第11話 流れる日々、集落の発見

 迅人が魔物の討伐者となってから、早2週間ほど――あっという間に時は経つ。




 最近は王都の周囲などにある森に籠って、自分自身の修行をしながら……小鬼や小型魔獣のウサギや鹿などを、ひたすら討伐する日々を送り、等級も順調に上がって8等級の黒鉄級になっていた。


 鬼などを討伐する以外にも、討伐が終わり宿屋へと帰って来てからは、鏡花水月のスズカに教わって、日本語によく似た共通語と言われる言葉の勉強もしている。


 さらには不意に話しかけてきた、腰にさしている刀の白姫に教わって……新たな武術の技として【魔力纏まりょくまとい】と言われる、無属性の魔力を使った訓練を地道にこなしていた。


 迅人の中に封印されているという、2つの精霊武具を引き出すためには……【依り代よりしろの具現化】といった能力の使い方が必要みたいだ。発動するだけで【纏い】を使った大量の魔力を消費してしまって、実際には5分も経たずに、魔力を使い切って動けなくなったりするハプニングもあった。


 魔力を使った技を極めるのは、まだまだ先は長そうだなぁ。


 他に魔力の使い道としては、属性付きの指輪と言われる魔道具を使った、簡単な魔法を扱えるようになったのも大きい――




「迅人はまだまだひよっこじゃのう。我は戦うための技くらいしかわからんの」


 眠っていたという白姫と、ひさびさに話す事が出来たんだけど……戦いの技については教えてもらえたけど、この世界の事については、時代も違うようだし詳しくないと言われてしまった。


「この世界について知りたければ、王都の人にでも聞けばいいじゃろ」


 何故か話すのをしぶる白姫。それでも、いくつか気になる事を教えてもらえた。


 元々の白姫の所有者は、戦国時代と言われる武士の世の中で生きてきた人で、開人と書いて本来はカイトという名前だったが、何故かアキヒトという名前に変えて異世界で生きていたみたいだ。


 そして、他大陸から来たという人達や、森の中に住んでいたエルフや獣人達と出会い、一緒に苦労しながら作り上げたのが、この王都という事らしい。


 王都にいると言われる武家の人達は、アキヒトと共に転移して来た、かつての日本人達の末裔で……最初は50人位は居たみたいだけど、激しい魔物との戦いの中で生き残れたのは、わずか20人位だという。


 今は王都と言われる程に立派になったけど、最後に見た時は……まだ大きな村といった感じで、ここまで変わっているとは白姫も思ってなかったらしい。王都の大幅な発展ぶりを感じ取って、素直に驚いたようだ。


 異世界なのに……食文化として米や味噌が伝わっていたり、共通語にひらがなが使われていたりといった、日本文化の影響を受けた物が多かったのは……建国する時に、多くの日本人が関わっていたからだと知って、なるほどなぁって感じだった。


 この大陸にいくつかあると言われる迷宮では、神様と日本人が関わっている物があるらしい。多くの討伐者が潜っているという『神々の迷宮』と言われる場所については、白姫に聞いても何も教えてもらえなかった。


「自分で行ってみて確かめた方が、迅人にとっても面白いじゃろ」


 そんな風に白姫に言われてしまう。


 そしていつの間にか討伐者組合では……訓練をかねて毎日ずっと大量の鬼ばかりを狩り続けてきたせいか、密かに『鬼狩りの迅人』と言われる事が増えてきた――




 最近は日課となりつつある鬼狩りをしていると、予想外の場所を見つけてしまう。


「うわぁ、さすがにこれはやばいかも」


 木の上に迷彩服でひっそりと隠れ、森の中にある開けた場所に視線を送る迅人。


 そこにあったのは……入り口らしき場所に白骨化した人間の頭部が飾られていて、内側には鬼達が無数に集まり、木造の住居などが立ち並んでいる、巨大な鬼の集落だ。


 大雑把に遠目に数えただけでも、動き回る小鬼達が200匹位は見えて、大きめの建物の近くには……3匹の赤鬼が出歩いている姿を確認する事が出来た。


 さすがにこれは、一人で相手するには多すぎるなぁ。


 以前に見た赤鬼は、まさに真っ赤といった感じだったが……遠目に見える3匹は、前に見かけた個体よりも体が大きく、色合いは赤黒いといった見た目になっていて、遠目なのに感じられる威圧感も強そうな感じがする。


