第十一話 Hidden Truth

2001年7月27日、土曜日

~ 駅前、善教ゼミ校舎内 ~

『ジリリリリリンッ!』

 今日の講義終了のベルが鳴ると講義を受けていた生徒達が教室から出て行ったり、友達とお喋りしたりと各々の行動に移っていく。

「ぅうん~~~」と奇声を発しながら受講生の一人であるその男は上半身をストレッチした。

「さてとっ、俺も帰ろうかな」

「ねぇ、八神くん、ちょっといいかな?」

「何か用、志島さん?」

「今の数学の講義、ちょっと分からない所があって、聞いても良いかな?」

 慎治は腕時計で時間を確認する。今から取り立て用事もないのでOKする事にした。

「急いでいる訳でもないし、別に構わないけど。で、どこの部分だい、見せてみ?」

「ありがとう、八神くん」

 彼女は自分のとっていたノートを彼に見せ、その分からなかった部分を示した。俺、慎治はルーズリーフを取り出し彼女に順を追って微積分の説明を始めた。

「こういった、分母に二乗がある時は三角関数法に置き換えて・・・、最後に」

「へぇ~~~、なるほど。でもその解法って先生が教えてくれたのと全然違うやり方よね。なんか凄いなぁ~~~、八神くん!」

「このやり方は貴斗が教えてくれたんだ」

「タ・カ・ト?って若しかして藤原君の事?」と彼女は少しばかり嫌な顔をしながら彼に尋ねた。

「そうだけど、何でそんな顔するんだ?」と彼は彼女の表情を読み取り聞き返した。

「だって、この前だって藤原君、新任で一生懸命頑張っているのに翔子先生と言い争いして、夏休み最後の授業駄目にしちゃったじゃない!余り良い人には思えないけど?それにどうして彼なんかに学校のアイドルの藤宮さんが一緒にいるのかとても信じられない!」

「ヤツの事何も知りもしないくせにそんなこと言うのは酷いんじゃないのか?」

 彼は内心、怒っていたがそれを表情にも口にも出さず優しい口調で彼女にそう言った。

「ごめんなさい、そう言えば八神くんは彼と仲良かったんだよね」

「俺に謝られてもなぁ~~~。だけどさ、此れだけは言っておく。貴斗はクラスの連中が思っているような奴じゃない」

「ヘェ~~~、そうなんだ、クラスで余り表情変えた所見たこと無いから想像つかない」

 彼女はクラスでの貴斗の事を思い出しながらそんな事を口にしていた。

「でも確かに奴はよく翔子先生と口喧嘩するのは否定できないな」


 ちょうどその頃、貴斗のバイト先で、

「ハッ、ハッ、ヴェッゥクッシュン!!スッ、ググゥッグ」

「藤原君、ナントも豪快なクシャミだね!」

「あっ、すみません店長、変なクシャミして・・・、風邪でも引いたのか、俺?夏風邪は治りにくいって言うし困ったなぁ~~~」

「心配する事はないと思います。誰かが君の噂でもしているのではないのかね。ワハッハッハ!」


「確かにそうみたいね、どうしてかしら?八神くんは理由、知らないの?」

「流石に俺もそれは知らない。それよりまだ微積分、教えている途中だったね。さっさと先に進めよう」

 それから、俺は小一時間程、志島さんに聞かれたところを貴斗から教えてもらった方法で説明していった。

「此れにて終了、貴斗のヤツならもっと旨く教えてもらえたと思うんだけどな。俺には此れが限界かな?」

「藤原君ってそんなに凄いの?」と不思議そうな表情で俺に尋ねられた。

「ここだけの話しだけど、実際凄いよ。そこら辺の教師と比べ物にならない位にね。アイツが、翔子先生に吐き棄てるように『独学していた方がましだ』と言葉にしただけは有るよ。だけど別に他の先生を貶しているわけじゃないのを付け加えておくな」

「ダッタら、今度教えてもらおうかな?」

「試してみると良い、貴斗がどんなヤツだか分かると思うぜ!ただし、余計なことは聞くなよ」

「えっどうして?」

「何となくだ・・・・・・、そろそろ、帰ろうか?志島さん」

「そうだね、途中まで一緒に帰ろうよ」

 俺は三戸駅に向かう帰路の間、色々と彼女と当たり障り無い学校の話しをしながら駅まで歩いていた。

「それじゃ、志島さん気を付けて帰れよ!」

「八神くん、どうもね!それじゃまた月曜日塾で会いましょ!」

 俺は彼女と別れた後、駅の中に入り国塚方面のホームへと向かった。

「ファ~~~」と大きな欠伸をして電車が来るのを待つ。

 さて、今日は帰ったら如何するかな?ゼミで出された宿題も大した量じゃないし、明日やれば良いかな?それとも今日中に終わらせて明日はのんびりしようかな?そういえば、貴斗に借りたゲーム、まだやってなかったのを思い出したぞ。

