第13話 出陣の日
王都の中でも、一際大きく巨大な建物の屋上にある鐘が音が鳴る。
「カラーン、カラーン、カラーーン」
朝の8時から、およそ2時間ごとにいつも鳴っている、教会にあるベルのような音だ。
今日は大広間に討伐隊参加者が集まり、これからの合同討伐隊についての説明がある――
「おいおい、あれって隠居したって噂の、煉獄のバルザックじゃないか? あっちには、単独討伐者として有名な、氷剣のユキナまで居るぞ」
高ランクの等級者が現れる度に、がやがやと周囲が騒ぎ出す。
バルザックさんは鏡花水月の団員なんだけど、みんなからの噂しか聞いた事がなくて、実際に見かけるのは初めてだ。年齢は130歳を超えたらしくて、今は気分転換に迷宮に散歩に行く程度で、基本的には家でのんびりと過ごしているらしい。
「ガーベラの嬢ちゃんに言われて来てみれば、なんだが騒がしいのう。」
「おじいちゃん、来てくれてありがとう。頼りにしているぞ」
バルザックとガッチリ握手をしながら、嬉しそうに喜ぶガーベラ。
ガーベラにとっては、本当に血筋がつながった
集まった討伐者達が知り合い同士で集まったりして、がやがやと雑談をしていると……どこかから歓声が聞こえたと思えば、入り口から朱色の派手な鎧に太陽のような家紋を付けた、武家装束の人達が現れる。
「討伐者達は集まっているようだな。それでは、早速説明にはいる。今回の合同討伐隊では、武家の守護者の一門、朝日奈正虎が指揮をとり、鬼どもを討伐する! 皆の力を貸してもらうぞ」
「「オオォォーー!」」
武家の朝比奈正虎さんが入って来てからは、一気に会場の雰囲気が熱気に包まれ、みんなが真剣に説明に聞き入る。
迅人は鬼の集落の発見者として紹介され、その時の状況などを説明する事になったりもしたが、順調に討伐する為の説明会は進む。
説明会の内容を要約すると……。
①合同討伐隊の出発時間は、12時の鐘の音が鳴るお昼
➁森の手前にて、簡単な野営の準備をする
③夜明け前に出発し、朝日が昇る頃に集落を襲撃する
➃集落を制圧した後は、周辺の調査をしてから帰還する
「朝日奈家の忍びが、さらに詳しく調べた所……集落のさらに奥には、もう一つの新たな集落がある事がわかった。二か所に集まった鬼の数の合計は400匹は居るだろう。さらに赤鬼の他にも、奥の集落には魔法を使う特殊個体が多数発見された。我らは精鋭とはいえ、鬼の数の力は脅威となる。心してかかるように!」
さらに新たな集落発見と聞いて、険しい表情をする者や、単純に驚いている者、あまりの数の多さに動揺している者、討伐隊に参加したみんなの表情は様々だ。
「鬼の数が400匹って、さすがに多すぎるぜ」
「手の空いている武家の者や討伐者には、さらに追加で参加してもらえるように要請中だ。出発までには、さらに討伐隊の人員は増えるだろう」
参加している討伐者達にも不安な声が色々と出たが、すぐさま正虎さんの落ち着きがあり、自信を持って堂々と発言する姿に、討伐者達は落ち着きを取り戻していく。
迅人にとっては、いくら数が多いとはいえ……もはや小鬼は狩り慣れた相手だ。
小鬼だけならたいして脅威にも感じなくなったけど、そこに赤鬼や魔法使いなどが加わると、やっかいな戦いになりそうだなぁ。そんな風に思いながら、気を引き締めなおす。
「数が多いのはやっかいじゃのう。儂の得意な煉獄魔法は森では使いにくい。討伐は若い者たちに任せて、体力のない年寄りは、馬車でゆっくりとしておこうかの」
冗談なのか本気なのかわからない事を言い出すバルザックを横目に、迅人はどうするか考える。
白姫に教えてもらった【纏い】や【依り代の具現化】といった能力は、魔力の消費が激しい短期決戦向きだ。
日々の訓練の成果なのか、徐々に纏いが使える持続時間は増えていってるけど……戦いが長引けば長引くほどに、魔力が減って辛くなっていきそうだ。
自分の切り札とも言える能力の使い道を、どうやって効率的に使っていくか考える――
なるべく魔力を使わないで済むように、基本的には刀を使って戦たい。
複数の相手や魔法使いと戦う時は、遠距離でも使える攻撃用として、片手でも投げられる棒手裏剣の数を、20本から40本まで、さらに手持ちの数を増やす事にした。
武家の忍びの方々なども使うとあって人気があり、武器屋に寄った時に大量に予備も含めて購入していて、在庫が残っていてよかったなぁ。
両腕があった頃は、弓を使った訓練をしたけどはあるけど……片腕になってしまってからは使えなくなったのが悔しい。
「お昼まではまだ時間があるとは言え、時を忘れて遅れる事がないように! 必要な物資については、討伐者組合も全面協力してくれる。物資に不安がある物は、職員に聞くようにな」
説明会は終わり、討伐者達の動きが一気に慌ただしくなる。
いざ討伐隊が動き始めれば、あっという間に忙しくなっていきそうだ。
余裕がある今の内に……何か出来る事はないかと探しながら、頼りになる鏡花水月のみんなと話したりして、開始までの合図を待つように、時間を過ごしていく――
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