第7話 神楽木家の武術➀

 ガタゴトと音を鳴らしながら、銀色に光る車輪を付けた3頭立ての馬車が街道を走っていく。


「迅人、もう少しで休憩場所に着く。そこで一息入れるぞ」


 和やかに雑談をしていると、不意に遠くを眺めて言うガーベラ。


「はい。え~っと、街道の先にある……あの建物かな?」


 迅人が少し目を細めて街道の先を見ると、石造りで出来た何かの建物が見える。


 街道の脇にあんな建物が建ってるなんて、いったいなんだろう?初めて見る建築物に、興味を惹かれて眺めていると、あっという間に石造りの建物へと到着する。


「最後の休憩だ。料理当番は食事の用意、偵察班は周囲の警戒、爺やは馬車の点検をしっかり頼むぞ!」


 ガーベラが、慣れた手際で団員達に指示をしてまわる。


 もしかしたら、鏡花水月以外の人にも会えるかもしれないと思ったら、石造りの建物は無人の施設になっていて、屋根付きの煮炊きが出来そうな場所などが最低限用意された、街道を旅する人々の為の建物みたいだ。


 迅人は料理当番になった人に、森の中でとれたウサギっぽい動物の肉を渡した後は、何か手伝える事はないのかなと辺りを見回すと、どこからか木刀を持ち出してきたスミレと目が合ってしまう。


「休憩の合間に、噂の刀剣技とやらを見せてもらいたい」


 さりげない動作で投げ渡してきたスミレから、木刀を受け取る。


 馬車で移動している時に、話しの流れからスミレとの手合わせの約束をしてしまったし、これはもう断り切れないよなぁ。赤鬼と戦った時は大剣を使っていたのに、今はスミレも木刀を持っているし……いったいどんな戦い方をするんだろう。


「まだ修行中の身なんで、お手柔らかに頼みますよ」


 迅人は、投げ渡された木刀を握る感触を確かめるために何度か素振りをし、やる気満々といった感じのスミレと向き合う。


「……では、行くぞっ!」


「はいっ」


 木刀の確認をし終わり、向き合ってお互いに構えをとったと見るなり、スミレは待ちきれないといった感じで、迅人に声をかけて来る。


「ハァァッー!」


 スミレの方からの、いきなりの踏み込みから……まずは様子見といった感じで、力量を試すかのように素直に振り下ろされる、上段からの綺麗な振り下ろし。


 迅人は足さばきを使って、自分の重心を左右に移動しながら、半身の状態で木刀で受けると見せかけて、スミレが振り下ろした力の流れを、手首をやわらかく使って、円を描くように木刀で綺麗に受け流す。


 細かな動作一つ一つが重心移動であり、相手へのフェイントだ。


「隙ありっ」


 迅人は、受け流されて態勢を崩したスミレへと……すれ違うように瞬時に踏み込み、そっと首筋に木刀を添える。


「「オォォー!」」


 いつの間にか周囲で様子を見ていた、ガーベラや団員達が歓声を上げる。


 わずか一瞬の出来事。迅人の力量を悟ったスミレが、悔しそうな表情をしながら負けを悟る。


「もう一度だっ!」


「はいっ」


 先程までのスミレの雰囲気とは違い、まさに鬼気迫るといった感じの表情をする。迅人とスミレはお互いに距離をとり、仕切り直しといわんばかりに向き合って構え直す。


 そこから先は……先程とは明らかに違う、これが私の本気!とばかりにスミレの踏み込みや剣速が急に上がり、手合わせは激しさを増していく。


 対する迅人は、冷静にスミレの力量を見極めながら剣をかわし、木刀で攻撃するだけではなく……殺気を込めたフェイント、蹴りや足払い。手首をつかんでの関節技といった体術も併せながら、スミレを更に翻弄していく。


 そうして、激しい手合わせの時間はあっという間に過ぎ去っていく――



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