 ダッタら今日中に宿題、終わらせて、明日はゲーム・・・、ってな訳には行かないよな。 俺が目指している聖陵大学の国際経済学部は倍率高いから、いくら高等部からエスカレーター式の枠があっても学校の成績が悪かったら受験組みの奴らに蹴落とされるかもしれない。

『プップゥンーーーー』と電車のクラクションの音が聞こえてきた。

「電車が来たみたいだ」

 車内に入ると人がさほどいなかったのでシートに座った。そのあとは何も考えずに国塚駅に到着するのをボンヤリと窓の外の風景を見ながら待っていた。それから、国塚駅から出ると購読しているPC雑誌、パワレボと情報誌、TRENDYと言うのを買う為に商店街の行き付けの本屋へと足を運んだ。

 それで本屋でお目当ての物をゲッチュし三〇分位、店内をぶらついた後、店から出て行った。買った雑誌を鞄に入れて家に帰る事にした。周りを普通に眺めながら歩いていると見知った顔を発見。

 どうやらその二人は楽しそうに俺から見て後ろ向きの女の子?と会話をしている様子だった。

 声をかけようか、かけないか一瞬、迷ったが何となく後ろ向きの女の子が気になって近づいて挨拶をする事にした。

「お二人さん、今晩は!」

「あらっ?慎治じゃない、とりあえずコンバンハ」

「今晩はです、八神くん」

 見知った二人は俺だと気付くと挨拶をしてくれた。

それに弾かれる様にさっきまで後ろ向きになっていた女の子が振り返る〈・・・女の子なんて思って御免なさい〉と心の中で謝る。

 女の子ではなく女性といった言葉の方が似合う人だった。しかも俺はその人をよく知っている。

「こんばんは、八神君」と微笑みながら優しい口調でその人は挨拶をしてくれた。

「こっ、こんバンはっす、翔子先生」

 間近で先生の顔を見たせいか、少し緊張したのか?声が少し裏返ってしまった。そんな俺を見て隼瀬の奴がからかってきた。

「あらぁ~?慎治、顔赤くない?ククック」と最後に嫌な笑みを浮かべていた。

「なっ、なわけないだろ!」

 そんな風に反論するものの実際、自分の顔、直に見られるわけじゃないのでその反論は余り効果があるとは思えなかった。

 でも少し顔が熱くなっていたのは俺にも感じられる。そんな俺の様子を見ていた翔子先生と藤宮さんはクスクスっと小さく笑っていた。

「八神君、若しかして、塾からのお帰りなのですか?」

「そうだよ、ゼミの帰り。でその途中にそこの本屋に寄って来た所だ」

 バックハンドで俺が来た方向を指す藤宮さんに示した。

「八神君、塾にお通いになっておられたのですか?確か八神君のご進路は聖陵大学だと思っていましたけど?貴方の今の成績ならご心配しなくてもよい筈でしたが?」

「だってほら翔子先生、聖陵大の経済学部って倍率高いでしょ?だから受験組からは入って来る奴らが全員、俺より成績よかったら弾かれるかなと思って。それに商業科の方が優先度枠高いと思うしな」

