第2話 異世界の大地

 先程まで眠っていた、地球の寝所とは明らかに違う場所。蒼き空が広がる平原の中に、突如として光の柱が降り注ぐ。


 光る柱の中には人影が浮かび上がり、神秘的な転移の光は徐々に消えていく――




「うわっ。いてて……なんなんだいったい」


 突然の落下したような衝撃を感じで、いきなり目が覚める。


 寝ぼけながらも周囲を見渡すと、見た事もない景色に、感じた事もないような不思議な空気感がある。


「はぁ~? いったいどこなんだここ。妙にリアルな夢を見たけど……あの時に話してた異世界って、まさかほんとに……?」


 見た事も無い平原を、迅人の視線が彷徨う。


 近くの森の方からは、聞いたこともない、鳥のような鳴き声が時折り聞こえてくる。夢かと思って、ほっぺたを強めにつねってみても、痛みと現実感しかない。


「いったいなんなんだ。それにこの服は……。たしか寝る時は、甚平にティーシャツだったのに」


 自分の服装を確認すると、祠に飾ってあった甲冑の下に着る、鎧直垂よろいひたたれという藍色の和服姿に変わっていて、足元は黒い毛で覆われた、毛皮付きの靴を履いた格好に変わっている。


 さらに、腰元には……さも当然という感じで、祭事に代々使われてきた白鞘の刀、白姫が差してある。


「いったい、なんでこの姿なんだろうなぁ。祠に剣舞を捧げる時にしか着ないのに、甲冑の下に着る和服と刀が揃ってるなんて」


 年に一度の正月にしか着ない和服が着れて、嬉しさもあるけど――わけのわからない状況に、困惑する気持ちの方が強い。


「予備の義手も欲しい所だけど、この作業タイプのやつだけしかないのかぁ」


 肘の上側辺りで切断した痕のある片腕には、黒い義手が切断部を覆う様にはまっていて、両肩に固定するようにベルトで固定されている。黒色をした手の形のカバーを外すと、本来は手のある部分には、作業用義手として、曲鉤きょっこうと言われる、頑丈な三日月型をした付け替え可能なアームが付いている。


「義手はこれだけしかないし、大切に使わないとなぁ」


 ゆっくりと深呼吸をしながら、現状を整理しながら気持ちを落ち着かせて、他にも何かないか考える。




「ステータス! 能力表示! ウォーター! ストーン! ファイヤァァ!」


 ゲームや小説でよくあるような話の通りに、魔法が使えたりしないのかな~?


 まさかありえないよなぁ。そんな風に心の中では思いながらも――試しに思いつくままに、呪文などを唱えながら、色々と試してみる。その結果は……恥ずかしい思いをするだけで、結局は何も起きなかった。


 魔法などといった呪文をあきらめかけた時、不意に腰元の刀が熱を持ったような感覚がする。


「迅人よ、そなたはいったい、何をしておるんじゃ。魔法が使いたければ、属性付きの魔道具を手に入れるのが先じゃ」


 腰元の刀から空気が震えるような感覚で、声が聞こえてくる。


「うわっ、なんだ!? もしかして刀が喋ったのか……?」


 驚きながらも、腰元の刀に視線を移す。


「我は刀に宿った古の精霊、白姫じゃ! さっそくじゃが、転移で力を使いすぎた故、我はしばし眠る事にするぞ。鬼武者と夜叉姫も一緒に来ておるが、今は封印中じゃ。この世界は魔物の危険だらけじゃ。迅人よ、無理をするでないぞ」


 突然の出来事に、驚いてなんて答えていいのか迷っていると、刀が発する熱のような感覚がなくなっていく。


「えええっ。喋ったと思ったら、いきなり眠るの!?」


 昔から、血のつながった一族の人以外が触ろうとすると、静電気のような物が走ったりと、何かといわくつきの刀だと思ってはいたけど……まさか精霊の宿った刀だったなんて、本当に驚きだ。


 いきなり眠ると言われても、聞きたい事はいっぱいありすぎるほどにある。


「いったいどうなってるんだ。白姫っ! ちょっと、本当に眠ったの~!?」


 試しに何度か話しかけてみても……先程のように、喋ってくれる事はなかった。




「う~ん。とりあえずは……ここでこのまま、ぼけーっとしててもしょうがないしなぁ」


 心を落ち着けて、前向きに考えながら、これからやるべき方針をしっかり決める。


 まずは周囲の地形の確認。どんな生き物が居るかを確認。サバイバルには必要不可欠な、綺麗な水場があるかを確認!!


「よし、それじゃ行くか!! サバイバルなんてひさびさだなぁ」


 元々実家のある神社は、祠も含めて山の中。今までにも、何度もサバイバルはしてきた経験もあるし、楽しみだなぁ。


 綺麗な水場の確保だけでも出来れば、もしも食料が少なくても、2週間位はなんとかなりそうだ。


 来た事の無い初めての場所で、火おこしがきちんと出来るのか。

 見渡す限り自然あふれるこの場所で、寝る場所はいったいどうすればいいのか。

 近くに人の住んでるような場所はあるのか。


 色々と問題になるような事も思い付いたけど、自然の中でサバイバルする楽しみの方が大きい。




「なんか地球の時とは違うこの空気と感覚。やっぱり異世界って感じがするなぁ」


 初めて見る植物などが気になって、時折り目を奪われる。


 それでも、今は周囲の大まかな地形の確認や、どんな生物が住んでいるのかなどの、環境の把握を優先するために、ゆっくりと時には立ち止まって周囲を警戒しながら、次々と探索を進めていく――




 探索を始めて、すぐに気づく事になるが……。


 体には、地球に居た頃よりもよくわからない力が漲り、身体能力があきらかに以前よりも増している感じがする。


「試しにジャンプしてみるかぁ。うわっ!?」


 全力ではないのに、いきなり1メートル以上も浮かび上がり、自分自身でジャンプしたのにも関わらず、あまりにも高く飛び上がれた事にビックリする。


「なんだこれ、地球と重力が違うのか……?」


 わけのわからない力に戸惑いながらも、身体能力が上がった事に喜ぶ。


 う~ん、でも……いきなり身体能力が上がってしまうと、体を思う様に動かせるようになるまで、時間が掛かりそうだなぁ。


 そんな事を内心で思いながら、一挙手一投足……慎重に体の動きと力の入れ方を試行錯誤していく。


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