第9話 暗黒魔法
本格的な冬が訪れ、雪が降る日が多くなり、外での訓練が難しくなった。このため、優季は家の中で本を読んだり、素振りをしたり、腕立て伏せなどの体力づくりをしている。マヤは相変わらず裁縫にいそしんでいる。優季が横目で見ると可愛らしい下着であった。なんか布の面積が少ないような気がする…。優季は心を無にして本を読むことにした。
助さんは外で雪かきをし、格さんは秋の間ため込んだ薪を割っている。そんなある日、バルコムが久しぶりにやってきた。
『久しぶりだな。ほう、しばらく見ないうちに大きくなったな。体の方は大丈夫か』
「はい、助さんや格さんに大分鍛えてもらってますので、体も問題ありません」
『そうか』
『冬の間は外での活動も制限されるだろう。冬の期間を利用して魔法について教授しようと思う』
「魔法ですか!」
『うむ。前にも言ったがユウキは魔力がある。異なる世界から来た影響かもしれぬな』
バルコムが語るこの世界の魔法とは次のような内容であった。イシュトアールで使われる魔法は「自然魔術」と呼ばれるもので、その名のとおり、自然の力を世界に埋め込まれた隠された結びつきとして認識し、理を知り、制御し、魔力を持って操作することで発現する。
このため、魔法を使える者は専門の教育を受けた者に限られ、誰でも使えるわけではない。また、魔力を使うことから、本人の資質も重要な要素となる。
魔力を持って生まれる人は少なく、魔力を持つ血統が重要なファクターとなる。よって、魔法を使える者同士で結婚するなどし、血統を絶やさないようにしている。ただし、妖精族(エルフ、ドワーフ)は魔力を持つ者が多く生まれるため、この限りではない。
魔法の系統は「火」「水」「風」「土」の4つ。魔法を使える者はどれか1つの系統しか使えない。そして、魔法は自身を守ったり、生活に使ったりするのが主で、水晶球に魔力を込め、魔石を作り、様々な魔道具に埋め込んで利用したりする。魔石と魔道具を作る者を「魔具師」と呼ぶとのことだ。
「では、魔法を戦いに使うことはないのですか?」
『いや。そんな事はない。』
イシュトアールの世界の魔法は総じて威力は低く、人々の生活に特化しているため、戦いに使うことは少ない。しかし、中には攻撃魔法を使える者が存在する。攻撃魔法は戦局を左右するほど重要なため、使い手の家系は特に血統が維持される。王家や貴族といった連中は連綿と血統を守り、攻撃魔法を維持し、民を守ってきた者どもの末裔という。
『儂が生者であった時代から、はるか昔にさかのぼった時代には、地形を変えるほどの威力を持った魔法が存在したというが、わしもいまだに到達できておらん』
「へええ~。それでボクは4つの魔法のどれが使えるんですか?」
『どれも使えん。適性がない』
「えっ。でも、魔力があるって…」
『ユウキは異世界人のせいなのか、少々特殊でな、この世界の理(ことわり)が当てはまらないようだ』
「……」
『だから、この世界の理に影響を受けない魔術、わしのようなアンデットだけが使える暗黒魔法を教えることにする』
「ボ、ボクをアンデットにするんですか」
『そんなことはせん。お前をアンデットにしたら、死んだお前の姉に怒られるわ』
『お前は異世界人だ。この世界の理の外から来た人間だ。だからこの世界の理の外の魔法が使える』
「何か、よくわかりません。でも、魔法は使えるようになりたいです」
『暗黒魔法は闇魔法ともいう。火や風といった四元魔法とは異なり、自然的な対照を超え、死と再生に大きく関与する魔法である』
『例えば、暗黒の力で生体活動を阻害する魔法や直接死に至らしめる魔法を使えるということだ。一方で、再生を司る治癒魔法も使用出来るようになる』
「死と再生の力…」
『そのことをよく理解するのだ。暗黒魔法の使い手はこの世界には儂だけだ。ユウキが使えるようになれば、人としては初めての使い手となる』
「どうしたら使えるようになりますか」
『魔法はいきなり使えん。まず、ユウキには魔法を使えるまで、体の魔力の流れを感じる訓練をする』
「どうするんですか」
『まず、ユウキの中の魔力を励起する』
そう言うと、バルコムは片手をユウキの額に押し付けた。バルコムの手から何か流れてくような気がする。これが魔力なのだろうか。
『どうだ、腹の奥底に何か感じるものはないか』
しばらく、優季が下腹に力を入れていると、おなかの奥底で何か温かい塊があるように感じた。
「お腹の中に、温かい塊があるように感じます…」
『ふむ、魔力の励起はできたようだな。これからは、その魔力が全身にいきわたるように意識してみるのだ』
「はい」
優季はお腹の奥底に感じる魔力の塊を少しずつ広げていくように意識するが、なかなか上手くいかない。
「うむむ。難しいです」
『簡単にはいかぬ。できるできないは個人差がある。しばらく訓練するがよい。慣れるようになる。直ぐに魔力を感じられたのだからな』
バルコムが迷宮に帰った後も、魔力を励起させようと唸っているとマヤがお茶を入れてくれた。それを飲んで気分を落ち着かせると、マヤが急ぐことはないと頭をなでてくれた。
夕飯を食べ、格さんが沸かしてくれたお風呂に入る。
「ふうう~。お風呂はいいなあ。体が温まる」
「ん、なんだかお腹の奥底がじんわりしてきた。血の巡りがよくなると魔力も流れやすくなるのかな…」
お風呂の中で、感じた魔力が体の中に広がるようイメージする。すると、少し魔力が流れるような気がしてきた。
「おや、お風呂に入っているとなんだかできそう」
優季がお風呂の中でバシャバシャしていると、薪をくべている格さんから、『あまり長く入っているとのぼせますぞ』と声がかかった。
お風呂から上がった優季は、着替えの下着を手に取って青ざめた。これは、昼間マヤが縫っていた布の面積が小さい下着。10歳の優季にはハードルが高すぎる。ふと見るとマヤが柱の陰からこちらを伺っている。優季は覚悟を決めて下着を穿いた。マヤがガッツポーズをしているのが見えた。
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