「フフッ、ご心配しなくても良いのですよ。商業科と他の科との進学枠は別ですから。無論、受験する方の枠もですよ」

「マジっすか?今までの俺って」

 勝手な思い込みで努力していたのか何だか虚しいぞ。

「八神君、努力するのは良い事なのですからそんなガッカリしたお顔をしては駄目ですよ」

 俺のそんな表情を見た翔子先生は柔らかな口調で諭してくれた。

「それと、プライベートで先生と呼ばれるのは余り嬉しく無くてよ」

「それは不味いんじゃないですか生徒と先生の間柄だし」

 先生にそう言うと間髪入れず隼瀬と藤宮さんが、

「翔子ネェの言うこと聞いた方が身の為だよ」

「翔子お姉さまがそうお言いになるのですから気にしなくても良いと思いますよ」

『翔子ネェ?翔子お姉さま?』

 彼女ら二人は翔子先生の事を姉と呼ぶ・・・?姉と呼ぶ事は血の繋がりがある姉妹か養姉妹?てことは・・・。

「えぇえっ?まっ、マジ・・・、隼瀬と藤宮さんってお前ら実は幼馴染みじゃなくて訳あり姉妹だったとか?」と短絡的な思考をつい口に出してしまったバカな俺。

「ククッ、ハハッハ!何、莫迦な事を言ってんの?慎治そんな訳無いじゃない」

 大笑いしながら俺の肩を何度もバシ、バシっ、と強く叩いてきた。・・・、折れそうだ。

「香澄も私も小さい頃からずっと翔子さんをお姉さまの様に接して来たから今でもそう呼ばせて貰っているのですよ」

「ハッハッハっ、姉は姉でも貴斗の姉よ!ククック」

 今でも笑いなが彼女は俺にそう言葉を呉れていた。だが、それを聞いた俺は一瞬、訝しげな表情を浮かべてから、驚きの声を上げてしまった。

「なぬぅ~~~、それは真か?って事は貴斗のヤツ良いとこのボンボンだったのか」

 学校の生徒達には余り知られていないが俺の情報網では翔子先生は理事長の孫でその理事長は世界でも有数な事業家と聞く。

「八神君、貴斗ちゃんの事をお貶しているのかしら?」

 翔子先生はニッコリしながら俺にそう言って来る。

”貴斗ちゃん”だってヤツの事を想像しながら俺は内心〈ププッ〉と笑う。がしかし、先生の顔は笑っているけど目が非常に据わっている。その表情を見て、少なからずある人と同じ種類の戦慄を覚えてしまう。隼瀬が俺に『翔子ネェの言う事聞いた方が身の為だよ』と言ったのが何となく分かったような気がする。怒ると相当怖いのではと思ってしまった。

「そっ、そんな事はないです翔子さん、ただ余りにも知らなかった事を聞かされたので驚いただけです。マジっす。信じてください」

『先生』から『さん』に言い代えてそう答えた。これ以上先生の機嫌を損ねると色々と怖いと直感したからだ。

「フッ、なら宜しいのですけど。・・・、

そう言えば、八神君、貴斗ちゃんと親しくしてくれている様ですね。有難う御座います。之からもあの様な状態ですけれども宜しくお願いいたしますね」

 言葉を返してくれながら天女の如き微笑も向けてくれていた。

「ハッ、ハイ、恐縮であります、無論であります、勿論でありますとも」

 自分でも表情が紅潮しているのが分かったがハッきりとそう答えた。

「今の貴斗もそうだけど慎治が女に対して紅くなったのを初めて見た。ククッ何だかいい物見られたわ」

「オイッ、隼瀬、茶化すなよ」

 好きな女の子にそんな事を言われて俺は内心、少しばかりショックだった。

「そう言えば翔子さん、貴斗のヤツとよく・・・・・・」と途中まで言葉を出して一旦考え込む。

「どうかしたのかしら?」

「何を考えてらっしゃるの?八神くん」

「黙ってないでなんとか言えッ、慎治!」

 彼女らが言っているのを無視して、しばらく貴斗と翔子先生の事を考え、やがて一つの結論を導き出していた。

「なるほど、そう言う事か。ウン、ウン、何となく納得!」

「一人で納得してないで」

「宜しかったら教えて頂けないでしょうか?」

 藤宮さんと翔子先生の二人の声がハモった。なんとも言えない可憐な声だったな。

「翔子さんと貴斗が口喧嘩をする理由を少し考えて見たんですよ」

「っで、その理由は?」

「今から説明をする。貴斗と翔子さんは姉弟の間柄かなり近しい存在!それが現在、貴斗は記憶喪失中。記憶喪失の人間に以前、親身な間柄だった人が接触した時とる無意識的行動がある。それは拒絶か、より親密になりたいと思うか。

貴斗が翔子さんに突っかかる理由は・・・、明らかに前者だし、藤宮さんや隼瀬に対する行動は後者の方」

 聴き取り易いテンポで最後までそう言いきった。のちに香澄も前者の対象となってしまうが今誰もそれを知ることなど出来る筈もない。

「そのようなことが・・・、そうなのですか・・・・・・」

 俺が言った事を聞いた先生は酷く落ち込んでしまった様に見える。一方、藤宮さんは先生に顔を背け綻んだ表情をするでも一瞬、申し訳なさそうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。

「でもよく慎治そんな事知っているわね?」

 隼瀬は当然な疑問を投げかけてきた。普通ならこんな事を知っているのはおかしい年齢だからな。だから即答する事にした。

「俺の母さん精神科医、もっと砕けて言うとカウンセラーでさ、ガキの頃から、知らなくても言い事を覚えちまったヨまったく・・・・・・。そう言えば、貴斗のヤツ、記憶喪失なんだよな?カウンセリング受けている筈だと思うんだけど、翔子さん何かしらないんですか?」

「確かにその様な指示が出ているはずなのですけど・・・」

「出ているって。なんか言い方、おかしいですね?」

「私とお爺様が肉親である事をある事が片付くまで言ってはならないとある方にいわれていますので・・・」

 お爺様・・・、多分、これは理事長の事を指しているのだろう。ある事?ある方っていったい何の事だろうか?直感で聞いてはならないような事と気付いたので聞かないことにした。そして、少し頭の整理をする為に沈黙する。

