第10話 魔物の討伐者
「チュンチュン。チュンチュン」
小鳥のさえずりが聞こえてくる朝。
「う~ん、頭がいたぃ……。ここはどこだ?」
なぜかズキズキと嫌む寝ぼけた頭で周囲を見回すと、徐々に記憶を思い出してくる――
そうだ、昨日は宴会に引っ張っていかれて、そのままみんなと楽しく食事をしていたと思ったら、いつの間にか……お酒をさんざん飲まされる事になったんだった。
水のようにガブガブとお酒を飲むガーベラに張り合ってしまったせいで、体は何だか気だるいし、体調はいまいちだなぁ。『酒は飲んでも飲まれるな』そういった単語が思い浮かんでしまう。
ガーベラのお酒の強さは底なし沼だ。もうぜったいに張り合わないぞ――
「トントンっ。迅人、起きてるか~?」
「えっと、この声はスミレかなぁ。起きてるよ~」
部屋に入ってきたスミレの話を聞くと、昨日の宴会で酔いつぶれてしまって、ふらふらになった時に、このベッドまで運んできてくれたみたいだ。
「ほら、これを飲んでシャキっとしろ。鼻をつまんで一気に飲め。そんなんじゃ出かけられないぞ」
スミレに渡されたのは、緑色をした謎の青汁みたいな飲み物だ。
「うわぁ、なんだこれ。にっが!!」
言われるがままに、鼻をつまんで飲んでみたら、想像以上の苦さに思わず眉をしかめる迅人。
スミレと軽く話をしながら、寝起きで凝り固まった全身を、ゆっくりとストレッチでほぐしていると、薬の効果もあったのか……徐々に酔いもさめてきた。
その後は、スミレに倉庫まで案内してもらって、討伐者になるのに必要な身の回り品や、余っている団員達のお下がり装備などを貸してもらい、迅人の装備を整える事になった。
「わざわざこんなにも揃えてもらって、本当にありがとう」
「気にするな。討伐者は常に命懸け、装備は大事だぞ。それに……迅人なら、すぐに等級も上がっていくだろうからな」
動きを阻害せずに、急所を守るような黒革の装備一式と短剣。他にも、水筒などといった細々とした必需品を、シンプルな背負いカバンに入れてもらう。
鏡花水月は、宿屋の他にも雑貨店も経営してるみたいで、こんなに簡単に用意出来るなんて、さすがとしか言えないなぁ。
「これで迅人の用意も出来たし、さっそく討伐者組合に行こう」
「これで少しは、討伐者らしくなれたのかなぁ。ありがとう」
遠慮する迅人の事を気にせず、色々な物を揃えてくれたスミレ。
所々には魔物と戦った傷跡を直した跡などが目立つが、それでも立派な装備一式が揃った。初めて行く討伐者組合に、迅人はわくわくしながらスミレについていく――
「ようこそ討伐者組合へ。案内係りのスズカニャン」
「討伐者になるために来ました。登録をお願いします」
受付に居たのは……町中で、たまに異種族の人を見かけてはいたけど、可愛らしい猫耳が付いた獣人さんだ。
初めは強面の人達がいっぱい居るイメージで、どうなるんだろうと思っていたけど……想像していたのとはぜんぜん違って、場所ごとに役割がハッキリと別れていて、地球に居た頃の役所に来ているような感覚だ。
案内役のスミレが先頭に立って、からんできそうな人を追い払ってくれたおかげもあって、無事に討伐者の登録をする事が出来た。一部の討伐者の人は、スミレの姿を見るなり……まるで逃げるように距離を置いたりしていたけど、気にしない方がいいんだろうなぁ。
討伐者組合の建物は巨大で、10段階ある等級によって受付も4か所に別れていて、隣接する場所には解体所や治療院まで揃っていた。
等級については、一番ランクの高い1等級から順番に『特級・精霊級・白金級・黄金級・銀級・蒼玉級・紅玉級・黒鉄級・青銅級・見習い級』という10段階だ。
迅人は、5番目の銀等級であるスミレから、実力を証明するという紹介制度もあって、見習いを飛ばして、いきなり青銅級から登録する事が出来た。
その他には、常駐型の依頼として鬼の討伐や薬草の採取があったり、持ち込み依頼と言われるタイプの、危険領域にある指定植物の採取や、魔物を捕獲してくるなど、様々な変わった依頼も多くあるみたいだ。
「これで迅人さんは、9等級の青銅級討伐者ニャン。この案内本を見てわからない事があれば、受付に直接聞くか、2階にある資料室で調べてくださいニャ」
「うん、ありがとう」
迅人は、首からかけるタイプの四角い身分証をもらって、さっそく紐を調節しながらネックレスのように付ける。
可愛い獣人さんに登録してもらえて嬉しいなぁ。
「迅人さんは登録したばかりですが、魔物の討伐が得意なら……王都の北側にある森で、小鬼の討伐がおすすめニャ。左耳を討伐の証として持ち帰ってもらえれば、討伐者としての評価が上がっていくニャ」
「へぇ~。小鬼なら倒した事もあるし、大丈夫かなぁ」
受付のスズカにおすすめされるまま、常駐依頼である鬼の討伐を引き受ける迅人。
10~8等級までは、1階にあるここの受付でいけるみたいだから、また猫耳の獣人さんに出会えたら、案内をしてほしいな。
もしまた次に会った時は、語尾にニャンって付けるのは、猫人の習性なのか聞いてみるってのも、ありかもしれないなぁ。
「迅人、何をニヤニヤしている! 早速討伐に向かうぞ」
「うん。って、いててて。急につねるなんて、なんでさ!?」
急に不機嫌になったスミレに引っ張られて、討伐者組合を出発する迅人。
「迅人は、ああいった獣人の子が好みなのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。獣人の人と話すのは、初めてだったんだ。ほんとに猫みたいな、あんな可愛い耳があるんだなぁ~と思って」
嬉しそうに受付と話す迅人に、何故か問い詰めるような視線を送るスミレ。
確かにスミレとは訓練だったり、一緒によく会話したりして仲良くはなったけど、そんなに浮気されたみたいに怒られるなんて、びっくりなんだけど。
「ふんっ、私にだって可愛い耳がある!」
猫の獣人と張り合って、よくわからない事を言い出したスミレと共に、常駐依頼として出されていた、付近の森に棲む『鬼の討伐』に向かう事になった迅人。
まだ登録したばかりの、新人討伐者。
英雄として有名だった先祖のように、迅人も立派な討伐者になれるかどうか……運命の歯車は回り始める。
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