『片腕の武者サムライが押し通る!』和風ファンタジーな異世界で、討伐者として新たな冒険の日々が始まる

飛翔

第一章 異世界の旅路

第1話 異世界転移

初めまして。来てくれてありがとうございます。

少しでも読んでくれた方に、何かしらの喜びや感動を与える事が出来れば幸いです。


◇――――


【 世界観 】

 まさに弱肉強食という言葉が似合う、魔力溢れる世界ウィンドルフ。


 この異世界では、多くの未踏破領域と言われる危険地帯がある。

 魔力濃度の高い危険領域では、新たな魔物が次々と産まれ、魔物達は新たな地を目指し、領域を徐々に広げながら、人々の住処を襲う。そうして人々と魔物は戦い合ってきた。


 人と魔獣との……生存領域を懸けた、長く激しい命懸けの戦いの世界。

 その世界に、異世界から『覚醒者』とも言われる、特別な能力を持った人物が現れる。




◇―――――




 実家の神社の裏山には、一族の人々だけが知る洞窟がある。

 昔ながらの祠があり、祖先から伝わってきた武具を大切に飾っている場所。


 そんな誰も寄り付かない場所に、祠を守る為に建てられた小さめな古民家にて、一人で寝泊まりしている人物が居る――


 その人物の名前は、神楽木迅人かぐらぎはやと


 小中高と学校では勉強の成績もよく、スポーツの運動神経も良かったのに、なぜか大学には行かずにそのまま就職し、社会に出たものの……人付き合いが苦手で、そのまま会社にも馴染めず、上司ともめて仕事をやめてしまった。


 その後は、趣味のツーリングをしながら、サバイバルや山暮らし楽しんでいたものの……。


 自宅へと戻る帰り道で、不意に車道に飛び出してきた猫を避けようとして事故になり、尖った岩で左腕を失う事故にあってしまう。


 左腕を失った今では、リハビリを兼ねて裏山で山籠もりしながら、実家の神社の手伝いや、古武道を教える小さな道場の師範をしたりして暮らしている、ちょっとした変わり者だ――




我が家では代々、実戦を想定した武術を教えている事もあり、その事がきっかけとなって色々な武術の訓練をしてきた。


 でも……平和な世界で実戦向きの武術なんて覚えても、使い道なんてないよなぁ。


 そんな風に疑問に思いながらも、強くなるのは楽しいし……そう自分自身に言い訳をするように、自分の心を誤魔化しながら生きてきた――




 その日は珍しく、台風のような大雨と風が舞う嵐のような日。


 そのような状況にも関わらず……。

 神楽木迅人は、布団にくるまったまま、昔にも何度かあった……不思議な夢を見ていた。




「精霊の愛し子いとしご|神楽木迅人かぐらぎはやとよ、ひさしぶりじゃの。そなたは、自分自身の力を存分に発揮できる、そんな異世界に興味はないか?」


 白地を基調とした装束に、朱色の紐とスカートのような服をきた、巫女のような衣装を着た少女が語り掛ける。


「う~ん。何かが人とは違うっていう、よくわからない違和感は昔からあるし……。もしもそんな世界があるんなら、自分の力を試してみるってのもいいなぁ」


 迅人は小さな頃から、目で確認しなくても人の居る気配を感じたり、武術の稽古をしていると、相手が何をしてくるか、なんとなくわかってしまうという……何かを察知する能力が異常に高かった。


 迅人の一族の中には、動物の感情がわかる人が居たり、マッチの火くらいの大きさだが、何もない所から、魔法使いのように火を生みだす事が出来る人までいた。


 そういった異能とも言える特殊な家系に育ったので、気配が察知できるだけの自分の能力は、平凡な力なんじゃないのかなぁ。そんな風に思っていた。


「迅人が気配を察知するだけの力だと思っているのは、本来はまったく違う別の力じゃ。その力の本来の使い道や正体は……異世界に行けばわかってくるじゃろう」


「本来の使い道かぁ」


 自分の中に眠っている力がなんなのかわからなくて、何故こんな力があるのか戸惑った事もある。異世界に行けばわかってくるというなら、その力の正体っていうのも知りたいなぁ。