「どうかしたのですか?八神くん」

 沈黙している俺を心配したのか藤宮さんが不安な表情を浮かべそう言葉を掛けてくれていた。

「少し考え事を整理してみたんですよ」

「なぁ~~に探偵みたいな事言っているのよ」と笑いながら彼女は俺を茶化す様な言葉をくれた。

「馬鹿、言え探偵じゃなくとも思考の整理くらいするだろが」

「翔子さん、うちの学校で記憶喪失な生徒って貴斗以外にいますか?」

「御免なさい、生徒のプライベート関係の事を教師は口外してはならないの」とても申し訳なさそうな感じでそう返してきた。

「分かっていたけど、とりあえず聞いて見たかっただけです」

「何でそんな事、翔子ネェに聞くの」

「さっき頭ん中整理していた時、母さんが内の生徒を診ていると言うのを思い出したんでね。もしかしたらと思って」

 俺がそう言うと翔子先生の顔がハッとした表情を浮かべた。多分、該当者は貴斗の事だな、かえって母さんに聞いて確かめよう。

「どうかしたのかしら八神くんの顔何だか確信めいたモノを感じるのですけど」

〈藤宮さん結構鋭いな〉と心の中で突っ込みを入れて置いた。

「そんなこと無いって、ワハハッハ」と無理に俺は笑い言葉を続ける。

「でもいいよな、貴斗のヤツこんな綺麗で優しそうなお姉さんがいて、俺ん所とは雲泥の差だ、まったく。家のあれは姉と言うよりも、兄と言っても間違いない」

「何、慎治にお姉さんがいたの?聴いたの、初みみぃぃいいっ!」

「八神君、お聞してもよろしいかしら?」

「ハイッ?」

「貴方のお姉さまのお名前は佐京ではないのでしょうか?」

「何ゆえ、姉貴の名前を?」

「八神君がキョウちゃんの弟だったのね!氏名が一緒でも関係ないと思っていたのですけど。いつも貴方の自慢をしていましたわ。私に目に入れても痛くない程、そしてキョウちゃんに従順で可愛い弟だって!」

「きょうちゃん?」

『目に入れても痛くない』を『面倒な事は俺を遣えば姉貴の手は痛くない』、『従順』を『下僕』と口に出さず心の中で訂正しておいた。

「中学、高校とキョウちゃん美人でしたので男子生徒に人気がありましたのよ」

「確かに俺も姉貴の顔の出来がいいのは認めるでも性格がな・・・」

「その様なことはないはずですよ?クールでしたけど誰にでもお優しく接していたのを私は覚えていますけど?」

「翔子さん、ちっといいですか。姉貴とはどのようなご関係で?」

 恐る恐る俺はそう聞いて見た。すると、

「心友ですっ!!」

 先生、スッパとそんな風に言い放ってきた。なんか字が違うような感じの声で言っていたような気がするが・・・。

「翔子さん、悪い事は言いません。騙されています。速やかに友達を止める事をお薦めします」

「八神君、どうしてその様な事を仰せるのですか?」

「よく自分の姉に対してそこまで言えるわね、慎治」

「八神くんがその様な事を口にするなんて私も少々驚きです」

 先生は仄かに涙を浮かべながら俺に訴える。何だか、心が痛むが藤宮さんと隼瀬を無視し、心を鬼にして姉貴との関係を絶ってやれねばと思い本意を俺は語り始める。

「緋き完殺者、その両手を覆う白き手套は彼女の総ての敵を切り裂き、それを紅く染め・・・」

 そこで一旦、俺は間を置くと裏から声が聞こえてきた。

「紅く染め・・・、早くその後を申してみぃ。ほらっ、早く」

 後方から聞えるその言葉を聞いた時、背筋に言いようの無い戦慄を俺は感じた。その声には聞き覚えがある、ッて言うか絶対忘れられないように前頭葉表面にマッキーペン青で書かれた位ハッキリと覚えているその声。

「あっ、アネキィ?何ゆえここに?」と言いながら姉貴の方に振り返った。

「帰路の途中だ」

「じゃなくて、アンタ、東京の大学に行っている筈だろっ?」

「夏期休校中だ、実家に帰ってきて何がおかしい?ソ・レ・ト姉に向かってアンタなどのホザく悪い口はこの口か」

 そう言って姉貴は両手の親指を俺の頬に突き刺し渾身の力を込めグリグリする。しかも顔は至って平然として。

「ギョッ、ぎょめんにゃじゃい、あげき、わはいが、わうう、ごはいました。あはらほのへほのへへぐははい(ごっ、ゴメン、姉貴私が悪うぅ御座いました、だからその指を退けて下さい)」

