終 章 廻り始めた歯車
第十六話 最後の祭り
~ 2001年8月15日、祭りの集合場所 ~
「隼瀬の奴遅いンとちゃうか?他の皆はこうして集まっているってぇ~~~のに」と時計を確認した。集合時間を三〇分も過ぎている。
「ホントどうしちゃったんだろ?」
「なあ、藤宮さん、隼瀬にちゃんと言ってあるの?」
宏之と慎治は藤宮さんに今日の祭りの事を隼瀬に伝えたか確認をとった。
「香澄にはちゃんとお会いして、お話ししたはずですけど。私との約束、今まで一度も破ったことないのに・・・、ちょっとお待ちになってください、今連絡してみますから」
そう言って彼女は携帯を巾着から取り出した。
「おッ、それはジェイホの最新型いいなぁ~、俺もそれ欲しかったんだけど金に余裕がなくて諦めたんだ」
「これはですね、貴斗君が私の今まで使っていましたのが『使いにくいだろ』って言ってくれまして、買ってくださったの・・・、高い物だからいいって言ったのですけど、『いつも迷惑かけている』からって」
「ホォ~~~、やるねぇ、貴斗」
ただ突っ立っている其奴にからかいの言葉をかけていた。
「ウッ、うるさい、黙れ!詩織も余計なことしゃべるな!」
「いぃ~ねぇ~~~、金のあるヤツ。今日は皆で貴斗に集る事にしようぜ!」
「そりゃ、名案だ!宏之!〝貴斗〟と〝集る〟を掛けたのはイマイチだけどね」と取り敢えず宏之に突っ込みを入れておく。
「宏之くぅ~んっ、止めてよぉ。そんなこと言うと詩織ちゃんに悪いでしょ」
「勝手にしてくれ!」
俺達がクダラナイ会話をしている内に藤宮さんが電話を掛け終わっていた。
「駄目、繋がりませんでした」
「しょ~がねぇ~な、ちょっくら俺等で探してくるか?藤宮さんと涼崎さん、二人はここで待機していてくれ。それと若し、隼瀬の奴がココに来たら、誰にでもいいから連絡入れてくれよ」
「それじゃぁ、宏之、貴斗、探しにいくか」
「おうよ!」
ウン?なぜ、貴斗の返事がない不審に思った俺は宏之に聞いた。
「貴斗の奴、何処に行ったんだ?」
「お前が彼女等、二人と話している内に、先に行っちまった」
「相変わらず、行動が素早い奴だ」
そう愚痴って俺も行動を開始した。こんな人込みの中、意中の人を探すのは苦労するぜ、まったく。ブツクサ言いながらも周りを見渡す。
しかし、そう簡単には見つからない。探し始めてから三〇分ほど経過していた。
「ッタく、隼瀬。ホントにこっちに向かってんのか?」
口に出して言ってみた。誰からも連絡が無いって事はまだ見つかっていないと言う事だろう。だが、休んでいる暇は無い。俺は思考回路をフルに動員し、隼瀬のいそうな場所を考える。一つだけ、思い当たる場所が浮き上がってきた。全力ダッシュでその場所へと向かっていた。
「ハァ~、ハァ~、フゥ~~~」
息を切らせながら、そこに辿り着いく。
「隼瀬、やっぱりココに居たのか」
その場所とは俺達の学校の高台、大きな木の下。そこからは三戸の街の様子が一望できる隠れたポイント。
「どうして、来なかった。皆、心配してる」
木の下に座って街を眺めている隼瀬に話し掛けた。
「シ・ン・ジぃ」と彼女の俺を呼ぶ声はどこと無く寂しげ。
「行こうぜ、皆の所にな」
「行きたくない」
「どうしてさ?」
「どうしてもなの」
「だったら、理由くらい聞かせてもらえるんだろ?」
少しの間の沈黙が訪れる。やがて、隼瀬が力なく喋り始めた。
「アタシって、嫌な女」
「何言ってんだ、急に。意味わかんねぇ~よぉ?」
彼女の言いたい事が分からずそんな風に答えた。
「アタシの心の問題・・・・・・・・・、慎治、これを聞いたらアタシを軽蔑するかもしれない。だから話したくないわ」
「話して見なくちゃ分からないことだってあるだろ?」
「慎治・・・・・・・・・、分かった、話すわ」
黙って隼瀬が話し始めるのを待った。それから、彼女が喋り出すのに少しの時間がかかったがそれまでジッと我慢していた。
「アタシ、春香と詩織に嫉妬している」
黙って、俺は何も答えない。
「・・・慎治、理由聞いてくれないの?」
隼瀬は何の問いかけもしない俺にそう言って尋ねてきた。
「今から、俺にその理由を話してくれるんだろ」
「ねえ、慎治ぃ、アタシと貴斗が幼馴染みだって、話したこと有ったよね」
隼瀬の言葉に軽くうなずいた。そして彼女はそれを確認すると続きを話す。
「アタシ、チッチャイ頃から貴斗の事がズット好きだったわ。水泳を始めたのも貴斗が金槌だったアタシを泳げる詩織と比較して馬鹿にした事から始まった。そして、いつしかそれは貴斗の為になっていた。アタシの事を見て欲しかったから。詩織が貴斗を好きなのも知っていたの。中学2年生の時ね、初めてアタシが水泳で詩織に勝った時、貴斗、凄く喜んでくれた。アタシもそんな貴斗を見て本当に・・・、凄く嬉しい気分になったわ。でもその年、アタシと詩織の前から貴斗の父親の仕事の為、突然、居なくなってしまったの。アタシの気持ちを伝えて間も無く・・・、そしてちゃんとした返事をもらえないまま。貴斗の莫迦はアタシを置いて知らない遠く、離れた所へ行ってしまった。それからアタシは貴斗の事、彼のこと忘れたくて、一生懸命水泳に没頭したわ。でも、詩織は違った、ずっと貴斗の事を想い続けていたわ・・・・・・、ちょうど、貴斗を忘れた頃、春香の頼みでアタシはある男子生徒に接触を試みることになったの」
