鬼のいないかくれんぼ

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鬼のいないかくれんぼ

アルファポリス、カクヨムで小説を投稿なさっている天野蒼空さんの企画に参加させていただきました。

天野蒼空さん→アルファポリス

       https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/422973631

       カクヨム    

       https://kakuyomu.jp/users/soranoiro-777





「なんで大学生にもなってかくれんぼしなきゃいけないんだよ」


 神社の裏手。体をかがめながら、彼はぼやいている。まるで、不貞腐れた子供のよう。ただ、不満たらたらというわけではないようだ。だって、その顔は、少しだけ笑っていたのだから。


『君、本当は少し楽しんでるでしょ』


「ま、まあ、たまにはこういうのもいいかもしれないけどな」


『童心に帰るってやつだね』


「『童心に帰ってかくれんぼしよう!』なんて、先輩もよくやるよ」


 彼が所属しているサークルの先輩。いつもニコニコしていて、後輩たちのことを気遣ってくれる。そのうえ美人。私も、あんな風になれたらなあといつも思う。


『君、先輩がそう言った理由、分かってる?』


「……あからさまに落ち込んでた俺を元気づけるためだよなあ、きっと」


 そう。彼は、ここ一週間全く元気がない。サークルで活動していても、いつも上の空。それを見かねた先輩が、彼を元気づけるためにかくれんぼを提案したというわけなのだ。


 ……まあ、彼の元気がない原因は、私なんだけど。


『後で、お礼、言っときなよ』


「かくれんぼ終わったら、ちゃんと言うか。『ありがとうございました』って」


 その時、ザクザクと土を踏む音が聞こえる。私たちは、見つからないよう息をひそめた。


「神社の裏手は……って、そんなあからさまな所にはいないかー」


 先輩の声。すぐ近くに先輩がいる。だが、こちらに来る様子はない。しばらくすると、ザクザクという音が少しずつ離れていった。


『……怖かったねー。見つかるところだったよ』


「……ふう。何とかなったか」


 そう胸をなでおろした時だった。


 ザザザザと地面を勢いよく蹴る音。驚いて横を見ると、そこには笑顔の先輩。


「みーつけた」


『な、何で!?』


「せ、先輩、離れていったんじゃないんですか!?」


 目を丸くしながら先輩を見る彼。きっと、私の目も驚きで見開かれているに違いない。


「ふふふのふー。一度相手を油断させるのが、かくれんぼの鉄則だよ」


『そ、そんな鉄則があったなんて!』


「いやいや。何ですか、それ。意味が分かりませんよ」


 ぼやきながらも、彼は、先輩に笑顔を向けていた。


 そんな彼を見て、私の顔が自然とほころぶのが分かる。


「でも……」


 先輩は、不思議そうに首を傾げる。そして、言葉を発した。







「ここにいたのって、後輩君一人だけ? 私の勘では、もう一人くらいいると思ってたんだけど……」







「あてにならない勘ですね。俺一人ですよ」


「……そっかー。じゃあ、他のみんなはどこに隠れてるのかなー?」


 そう言いながら、踵を返して歩き出す先輩。彼は、先輩の後ろについてテクテクと歩いていく。


 そして、私は、彼の後ろにフワフワと付いていく。


 ごめんね。本当に、ごめんね。不甲斐ない彼女で。一生懸命頑張ったけど、やっぱり病気には勝てなかったよ。本当に、本当に、ごめんね。


 私はどこにも隠れていない。隠れようともしていない。だけど、誰も見つけてくれない。大好きな、彼でさえも。


 私は今、鬼のいないかくれんぼの真っ最中。

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