「ウムッ、翔子の手前、弟の醜態をこれ以上曝すわけにはいくまい」

 俺の口にした言葉を理解してくれたのか、そう言ってその手をどけてくれた。

「危うく、頬を貫通させられ口が三つになる所だった」とボヤクと姉貴が、

「そうしてもよかったのだぞ、ククッ」とさらりと恐ろしい事を言う。

 俺と姉貴の会話が終えるのを待っていた先生が、

「キョウちゃん2年ぶり」と言って姉貴に抱きついた。

「正確には678日ぶりだ」

 姉貴がそんな事を言ったのを耳にして俺はすかさず突っ込みを入れる。

「ぜってぇ~~~、うそっ」

 そう口にすると姉貴から鋭い視線を受ける。

 姉貴の攻撃、殺意の眼差しを放っってきた。俺はそれの所為で65534の精神的ダメージを受けてしまった。風前の灯である。ウッこのままでは俺のパラダイスなキャンパスライフが始まる前に暗く冷たい土へと引き釣り込まれてしまいそうだ。

 そうだ、迅速に家に帰って母さんに診て貰わないと。などと馬鹿なことを考えている場合ではない。

「翔子、嬉しいのは分かるが、他人が見たら変に思う、放しなさい」

「あはっ、御免なさい、つい嬉しくなってしまいまして」

 俺は先生の見てはいけない部分を見てしまったのかもしれない・・・。

「佐京さんだっけ?慎治、ほんとにあの女性と血、繋がってんの?」

「否定したいが、事実だ!」

「とても素敵な方・・・、大人の女性って佐京さんの様な方を言うのね。ポッ?」

「あぁ~~~、憬れちゃう、アタシもあんな風に熟れるかしら?」

 やっ、ヤバい、宝塚風の出で立ちの姉貴に二人とも・・・、見た目に騙されている様だ。でっ、でも俺には如何にも出来ない。

「私はこれから翔子を連れ、友達を集めて飲みに行くことに決定した。母様には遅くならない内に帰宅すると伝えてくれ。分かったな、シン」

「ヘイ、ヘイ」と逆らってもいい事ないので即答した。

「シン、返事は一回でいいのだぞ」

「・・・ハァ~~~」

「何だ、その溜息は?」

「なっ、何でも御座いません」

「そうか、それでは私タチはそろそろ行く事にする。そちらのお嬢さん方、コヤツをお供にくれてやる、安全に帰宅するがよい。女性に対しての扱いはしっかりと躾てあるから間違いは起こらないだろう」

〈『躾?』、『調教』の間違えじゃないのか姉貴〉

 などと恐ろしくて言える筈もない突っ込みを心の中で呟いた。

「取り立て良い所は無いが私にとっては大事な弟だ、仲良くやってくれ」

「ハッ、ハイ」と藤宮さんも隼瀬も嬉しそうに返事をしていた。

 やばっ、二人とも洗脳されてしまっている。早く姉貴から離さないと取り返しにつかない事になってしまうので早々に退散しよう。

「それじゃ、姉貴、俺は二人を送って行くから」

「ウムッ、頼んだぞ。それと私が帰るまで寝てはならんぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「シン、返事は?」

「ハイっ」

「ウム、宜しい、それではまた後ほどに我が愛しき弟よ」

 最後にとんでもないことを言いつつ姉貴と翔子先生はその場を去って行った。

「佐京様ぁ!!」

 藤宮さんと隼瀬は去って行く俺の姉貴を見てウットリした声でそんな言葉を漏らしていた。

「お前ら、いい加減に目を覚ませ」

『バッシ!』と俺が拍手をすると目が覚めたのか?正気に戻ったのか?

「さぁ~、アタシ達も帰エロッ!」

 先程の状態など微塵も感じさせない声で隼瀬は俺と藤宮さんにそう言ってきた。俺は姉貴に言いつけを守り無事、二人を家まで送ったのだった。

「母さん、ただいまぁ~~~」

「あらっ、シンちゃん、遅かったわね?」

 俺の母親、八神皇女紹介終わり。

「・・・。シンちゃん、ミコ悲しい。シンちゃんがこんな子に育ってしまった何って。うぅ~~~、シク、シク」

「どうしたんだよ、母さん、いきなりそんな顔して?」

「ミコはこれでもサイコセラピストなのよ。ミコの自己紹介がたったの一文なんてとぉ~~~~っても悲しい」

「・・・、母さん。それは絶対口に出しちゃいけない言葉なんだけど・・・」

「・・・失敗、失敗」

 母さんはニコニコしながら舌を出してそんな事を言う。

 どうせ今回限りのキャラなのに長ったらしい自己紹介などいるはずも無かろう。これは現実的な物語と言う事、真偽の程は確かめられないが母さんが〝サイコセラピスト〟ではなく〝クレアーヴォイエント(千里眼)〟の間違いではないのかと心の中で一人突っ込みをしておいた。

「でもちょっと残念」

「チョッと前まで、母さんの事を友達と話していたからそれでいいだろ、まったく」

「ハァァァアア~、そうなのですかぁ?」

 姉貴とホントに血を分けた母親なのかと思う程の天然ボケっぷり。俺の突っ込みセンスは母さんに鍛えて貰った物かもしれないな・・・?

