第17話 集落の殲滅


「まだ鬼の討伐は終わっていない。他の場所にも向かうぞ!」


 正虎さんの指示の元、大物と戦った後も順調に討伐は行われていく。


 集落の中だけではなく、近くにあった洞窟の中。


 その場所にも黒鬼に近い赤鬼達が居て、激しい戦いが行われた。


 洞窟の奥には、鬼の繁殖施設とも言える場所があり……産まれたばかりの小さな小鬼達もたくさん居た。


「この小さな小鬼が成長して、いずれ人間達と戦う敵になる」


 そういう風に言われて、頭では理解していても……戦う力を持たない相手を殺していくというのは、言葉には出来ない、なんともいえない悲しい気持ちになってしまう。


 人と魔物とが長きに渡って戦い合う世界。


「いつか平和な時代が来ればいいなぁ……」


 あたりまえだと思っていた安全な日本での生活を思い出し、そんな風につい思ってしまう――




 予想以上に特異体と言われる魔法使いや、強い鬼達の数は多く……集落の鬼を殲滅し終わる頃には、傷を負った者も多く出てしまった。


 重傷者は10名近く。赤鬼や黒鬼といった上位種や特異体に襲われた者も多く、他にも死亡者が8名も出てしまった。


 50名は参加した討伐隊。その中でも、多くの者が戦えない状態となってしまう。




「誰かが死んでしまうかもしれない」


 迅人は、いざとなれば生死をかけた命懸けの戦いをするつもりではあった。


 それでも実際に体験してみると……濃密な殺気で死の恐怖を感じた瞬間に、体が動けなくなってしまった。


 昨日までは仲間として一緒に行動していた人達が、あっさりと死んでしまった現実。


 一歩間違えれば、自分やスミレにも起こりうる出来事だっただけに、戦いが終わって一息つくと……飲み物を飲もうとした時に、手が震えている事に気づいてしまった。


「覚悟はしていたつもりだったのになぁ」


 なかなか静まらない、震える手。


 まだまだ覚悟が足りてなかったのかもしれないなぁ。




 洞窟の最奥には、これまでに鬼達が手に入れた財宝と言ってもいい討伐者達の武具があったり、様々な生き物が食料としてなのか、閉じ込められている食糧庫もあった。


 ウルフや鹿などが魔獣化したと思われる生き物たちが居る部屋には、迅人にとっては予想外の生き物も居た。


「ニャァー。ニャァーッ」


「おいおい。なんでこんな所に猫が居るんだ」


 迅人は驚きながらも、檻のような物に閉じ込められて居た猫達を発見する。




「怪我をしているのか。大丈夫か?」


 檻の中で傷を負ってうずくまったままの白い子猫には、迅人が初級ポーションを飲ませて、切り傷と見られる場所には、薬草で作った軟膏を塗る。


「迅人よ、こやつらは人間には敵対心がなさそうじゃが、魔獣化した猫達じゃ。気を付けるんじゃぞ」


 バルザックさんの説明によると、王都でも猫を飼っている人は居るが、魔素を貯め込んで魔獣化した猫というのは、数が少ないらしい。


 怪我を負っていた助けた白い子猫は、何故か迅人に懐いてしまい……まったく離れる気配がないようだ。


 元気になってきた白い子猫は、迅人の服を登って遊びだし、首筋にじゃれ合うようにスリスリとしてきたりする。


 そして寝心地が気に入ったのか、ローブのフードがお気に入りの場所となってしまう。


「ええっと、そこが気に入ったの?」


「ニャァーッ」


「迅人に懐いているようだし、気に入ったのなら飼えばいいじゃろう」


「う~ん……。猫は好きなんだけど困ったなぁ」


 迅人のフードから出る気配のない白い子猫に負けて、結局は一緒に連れて帰る事となる。


 バルザックやスミレも白い子猫の事が気に入ったみたいで、さりげなく撫でてみたりといった感じで、見つめる視線が嬉しそうだった。


 まさかこの白い子猫との出会いが長い付き合いになるとは……この時の迅人は想像をしてもいなかった――




 迅人にとっては、初めての大討伐隊への参加。


 危うくスミレを見殺しにしかけた、格上との戦い。


 改めて思い返してみると、参考にしたいと思えるような人物も多くいて、学ぶ事が本当に多かった。


 心技体の全てにおいて、まだまだ自分には力が足りてない。


 この世界に来てから、まだ1ヶ月も経っていないとはいえ……これからも慢心しないように、自分自身を鍛えていきたいな――




 鬼との戦いを終えた討伐者達は、野営陣地へと引き返し、治療を受けて王都へと帰る事になる。


 今回作られた野営地は、どんどんと新しい施設が建築されていき、前線施設として活用されていく事になっている。


「スミレ、体の具合はどうだ?」


 鬼との戦いで致命傷を負ったスミレに怪我の具合を聞いてみる。


「心配しなくても、大丈夫」


 野営地に出来たばかりの、治療所のベッドに横たわったまま、にこりと微笑んで答えるスミレ。


 上級回復薬でなんとか一命は取り留めたが、複数個所の骨折と内臓を損傷して血を大量に吐いたという事もあって、安静が必要な状態だ。


 回復薬を使っても、薬の効果だけで一瞬で怪我が治るわけではなく、体に本来備わっている自然回復力を促しながら徐々に回復していくようで、治療中は栄養と安静が必要だ。


 重症になればなるほど、回復には時間がかかってしまう。




 迅人はスミレが大怪我を負った原因が、自分自身にもあると思っていて、甲斐甲斐しくスミレのお世話をする。


「ほら、ちゃんと栄養をとらないと! あーん……っ」


「自分で食べれるから!」


「ニャァーッ」


 照れながらも迅人に食事を食べさせてもらうスミレの姿が、治療室で見られたとか――

 



 回復薬の種類には、初級、中級、上級、特級の4種類がある。


 初級 擦り傷などが治る。

 中級 数センチ縫うような切り傷が治る。

 上級 中級の効果に加えて骨折などが治る。

 特級 部位欠損が治るなどの伝説級


 回復する力と等価交換するように、体力や生命力が消耗する。




◇ エピローグ ◇


 討伐成功の情報を受け取った王都では、大々的に『討伐を祝う祭り』が開かれる事となり、人々は盛り上がりをみせる事となる。


 領主の意向によって、市民には無料で食料やお酒が配られ、参加者達の話しを聞いた吟遊詩人が語り部となり、王都の広場では英雄伝説が新たに語られる。


 常に危険と隣り合わせで暮らしてきた王都の人達にとっても、嬉しい討伐成功の知らせだ。




 そして、大鬼との戦いの中で見せた精霊武具の具現化が、新たな話題を呼ぶ事となる……。


 武家や領主一族の中で密かに伝えられてきた、英雄伝説にも登場した精霊武具。


 旅人と言われる討伐者が、何故そのような武具を持っているのか……迅人が様々な出来事に巻き込まれていくのは、また別のお話し――




◇ 作者あと書き ◇


『第二章 名のある討伐者たち』これで完結です。

第三章からは……また新たな冒険が始まります。


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