 最近はずっと愛用している、緑色のローブに植物のつる草や葉っぱなどを縫い付けた、隠密用の迷彩服をギュッと深くかぶりなおし、足早に王都へと戻る事にした迅人。


 遠目から見ただけでもあの数はやばい。見えてない場所には、もっとやばい鬼も居るかもしれないし、一人じゃきつそうだなぁ。


 どうやってあの集落を攻略すればいいのか……そんな事を内心で思いながらも、まずは討伐者組合に帰って、相談してみる事にする――




「迅人さんお帰りなさいニャン。今日も鬼狩りですかニャ?」


「うん、鬼を討伐してたんだけどさ……。200匹以上もいる鬼の集落を見つけてしまったんだ」


 初めて討伐者組合に来た時に出会ってからは恒例となりつつある、受付嬢の猫獣人のスズカに報告する。


「私では対応が難しいニャー。組合長に話しを通しますニャ。ちょっと待っていてくださいニャン」


「うん、よろしくね」


 迅人は慌てて駆けていくスズカを見送り、1階にある空いている椅子にゆっくりと寝転がるようにして座り、目をつぶって発見してしまった集落について思い返す。


 今までにも多くの鬼達を討伐してきたけど、あんなにも巨大な集落があるなんてなぁ。


 それに、資料室で鬼についての情報を見ると、魔素の濃い森の奥には……さらに危険な大鬼や黒鬼と言われる魔物などが居るらしいんだけど、やっぱり奥に行けば行くほど命の危険は高まり、生息している魔物は強くなっていくんだろうなぁ――




「迅人さん、組合長がお呼びですニャ。さっそく行きますニャン」


「わかった。案内よろしくね」


 巨大な討伐者組合の建物を、職員専用の階段を使って足早に移動していく。


 王都の町中を見回せるほどの高さがある最上階に到着すると、そこに組合長の部屋があった。


「受付嬢のスズカニャ! 迅人さんを呼んできましたニャン。はいります~」


 案内されて通された部屋は、実用性重視といった家具が揃っていて、まるで執務室のような内装の部屋だ。その中で……椅子にゆったりと座って足を組みながら、武器の手入れをしている女性がいる。


「私が組合長のアンティリアだ。よく来てくれたな迅人。大きな鬼の集落を見つけたと聞いたが、さっそく話しを聞こう」


 手入れしていた武器を置いて、こちらをさりげなく見る女性。あまりの美しさに、思わず見つめてしまってボーっとしてしまう。


 綺麗な白い肌に、窓から差し込む光に煌めく様な、金色の髪。


 よく見ると、耳は少し尖っていて……これが噂に聞く【守り人】と言われるエルフかぁ。


 いきなりエルフと出会って見惚れてしまったけど、組合長に鬼の集落があった場所や、大雑把にしか確認出来なかったけど、集落で見かけた鬼の数や種類、どんな装備で武装をしていたかなどを詳しく報告した。


「なるほど。その場所には80年近く昔になるが、過去にも鬼の集落が出来た事がある。それほど魔素の濃い場所ではないとはいえ、そこまで大きな集落が出来ているとなると問題だ……。以前に討伐された時のように、魔法を使う特異体や、黒鬼などがいる可能性も大きい」


 地図を眺めながら、悩まし気に考える組合長。


「う~ん……狂乱の夜も近い。武家の朝日奈家に応援の要請をする。領主へも報告が必要だろう。それから、討伐者の中からは……7等級以上の者から、30名ほどを集めて、すぐに動かせるように討伐隊を編成する。4階に居る、補佐役のユキノを呼んでこい。手の空いてる職員には、参加する討伐者を集めてもらうぞ」


「はい。すぐにユキノさんに伝えてくるニャン」


 さっそく連絡を伝えようと、足早に執務室を出ていくスズカ。


「迅人の噂は私も知っている。最近はよく【鬼狩りの迅人】なんて言われているそうだな……。実力もあって、鬼の討伐数も充分のようだし、集落発見の功績と併せて、組合長権限で7等級の紅玉級に昇級させる。集落を発見した場所までの案内役、しっかりと頼むぞ」


 さきほどの悩まし気な表情からは一変し、迅人へとイタズラっ子のような表情で、可愛いウインクを送ってくる組合長。


 そこからは、討伐者組合の職員が慌ただしく動きまわり……あっという間に、次の日には討伐隊が動き始める事となる――




 組合長が言っていた【狂乱の夜】


 月に一度は、赤い月が現れて……魔物が活発化してしまう危険な日があるらしい。その日が来る前に、急いで鬼を討伐する事となり、慌ただしい展開となってしまった。




 朝日奈家と言われる武家の人と、討伐者達での合同討伐隊。


 あまりの展開の速さに、いったいこの後はどうなるんだろうなぁ……。そんな事を内心で思いながら、いつもお世話になっている宿屋で、鏡花水月の人達に今日の出来事を相談しながら、必要になりそうな物資などを補充して、次の日の討伐隊参加に備えていく――


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