「帰る途中、姉貴に会って俺は託を頼まれた。俺の学校の翔子先生と飲みに行くってさ。それと余り遅くならない内に帰宅するとも言っていた」

「あらっ、翔子ちゃんと一緒に?」

「翔子ちゃん、って母さん翔子先生の事、知っているの?」

「サッちゃんが高校の時、よく遊びにいらしていたのよ」

 母さんは姉貴の事を『サッちゃん』と呼ぶ。姉貴ですら母さんに頭が上がらない。

 母さんは親父にベタ惚れなので何でも言う事を聴くみたいだ。姉貴もあの威厳ありな親父に叛いたことは無い。無論俺も親父を尊敬している。妹の右京はまだ小さいから・・・、もしかして俺ってこの家ではヒエラルヒーの底辺的存在?よく今までグレ無かったと思う。

「・・・、知らなかった」

「それも、そうね、何時もシンちゃんが居ない時に来ていましたから」

〈クゥ~~~、そうだったのかぁ~~~もっと早く知っていれば・・・〉

「・・・、シンちゃぁ~ん?如何わしい事を考えていませんか?」

「ひどいなぁ、母さん俺、今、めちゃ、めちゃ傷ついたなぁ」

「ああ、だめな母親ね。ミコったら、御免なさい、シンちゃん、シクシクッ」

「ダァアァァアアッ、いい歳して、そんな泣き方しないでくれぇ~~~」って言ってないで早く本題に入らねばな。

「母さんに聞きたい事があるんだけど?」

「何かしら、改まって」

 さっきの表情はどこに行ったのか急にニコニコした顔で俺を見る。全く、母さんは変り身の素早いやつだ。

「確か、母さん内の学校の生徒を最近、診察てるって言っていたね?」

「オメデトウ、シンちゃん、やっと彼女が出来たのね。それで恋愛の相談をお母さんにしてくれるなんてウレェシィ」

「かぁさん、人の話をちゃんと聞いているのか?」と言いながら軽く母さんを小突いた。

「ウゥ~~~、冗談なのにぃ~、シンちゃんが小突いたぁ。聖チャンに言ってやるんだからぁ」

『聖チャン』とは俺の親父、泰聖の事。

「今回は母さんが悪い、だから親父は必ず俺の味方をしてくれる」

「シンちゃんによい人が出来ないのか、お母さん心配で、心配で」

「俺の心配より姉貴の方を心配したら?」

「サッちゃんにはちゃんと彼氏いるわよ」

「また、ご冗談を・・・」

 多分それは『彼氏』ではなく『奴隷』の間違いであると分かっていたが姉貴に告げ口されたらと思うと・・・、口が裂けても言える事ではない。

「シンちゃん、何か、サッちゃんに失礼なこと思っていない」

「ギクッ、滅相も御座いませんです、ハイ」

 自分の母親なのに理解出来ないよ、この人は。

「母さん、話を脱線させないでくれ!正直なところは?」

「駄目ぇ!!」

「即答ですか」

「ハイッ、即答です、ニコッ」と笑顔で母さんが返し、

「なんでぇ~?」

「分からないの、育て方間違えてしまったかしら?」

「いやぁ~~~、育て方は関係ないと思うけど?でも母さんのお陰で立派に成長していると思うよ、多分」と言って俺は母さんの機嫌を獲る言葉を述べた。

「シンちゃん、素直で可愛い、さすが私の自慢の息子。分かったわ、教えてあげる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「シンちゃん、どうしたの?」

「母さんいいから話進めてよな」

「いくら自慢の可愛い息子でも大事な患者さんの事は教えて上げられないの。医者に限らず人の情報を扱う職業ではこういった事はとても重要よ。秘密保持厳守!だから、ゴメンね、シンちゃん。ハイッ、説明終わりです」

「・・・ハァン?」

 ここまで引っ張っておいて、母さんは期待とは裏腹な答えを返してくれやがりました。

「あらっ、どうしたの、そんな顔して?」

「母さんが俺の期待を裏切ったから心底落胆しただけだよ。フゥ~」と大きな溜息を見せ付けるように吐いてみせた。

「ハァ~、しょうがないわね。今から私が質問する事に全部回答出来たら教えてあげます。制限時間10分以内よ!」

「マジっすか?」

 母さんの質問内容はその患者と思われる氏名、年齢、生年月日、血液型、性格、身体的特徴その人に最も近しい存在三名以上と最後に彼の行動パターン。

 質問のうち幾つか簡単に答えられるものがあったが・・・、貴斗の生年月日と血液型はどうしよう?生年月日は名簿で確認できるけど、血液型は流石に載ってない性格と行動パターンで何とか的を絞って見るか?でも今の性格はどうも記憶喪失後の性格のように思えるから判断難しいぞ?

