第6話 鏡花水月➁


「よう少年、手助け助かったぞ。なかなかの腕前だな! 我らは傭兵組合所属の『鏡花水月』私は団長のガーベラだ」


 まるで面白い物を見つけたといった感じで、にやりと笑いながら近づいてくるガーベラ。


「私は、旅人の迅人と言います。鬼達を倒す手際といい、お見事でした」


 初対面の相手に、失礼にならないように、丁寧に対応する迅人。


 鮮やかな指揮に、まとまりのある集団戦。揃いの赤い羽織をまとって戦う姿を見ると、只者ではないと思ったけど、傭兵組合なんてあるのかぁ。内心では、もしかして……援護の手助けも必要なかったのかなぁ?などと疑問に思いつつ、親しみやすそうな雰囲気で、右目を覆う眼帯が特徴的なガーベラと、色々と話しをしていく。


 ガーベラには、以前に迷宮都市の警ら隊に話したように、修行の一人旅をしていたら、迷った挙句にここまでたどり着いたと、所々を誤魔化しながら話しをする――




「迷宮都市に向かうなら、私達と一緒に行けばいい。片腕とはいえ、見た事の無い程の綺麗な刀剣技だった。その実力なら、充分に一人でもやっていけそうだが……。うちの鏡花水月に是非入ってほしいぞ」


 気に入ったとばかりに、迅人に近づくガーベラ。仲良く雑談まじりに話しをしながら、これまでの事情を聴き、自身の傭兵団にも誘いをかける。


「傭兵組合はよくわかっていないので、まずは討伐者組合に入ってみて、しばらくは一人で活動していこうと思っています。こうして出会えたのも何かの縁だと思うので、一緒に迷宮都市まで行きましょう」


 さりげなく傭兵組合への誘いを断りながら、一緒に馬車の旅をする事にした迅人。


 そして、傭兵組合について詳しく話しを聞いてみると……傭兵組合というのは、傭兵団達が集まる組織で、ゲームなどによくあるようなギルドといった感じだ。


 さらに傭兵団というのは、魔物の討伐者達が仲間同士で集団を作った集まりみたいだ。鏡花水月という傭兵団は、雑用や見習いも含めると50人近くの人が居て、迷宮都市では魔物の討伐以外にも、宿屋と雑貨屋まで経営しているらしい。


 先程の魔物討伐の手助けのお礼と言われ、無理やりに報酬を押し付けられる場面もありながらも、団長の気安く親しみやすい雰囲気に助けられ、鏡花水月の人達と一緒に、馬車に乗りこんで旅は再開する。




「団長っ、聞きましたよ! またいきなり、強引に傭兵団に誘ったんですか!」


 先程の戦いで赤鬼と対峙していた、長い黒髪が特徴的な女性のスミレが、団長のガーベラを問い詰める。


「ふふっ。お前は見ていなかっただろうが、迅人の刀剣技は……見惚れてしまいそうになる程、素晴らしかったぞ」


 問い詰められても、まるで反省するそぶりすら見せずに、楽し気に話すガーベラ。


「いったい、何度言えばいいんですかっ! 気に入ったと思ったら、またすぐ強引に団に誘うなんて」


 今までにも似たような事が何度もあったのか、スミレとガーベラの話し合いには、またいつものじゃれ合いが始まったと言わんばかりに、そっと見て見ぬフリをする団員達。


 団長のガーベラから手放しで褒められて、恥ずかし気なそぶりをする迅人を置き去りに、わいわいがやがやとした雰囲気で話をしながら、馬車は街道を進んでいく。


「ちょっと、黙ってないで迅人も何か言ってください。それと、後でしっかりと……その刀剣技とやらは見せてもらいますからね!」


 スミレは戦いの後という事もあるのか、高ぶった気持ちのまま……いつに間にやら、話し合いは迅人にも飛び火し、迷宮都市に着くまでの合間に、スミレや団員との訓練をする事になってしまった――




「なにぃぃい。28歳だと! どうみても、15歳位にしか見えないだろう」


 見張りをしながら馬車の上で話していると、驚く様なガーベラの声が響く。


「えぇぇ、どうみたら15歳に見えるんですかっ!」


 思わず、反射的に突っ込みを入れてしまう迅人。


 雑談まじりに馬車の中で話しをしている時に、みんなが子供扱いしていくるので、素直に年齢を伝えてみると、ガーベラだけではなく、他の団員達にまで驚かれてしまった。


 昔から年齢は低めに見られる事はあったけど、さすがに15歳っていうの言い過ぎだろう。そんなに驚く程なのかなぁ。日本人は、海外では外見の違いから、そういう風な経験をした事があるって人が居ると、どこかで聞いた事はあったけど……そんなに驚かれたこちらの方が、逆に驚きだよ。


 もしかしたら……異世界に来てしまったせいで、何か影響でもあったのかな?


 迷宮都市で鏡が見つかれば、ちゃんと自分の顔を確認してみようかなぁ――




 異世界の常識知らずの迅人には想像も付かない事だが、人族の平均寿命は80歳位だと言われている。その中でも、体内魔力が高い人は寿命も長くなり、大賢者と言われた人は300歳以上生き続けたとも言われている。


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