第3話 森の中の鳴き声
しばらく探索していると、転移した平原からは少し離れた森から、子供のような声音で騒ぐ様な音が聞こえてくる。
「この声って、まさか誰かがいるのか……?」
もしかすると、人間が居るかもしれない。そんな風に気になって、森の中へと進んでみる。
徐々に近づいてくる、騒がしい声。木々の隙間から、遠目に確認してみると、そこには予想外の生き物が居た――
「ええっ……。もしかしてアレって、ゴブリンみたいな生き物なのか?」
遠めに見えたのは……小柄な体躯に緑色をした肌。下半身には毛皮を使った腰巻。
さらに特徴的なのは、頭の両側からは、短い角が生えている。まるで、ゲームにでも出て来そうな、緑色の子供のような生き物の発見だ。
「やっぱり異世界だよなぁ。こんな生き物、地球じゃぜったいに居ないし」
初めてみるゴブリンを、少しずつ近づいて行きながら、注意深く観察する。
ウサギのような生き物を捕まえたのか、石で出来たようなナイフで解体に夢中になっている。ゴブリンの数は2匹と少なく、他には……木の棒に尖った石を付けたような、原始的な武器しか持ってないみたいだ。
「落ち着いて慎重に。油断大敵だぞ」
左手でしっかりと腰に差した刀を支えながら、音を立てないように、少しずつ近づいていく。
しかし……距離にして、あと20メートル程まで近づいた時に、いきなり予想外の事が起きる――
「クワッ、クワッッ、クワアッッ~~!!」
音を立てないように、足元に注意して歩いていたのに……木の上にいた鳥が、泣き叫びながら飛び立っていく。
「グギャギャ。グギャアッギャアッーー!」
木の上から飛び立った鳥の騒がしさに気づいたゴブリンが、急にこちらへと振り向き、目が合ってしまった。
突然の鳥の叫びに、一瞬は自分の不甲斐なさに情けない。という気持ちになりはしたが、すぐさま気持ちを切り替えて、瞬時に決断をする。
「ちっ。やるしかない!!」
動揺した気持ちを切り替えるために、あえて気迫の籠った声を出しながら、一気に全力で飛び込むかのようにして、ゴブリンとの間合いを一気に詰める。
そして、刀の鯉口をそっと切り、今まで何万回も繰り返してきた、必殺の突きを首元に放つ。
「ハァァーーッ! 一閃突き!!」
振り向いたゴブリンを瞬時に倒した後は、刺した刀をすぐさま抜き放す為に、ゴブリンに勢いそのまま前蹴りを入れ、刀の自由を取り戻す。
近くに居た、驚き慌てたままのもう一匹のゴブリンを、一気に横なぎに切り払う刀で、首を刎ね飛ばす。
切り殺した後も、残心を意識しながら注意深く警戒し、静かに周囲の安全を確認する。
「ふぅ。初めてのゴブリン相手だったけど、これならなんとかなりそうだなぁ」
今までにも、森の中で猟銃や弓矢を使って、シカやウサギなどを狙う狩猟は、何度も経験したことがある。
そういう過去の経験があったおかげなのか、不思議と人型のゴブリンをたおした後でも、人を殺した後には、トラウマになるような罪悪寒を感じてしまう。みたいな感覚はしなかった。
夢で話した少女も言ってたけど、この世界は弱肉強食みたいだし、精神的にも強くならないといけないなぁ。
「ゲームや小説の定番だったら、ゴブリンにも魔石がどこかにありそうなんだけど」
ゴブリンの死体を見ながら、魔石を探してみるか考える……。
何も手持ちの道具や水もない状況で、臭いゴブリンなんて、やっぱり解体したくない。
解体用として、刃物は白姫を使えばいけるけど……何よりも、洗い流したりする水が一番必要なのに、その水がない。臭い匂いをまき散らしながら、このまま探索するなんて自殺行為みたいなものだ。
ウサギのような動物も、持ち運ぶ袋などもない状態で解体しても、火を起こして食べる前に腐ってしまいそうで、2キロ程度のお肉をもらうだけにして、他の素材はあきらめる事にした。
お肉はバッグなどの入れ物が無いので、使えそうな葉っぱを舐めて確認し、丈夫そうな植物のツルで縛っただけの、簡単な手荷物といった感じで保管する事に。
「どうか、安らかにお眠りください」
本来なら、土の中に埋めてあげたい所だけど、地面を掘るような道具もないし、さすがに時間が掛かりすぎる。
両手を合わせて、ウサギとゴブリンに祈りをそっと捧げてから、その場を離れる事にした。
「他にもゴブリンや、危険な生き物が居るのかなぁ」
周囲を警戒し、森の中に入りすぎないように注意しながら、平原と森の境目辺りをひたすら探索していく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます