第五十六話 この国の現状

「いやー、君達の活躍で、まだまだ我々人間種族が生き永らえるよ。ありがとう」


 さらっと重要そうな発言をしながら、国王が「地図出してくれ」と言い、耳をぴょこぴょこ動かす。

 すると、アザセルさんが懐からぐるぐる巻きにされた地図を出して、離れている俺にも見えるように大きく広げた。


「こんな感じでよろしいでしょうか」


「ばっちりだよアザセルくん」


「恐縮です」


 ぐっと親指を突き出す国王。

 俺はそんな二人のやりとりを虚げな目で眺めながら、地図を見る。

 地図には、この国と思われる範囲が小さく丸つけられていて、他の場所は全部【魔王領】と記されており、その【魔王領】は更に細かく七つの領地に分かれていた。


「君達の活躍した成果と、この国の今を特別に国王自ら説明しよう」

 

 国王がオホンと咳き込み、手ではなく尻尾を地図の上で動かしながら腕を組んで説明を始めた。


「この国の国民ならみんな知ってると思うけど、復活した魔王によってたった数十年でこの国以外の人間種族の住む国家はもう滅ぼされていてな、この国を囲むように接している【ゴブリン領】【魔獣領】【ドラゴン領】が地図上にあるが、「どこか一つの領土が攻めてきたらこの国滅びるぞ。覚悟をして毎日過ごすように」って国王が演説した翌日に『【ゴブリン領】と【魔獣領】が軍を率いて攻めて来ました!』って伝令を国王聞いて、「この国はもうお終いだ! 国民のみんな、今までありがとう!」って涙を流しながら演説した四日後、『ゴブリンどもを返り討ちにしたぞオラァ!』『リンリンちゃんが魔獣王倒したウサ』ってサダン達から伝令が国王に来てな、すぐ国民に「あの『エンペラーゴブリン』も『魔獣王ラグナウルフ』も倒された! 国王達は助かったんだ。今日はお祝いだ!」って演説して国王、丸一日国民達と馬鹿騒ぎをしたんだ。いやー、楽しかったなぁ」


 懐かしむように国王が顔を上げて目を閉じた。

 が、国王はゆっくりと目を開き。説明に戻る。


「まだ国民達のお祭り騒ぎは続いてるけど、国王は参加せず、国王として国の為に動き出すなら今だと思い、君達に手紙を出して、最速の空中『メガワシ車』で【ドラゴン領】に和平交渉しに行ったんだ。

 ドラゴンの女王は【六皇】の一角だが、昔から人間種族とも交流をしていたから、手に入れた【ゴブリン領】を交渉材料に使えば国王イケると思ったんだ。

 そしたら案の定、その日でドラゴンの女王は和平を受け入れてくれたよ。国王凄いだろ。はっはっは!」


 国王が高笑いをする。

 ひとしきり笑い、落ち着いた国王がこの国と【魔獣領】を尻尾でぐるっと囲った。


「だから人間種族の領土は今、魔王が復活する数十年ぶりに【魔獣領】までの範囲にまで拡大したんだ。すぐ隣の【ドラゴン領】は攻めてこないから、【魔獣領】で滅んだ国々をもう一度復活させることができるよ。

 これも全部君達が『エンペラーゴブリン』と『魔獣王ラグナウルフ』を倒してくれたおかげだ。国王心から感謝している。ありがとう」


 そう言い、国王が深く頭を下げた。

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