「それが俺のダチ、宏之ってか?」
「うん。初めは変な奴って思っていたけど・・・」
「確かにな。俺もそう思ったぜ、初めわッ」
彼女は言葉に詰る。彼女の意図していることが明確に分かってきた。俺は仕方がなく代弁してみる事にした。
「アイツと話している内にアイツの良さが分かって、ホレはじめたか?隼瀬、お前の親友、涼崎さんの手前、自分の気持ちを押し殺して彼女に譲ったって事だろ?」
〈ハァ~~~、藤宮さんの時だけで無く涼崎さんの時も一緒かよ。喋り言葉はちょこっと男っぽいくせにクセにホント優しすぎるヤツだ。隼瀬、オマエって奴は〉
俺の言ったことが正しかったのか彼女は力なく頷いた。高校に入ってからずっと隼瀬の事を見てきた。二年の時、宏之のお陰で彼女に近付く事が出来た。俺は彼女が好きだ。
でもココでこの気持ちを伝えてしまっては何故か卑怯な気がして、『お前の事が好きだ』それを口にする事が出来なかった・・・、そんな事を言葉にする勇気がないだけなのかもな。
「だったら尚更、今日はそんな事、忘れてパ~ッと祭りで騒いで、気晴らしした方が良いじゃないのか?」
「フフッ、そうかもね」
何だか久しぶりに隼瀬の笑い顔を俺は見たような気がする。
「じゃ~~~、早速、アイツ等を呼ぶぜ。ここの方がソロソロ始まる花火もよく見えそうだしな」
そう言うと携帯でメールを打ち皆に知らせた。
「慎治、アリガト。なんだか気分が楽になったような気がするわ」
「まぁ~、そうだろうな。そんなこと貴斗にも宏之にもましてや彼女達に言えるはずないもんな」
隼瀬は他の皆が来るまで俺の知らない彼女等、彼等の面白い話を聞かせてくれた。そして、それから二〇分位して連中が集まってきた。
「おぉ~~~、探したぜ。まったく」
「香澄ちゃん何で連絡くれなかったのぉ、心配したんだからねぇ」
「ゴメンしてね、ここ分かるかな~~~って思ってたから」
隼瀬は悪びれもなくそんな事をここに辿り着いた四人に言っていた。
「来る途中、色々買ってきた」
「さすが気が利くな、貴斗!」
俺がそうヤツに言うと・・・。
『ヒュルルルルゥ~~~、ッパァ~~~ン』と花火の炸裂音が届いてきた。
「わぁ~~~、凄く綺麗ねぇ」
「穴場」
「いい眺めだ」
「流石、隼瀬が選んだ場所」
今まで彼女とここで何を話していたのかなんって宏之、涼崎さん、貴斗、藤宮さんのその四人に話題を振られないよう場を崩さないことに勤めた。暫くの間、この場所で俺達は打ち上がる花火を眺めていた。花火も終わりに近付く頃だった。
「そういえば、俺こんな物、持って来た」
そう言って貴斗のヤツは背負っていたバックパックから何かを取り出した。
「ぬぉーーー、それはキャノンのEOS―1D。貴斗、テメぇ~~~いくらバイトしてるからってそれは買えね~~~だろっ!」
ヤツの取り出したものはキャノンのEOS1Dと呼ばれるデジタル一眼レフカメラで希望本体価格はヌァ~~~ンと約七十五万円もする。
「フゥ~ン、これそんなにするのか。俺が買った時の値段は確か税込みで6万円くらいだ」
「それパチもんじゃね~のか?よこせっ!」といって俺はヤツからそれをふんだくって確認した。
「エぇッ、嘘、マジでこれほんまもんだ」
クッ、悔しいこんな凄い物を定価の十二分の一以下で手に入れた何ってそれでも六万は俺にとって凄い金額だが・・・。『世の中不公平だ!』と天を仰いだ。
「ホラ、返せ。花火、終わってしまう!それバックにして撮るんだ!」
そう言って貴斗のヤツは三脚を何処からとも無く取り出した。
「そりゃ、名案!」
「さんせぇ~~~」
「慎治、さっさと皆の所に行け」
そう口にすると貴斗は俺を蹴っ飛ばした。そして、前列左から涼崎、隼瀬、藤宮。そして後列に左から宏之、俺、貴斗と並ぶ。
「それじゃ撮る・・・、1+1は?」
「にぃ~~~」とその瞬間、貴斗にリモートシャッターのボタンを押されカメラのフラッシュが俺達を照らすように輝いた。
撮り終わったと同時に、
「なんだぁ?1+1ってのわ」と文句を言い出した。
「ぅっせ~な、ハイチーズよりこっちの方がましだ」
「もぉ~~~、二人とも良いじゃないそんな事わ」
「貴斗、現像したらちゃんと皆に渡せよ!」
「言われなくても分かってる」
「お楽しみにしていますね!」
「綺麗に取れているとぉ、良いねぇ」
「俺の腕が悪くてもマシンがカバーしてくれるさ」
そのあと俺達は花火が終わったあとも続いている街の祭りの中へと再び駆け込んでいく。その時の隼瀬の表情、吹っ切れたのか?とても楽しそうに見えた。
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