてしまう黒い大鬼。
初めて感じる本物の恐怖感。
迅人は、白姫を強く握りしめながらも、無意識に一歩下がってしまう。
まるでスローモーションのように見える時間の流れ。
乱戦のように始まる……取り巻きと思われる3匹の赤黒鬼と、討伐者達の激しい戦いが始まる。
そして、大鬼が次の標的としたのは……一番近くに居たスミレだ。
「ハァァァアアアーーーー!!」
気合の声を上げながら、赤い闘気のような【纏い】をした全力モードのスミレが、果敢に大鬼へと踏み込んでいく。
ゆっくりした時間の流れる中、勝負は一瞬だった。
石柱を肩に担いだまま、スミレの攻撃を軽々と躱し……振り抜かれた大鬼の拳一発で、宙を舞うようにして建物の柱まで吹き飛ばされるスミレ。
吹き飛ばされた後に、なんとか地面に手を付きながら立ち上がろうとし、大量に吐血する。
まさに、目に見えて分かる程の……命に係わるような致命傷だ。
大鬼の濃密な殺気で動けなくなってしまった迅人の中で、何かが変わる。
恐怖がなんだ。死ぬのが怖い?
目の前で大切な仲間が殺されそうになって、何も出来ないのか?
いつからそんなに臆病者になったんだ!?
「ハァァアアアアアアーーーーーーー!!」
自分自身を奮い立たせるに、腹の底から声を上げる。
魔力を全身に纏い【精霊武具の具現化】能力を発動する。
「白姫、鬼武者……いくぞ!!」
刀が白く輝き、その身には黒地に朱色の文様が入った鎧兜を纏う。
単純な武具の具現化だけではなく、宿っている精霊の意思と迅人の心が共鳴するかのように、お互いの意識が混じり合うような、不思議な感覚になる。
白姫に優しく促されるように太刀を振るい、鎧兜の鬼武者の闘志に協調するかのように、果敢に大鬼を攻め立てていく。
軽々と棒切れを振り回すように石柱を扱う大鬼。
相手の攻撃を見切って躱し、素早い足捌きで動き回りながら反撃していく迅人。
精霊の力を借り……黒い魔力を纏った大鬼と、激しく互角に切り結んでいく。
いったいどれほどの時間、大鬼とやりあっているのか……長く感じる時間の中、ほんの少しの隙を見つけ出す。
大鬼が黒い魔力を纏った拳を、地面に叩き付けてくるような攻撃。まさにその瞬間だ。
「今じゃ迅人!」
「ハァァーーッ! 【斬空刃】」
白姫の導きに従い、飛び上がって振り下ろすように無我夢中で放った迅人の技は……後ろにある建物の壁をも切り裂き、大鬼を袈裟懸けに、真っ二つ断ち切る。
技の反動とばかりに魔力を使い果たし……具現化した武具は解かれて、地面に手を付き大鬼を見上げる迅人。
激しい一騎打ちをしていた大鬼は、意味深に満足気な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと倒れていく――
突然現れた大鬼の取り巻きと見られる3匹の黒鬼達は、一騎打ちの邪魔をさせないとばかりに、近くに居た討伐者達と戦う事になり、激しい乱戦のような戦いとなっていた。
だがそれも、討伐者達の精鋭に一匹一匹と、順番に倒されていく事となる。
今まで戦ってきた鬼と違い、黒い魔力を纏った鬼達は手強く……討伐者達も傷を負う者が多かった。
だがそれでも、なんとか無事に鬼達を討伐して生き残る事が出来た。
「スミレっ!」
致命傷を受けて、精神力だけでなんとか起き上がったというような……口元からは血を流したまま、満身創痍といった状態のスミレに駆け寄る迅人。
迅人が大鬼をたおして近寄ってくると、スミレは安心したかのように、にこりと微笑む。
「さすがだな、迅人」
「しゃべらなくて良い。これを飲め」
バルザックさんから、もしもの時の為に。そう言われて渡されていた、上級回復薬を取り出す。
気を張って居たのか、急にふらつき倒れそうになるスミレを抱きしめながら、迅人は強引に上級回復薬を飲ませる。
3匹の黒鬼達と大鬼との戦いで、建物はすでに崩壊寸前。
スミレを守るようにして体を支えながら、まだ残っている鬼達は居ないかと周囲の警戒をしながら移動をする――
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