「シンちゃん、後30秒よ?」

「あぁ、分かった、急かすなぁ」

 最後は血液型だけ・・・、賭けに出るか?


                ・


                ・


                ・


「A型でどうだぁ」

「ブゥーーー、はずれ答えはO型」

「ふっ、俺の勝ち」

「どうして、シンちゃん?全問正解出来なかったのよ」

「だって俺が知りたかったのはその患者の診察内容じゃなくて、その患者が母さんの所に通っているかどうかが分かればいいだけ」

「最後の血液判断、正解でも不正解でも母さんは黙っているべきだった」

「ぅう~~~酷い、シンちゃん、ミコを騙したのね」

「違うだろって母さんのミスだ」

「さぁ~~~って、俺の用件は済んだ事だし、風呂でも入ロッと!」

 不貞腐れている母さんをその場に残し風呂場へと急げ!


                *


                *


                *


「プハァ~~~、いい気分」と湯に浸かりながらそんな事を口にした。

「貴斗の奴も大変だよな、よりによって母さんが診察している何って。職場ではどんな顔をするのか知らないが」

 風呂に入りながら貴斗の事を考える。出来れば俺もヤツの記憶を取り戻すために協力してやりたい。それにはヤツの記憶喪失になった原因を知る必要があった。母さんのオフィスに忍び込んでファイルを除けば何とかなるかな。明日にでも母さんに気付かれない様に行って見ようか。そして、その後、俺は風呂から上がり夕食を食べ、自室で宿題をやる事にした。


~ 深夜1時20分 ~


『コンッ、コンッ』

「ウヒッ、オィ、シィン、おきちょるかぁ~~~」と姉貴の酔った声が聞こえてきた。

 この分だと相当酔っているな。絡まれそうで怖いが、返事をしないと更に恐慌しそうなので返事をしてドアを開ける。

「姉貴、お帰り。なんだか相当酔っ払ってないか?」

「なぁぬぃ、いへんだよ、わらいはひなふぅだぁ~~~」

 どう見てもシラフではないのは明白である。

「ほらっ、姉貴、しっかりしろよ」

 俺は姉貴に肩を貸し俺のベッドに座らせる。

「うふっ、ほひにははらへ」

『ウム、よきにはからへ』だ?全くこの人は。

 俺はまだ開封していないペットボトルの水を姉貴に渡しそれを飲ませようとした。姉貴はそれを開けると一瞬にして飲み干した。1リットルもある水を一瞬にして・・・、アンタ化け物ですか?

「フゥ~~~、生き返った、流石シンだ、姉に対して気が利く。お陰で目が覚めたよ。さぁ、之から私と語らおうではないか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 若しかして、余計な事をしてしまったのではないかと後悔した。それも後の祭り

「ほら、どうしたシン、優しき姉がお前の相手をしてやろうと言うのに」

 貴斗よ、ゴメン、俺はお前の記憶喪失の回復の手助け出来そうにない。

 宏之、ヤツの事は任せた。

 俺の命は今日この日で尽きるだろう。しかし、夜空の星になってお前達を温かぁ~く見守るぞ・・・、フッ☆。

 翌日11時過ぎに俺は目覚めた。くそぉ、姉貴め、手加減って物を知らないのか。未だその痛みの回復しない体をストレッチしてベッドから身体を起こす。合気道だか、空手だかなんだか知らないけど実験台にしやがって。俺を使って憂さ晴らしをするなってぇ~~~の殺傷兵器めっ。そうボヤキながらパジャマのまま一階のリヴィングに降りて行く。

「やっと起きたようだな?おはよう、シン」

 下まで降りてゆくと姉の佐京がそこにいた。姉貴は持っている新聞から目を離し俺にそう言ってきた。

「オハヨウに御座います」

「よい挨拶だ。今日は頗る機嫌がよいので私が朝食を用意してやろう」

「アリガト」

 性格はあんなだが家事全般、母さんとホボ同程度にこなす。性格さえよければとツクヅク思う。それから、暫くして・・・。

「ほら出来たぞ、シンこちらへ来なさい」と呼ばれ俺はダイニングへと向かった。

「頂きます」

「男の子だ、たらふく食えよ」

 姉貴が作ってくれた朝食に箸を伸ばして食べ始めた。時折、姉貴は俺の顔を見てニッコリする。俺の言語レベルでは表現出来ない位の優しい表情で、嫣然?

