第五十五話 国王に自己紹介タイム

 そんな猫のコスプレをしたおじさん(国王)が、耳をぴょこぴょこ動かしながら、今度はリンリンの方へと体を向ける。


「手紙で国王の紹介はしたが、君は初めましてかな?」


「はい、国王様。私は『リンエスター=リンリン』と申します」


「君がリンリンか。国王君の噂はいろいろ聞いてるよ」


「光栄です。国王様」


 国王が尻尾をふりふりしながら、いい笑顔でリンリンと握手を交わす。

 リンリン以外は全然可愛くない酷い光景だ。ここがジャパンなら、即お巡りさんに職質されているだろう。

 だが、そんな事よりも。


「君も、初めましてだよね」

 

 尻尾をくるくる回しながら、上機嫌の国王が天使に体を向けた。

 きた! アザセルさんにやらかした天使が紹介する番が!

 ミイナもリンリンもアザセルさんも緊張しながら見守る中、天使は淑女しゅくじょのように両手をお腹に置きながら、しとやかにお辞儀をした。


「初めまして。国王陛下。私。ジンくんの妻をしております。天使です」


「んん? 君は天使なのかね?」


「はい。証拠をお見せいたします」


 また丁寧にお辞儀をしながら、どこに隠していたのか知らないが、背中からふわふわの羽を生やし、頭には金色に輝く輪っかを出現させた。

 それを見た国王とアザセルさんは目を見開く。


「本物だ! 本物の天使だ! 国王びっくり!」


「冗談だと思ってましたが、まさか、本物の天使様だったとは……!」

 

 天使っぽくなった天使の姿に、国王とアザセルさんが驚く。

 そして、ミイナとリンリンは――。


「嘘でしょ……て、天使が礼儀をわきまえているわぁあああああ!?」


「天使様どうしたのでしょう。まさかお父――ミイナ様が天使様の頭を殴ってしまったから!」


「そんなわけ!……そんなわけ、ない、わよ、ね……?」


 天使の姿をした天使より、予想していなかったお上品な天使の対応に戸惑っていた。

 そして俺は――。


「誰が誰の妻だクソ天使がああああああああ!」

 

 妻という言葉で怒りがクライマックスに達し、フルチャージしてトドメを刺す勢いで天使をぶん殴りそうになったが、国王やミイナ。それにぶっ飛んだステータスのリンリンが天使の側にいてくれたおかげで、ギリギリで踏み止まった。

 が、国王が尻尾でハートを作りながら余計な質問をする。


「天使はジンの妻なのかね?」


 せっかく踏み止まったのに国王テメェ!!


 国王の問いに、天使は羽と輪っかをどこかにしまい、まるで貴族令嬢のように上品に微笑みながら答えた。


「はい。国王陛下。私は世界一愛するジンくんの妻です」


「そうかそうか……あれ? 国王ミイナがジンの妻だと聞いていたが、あれれ?」


 国王の尻尾がハテナマークになり、頭をひねる。

 まだ間に合う! 国王が疑心暗鬼になっている今こそ、天使が妻などという馬鹿げた発言を取り消して、俺こそがミイナの旦那だと認められるチャンスだ!

 俺は手をメガホンのようにしながら、国王に向かって思いっきり叫ぶ!


「国王様! 俺の名前は『カミバライ=ジン』! 勇者で、そして、ミイナの旦――」


「ま、いっか。ん? なんか大きな声が聞こえたが、誰か叫んだかね?」


「いえ。気のせいですわ国王様」


「お姉様の言う通り、空耳かと思われます。国王陛下」


 俺の心からの声を否定したのは、まさかのミイナだった。

 それに答えるように、天使も丁寧な口調で同意する。


「そうかそうか。で、あの離れた場所にいる男がジンだね。なんで離れているかは国王知らないけど、よろしく」


 そう言い、尻尾をピンッと垂直に立てながら、国王が俺に向けて片手を上げてきた。


「………よろしく」


 俺も、心が燃え尽きながらも、頑張って片手を上げた。

 なんでかな。体はこんなに元気なのに、心からバキバキゴキゴキと、聞こえてはいけない音が鳴り響いている気がするよ。

 あはははは…………………………………………ぐすっ。

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