「こことは違う異界の地は、まさに弱肉強食じゃ。迅人が今まで積み重ねてきた修練の成果も発揮出来るじゃろう。それに、特別な回復薬があれば……迅人の左腕が治る可能性もある。我らもお主に力を貸すゆえ、その体に秘められた力を存分に発揮できるぞ」


 少女と迅人は、お互いの気持ちを確かめ合うように、いくつもの問答を交わしていく。


 そして不思議な装束を着た少女は、にこりと可愛らしく笑い、運命の歯車を回す――




「今こそ時は来たれり。刀に宿りし古の精霊、白姫しらひめが願う。今こそ盟約を叶えし時、ウィンドルフの神々、精霊王よ……! 今こそ導きの門を開け! 愛し子の末裔、迅人はやとよ、時は来たれり!」



 祠に納められた白姫しらひめと呼ばれる、白鞘の刀から神秘的な光が広がっていき、鞘に刻まれた導きの紋章が、点滅するように強く光り輝く。祠を祭る洞窟の中が、徐々に光で満たされていく。


 さらに、その神秘的な光に共鳴するかのように……。


 代々神楽木家の一族に伝わってきた、『鬼武者おにむしゃ』と名付けられた黒地に朱色の飾り文様が入った甲冑衣装一式と、『夜叉姫やしゃひめ』と名付けられた、170センチ近くもある、巨大な黒き斬馬刀が光り輝く。


 共鳴するように、光り輝く3種の武具が揃って声を発する。


『『我らいにしえの精霊の宿りし武具、愛し子迅人を……我らが故郷ウィンドルフへと導びかん!!』』




◇ とある神様 ◇


「懐かしき盟約と思って来てみれば、なかなか面白そうな子じゃのう。アキヒトとの盟約……確かに承ったぞ。それにしても、さすがに寝間着姿のままで、こちらの世界に来てもらうのはまずかろうて。迅人にちょっとした恩恵を与えるついでに、せめて衣装と義手は用意しておこうかの」


 不思議なおじいさんが、杖を一振りすると光が輝き……新たな世界へと続く導きの道になる。


「う~む。甲冑と斬馬刀を扱うにはまだ早かろうて。力を引き出せるようになるまでは、迅人の中に眠っていてもらおうかの。これからいったいどのような子に成長していくか、本当に楽しみじゃのう。フォッフォフォ」


 迅人が知らぬ間に出会う事になったおじいさん。


 かつてアキヒトと名乗る、英雄の祖先と親交があった神々の一人である――




◇――――




 神秘的な光が治まると、白姫が祀ってあった祠の中央には、一枚の手紙がそっと置かれていた。


『祖先の地ウィンドルフヘと向かいます。身勝手だとは思うけど、自分自身で決めた事です。心配しないでください。色々と言いたい事はあると思うけど……本当に今までありがとう』


 白姫が、夢の中で迅人と交わした約束通りに、伝言として手紙を残す――




 神楽木家では、1年に1度の正月には奉納の剣舞を踊る。


 今までは祖先の霊や精霊に捧げていた身内だけの祭事だったが、かつて迅人がお祭りにしたいと言っていた事もあって、家族会議をした結果は迅人の意思を尊重する事となった。


 そうして、みんなでチラシを配ったり、地元テレビの取材を受けたりして、大々的に剣舞祭は開かれる事となる――


 祖先の地へと旅立った家族の安寧を願う思いと共に、外の世界にも開かれた剣舞祭りは話題を呼び……神社に人の行列が出来るほどの大人気となり、賑わうのであった。




 神楽木迅人にとっては、不思議な夢での少女との問答。


 だがそれは……自身にとって運命の転換期とも言える、重要な出来事となる。



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