「姉貴、恥かしいからそんな目で見るなよ」

「シン?何を恥かしがっている。私はお前の姉だ。そしてお前は私の弟、もっと甘えてくれてもよいのに」と分けの分からない事を俺に言う。

 姉ながらよく分からん、ここら辺はヤッパリ母さんの血が濃いと言う証拠なのだろうか?何時もこうなら良いのにと俺は思った。

「ご馳走様でした。美味しかったです」

「また気が向いたら作ってやるぞ。それよりシン、今日これからどうするのだ?」

「調べごとの為に外に出るよ」

「それを取りやめ、私に付き合ってくれ」

「きっぱりとお断りします」

 一日中姉貴に付き合っていたら体が幾つあっても足りないのでそう答える事にした。

「ホォ~、私よりそちらの方が大事か?シンよ!」

「これだけは譲れません」

「そうか、それでは諦める」

 姉貴は強硬手段に出ると思ったが、あっさりと身を引いた。表情が刹那、悲しみの色に染まったような気がする。罪悪感めいた物を感じる。だが、今回は許してもらう事にした。

 服を着替え母さんの診療所があるオフィスビルへと向かった。日曜日だけあってビルの中は余り人気がない。診療所がある5階に階段を使って登る事にした。

 エレベーターやエスカレーターと違って利用頻度が低く人と会う確率も少ないからそちらを選んだ。

 初めて来るけど結構広いな、一階で場所を確認してあるので場所も分かっている。間違ってはいけないと思って手書きのメモもしてあるから大丈夫だとは思うがな・・・。

 自分の記憶どおりの場所を探しその部屋へと辿り着く。プレートを確認してそこが目当ての場所か確認した。


【八神カウンセリングルーム】書いてある。正しいようだ。

 母さんがこの部屋を出るのを何処か隠れられる場所で待つしかない。後は時間の問題。 母さん、個人経営だから彼女以外そこには居ないだろう。それに母さんが出るときにわざわざ患者をそこに残すことが無いであろう事も予測済み。

 ここら辺は賭けの要素が多いがしょうがない。俺が賭けに勝つことを祈りつつ時間が過ぎるのを待つ。

 それから二時間ぐらい過ぎて、大きな欠伸をしながら母さんが部屋から出てきた。チャンス到来。母さんが俺の視界から消えるのを待つそしてそれを確認して診療所へと向かった。すぐに入る事をしないでドアに耳を当て何か聞こえてこないか確認した。防音対策が施されていたら意味の無い行動だな。

「しゃぁない、あとは成るように成れだ!」

 ノブを回す。無用心にも鍵は降りていなかった。俺はドアをユックリと開け中に侵入する。誰もいないようだ。母さんが戻ってくる前に探さないと。

 母さんにこんなことがばれたら、後が怖い。どんなお説教とお仕置きをされるか分かったものじゃない。一時の猶予も無駄にする事は出来ない。ファイルキャビネットの方へと向かいそれを開けようとした・・・、駄目みたいだ。鍵が閉まっている。

「かぎ探しかよ、多分机の引き出しの中だろう」と言葉にして、すぐに大型の机に向かう。

 そこで俺が目にしたのはいまだ見整理だと思われるファイル群だった。若しかしてあの中に、とっさにそのファイルを閲覧する・・・、

          ‐Takato Fujiwara‐と書かれたファイルを発見した。

「あった、これか、俺、今日メチャ運いい」

 早速、俺はそれに目を通し内容を確認した・・・、その内容を読み終えたとき愕然とした。頭が混乱してしまった。ここで頭の中を整理するのをやめて早々に退散。

 何とか見つからずビルの外に出る事に成功した。

『爆発事故』

『移植』

『友達の死』

『恋人の死』

『両親+兄の死、射殺』

『精神的内面性格分裂における記憶弊害』

 今、ファイルを見た事を凄く後悔した。俺の想像など及びもしない程に貴斗の閉ざされた記憶の中身は過酷なものであった。これからヤツにどんな顔をすればいいのだろうか?

 俺はヤツに何が出来るだろうか?・・・、深く考えそして結論を導きす。しかし、今の俺には何も思いつかなかった。だが、一つだけ出来る事はあるな。どんな事があっても友としてアイツに接してやることだ。

 追記として、何故、貴斗があれほど理数系に強いのかも知った。ヤツ、向こうの方でそっち系分野の大学卒業間近だったようだ・・・。

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