第五十三話 やらかした天使

「では皆さん。私は近くの宿で待ってますので、終わったらこの宿屋まで来てください」


 おじさんがミイナにメモ帳の切れ端を渡した。

 チラッとメモを見ると、そこには宿屋の名前と、そこまでの簡単な地図が書かれていた。


「ええ、ここまで送ってくれてありがとう。おじさん」


「ありがとな」


「「ありがとうございました」」


「いえいえ。それではまた……」


 お辞儀をして、馬車を動かし、王宮の前からおじさんが去っていく。

 その背中を最後まで見送り、ミイナがガキ大将のようにビシッと王宮に指を刺しながら、自信満々に言い放つ。


「じゃあいくわよ。私についてきなさい!」


「おう!」


「はい。お姉ちゃん」


「はい。お父様」


「……あの、リンリン。お父様はやめてくれないかしら」


「ごめんなさい。で、では……ミイナ様……と、お呼びしますね」


「うん。それでよろしい」


 ミイナがリンリンの頭を撫でる。リンリンは父親に撫でられた子供のような笑顔になる。

 なんだか親子のようで複雑だが、これはこれでいい光景だ――。


「お姉ちゃんは? ねえねえ、お姉ちゃんは?」


 天使がかまってちゃんになって、リンリンの頭を撫でているミイナに言い寄った。

 ミイナはリンリンの頭から手を離し、キスする距離まで顔を近づけた天使を手で押し返した。


「鬱陶しいわよ天使」


「がーん。そんな……」


 しゅんとして、落ち込む天使。


「お父――ミイナ様からの撫で撫でが……」

 

 撫でられるのを邪魔されたリンリンも落ち込んでいた。

 そんな二人に、ため息を吐いたミイナが、天使とリンリンの頭を撫でながら、顔を赤くして天使の目を見ながら恥ずかしそうに告げる。

 

「べ、別にいいわよ……お姉ちゃん……って、呼ぶくらい……はね」


「ほんとに?」


「ええ、アンタの好きにしなさい」


「やったぁ」


 天使がばんざいをして喜び、ミイナに抱きついた。

 チッ。天使めぇえええ!


「は、離れなさい!」

 

 抱きつく天使を引き剥がしたミイナが、動揺を隠すように背を向けて、早足で王宮の中へ入る。


「と、とっとと国王様に会いにいくわよ」


「天使コロ……おう!!」

 

「はい! お父――ミイナ様」


「はい、お姉ちゃん。

 ……あとジンくんからのラブコールきたぁぁぁ!」


「ラブコールじゃねぇ、殺意だよ!」


「アンタ達うるさいわよ!」


「ごめん。ミイナ」


「ごめんなさい。お姉ちゃん❤️」


「まったくもう」


 ミイナを先頭に、RPGのように縦に並んでミイナ、俺、天使、リンリンの順番で王宮の中に入る。

 すると、腰に剣を装備した、スーツ姿のイケメン執事が、入り口に入ってすぐ俺達を出迎えた。


「ようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」


「国王様に呼ばれたから来たわ」


「そうですか。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」


「ミイナよ」


「ジンだ」


「リンリンです」


 ここまで普通に自己紹介して、次は天使が紹介する番になる。


「大好きなミイナお姉ちゃんの妹で〜、ジンくんの〜、正妻の〜、天使ちゃん(17歳)で〜す❤️」


 胸元を開き、セクシーなポーズで天使が自己紹介した。

 初っ端からやらかしやがったぁあああああああああああああああっ!!


「なっ!?」


『うひょっ!』


「は、はわわ……天使……様」


「天使ぃ、アンタって娘は!」


 天使コロス!!


 セクシーなグラビアポーズを三回もしながら自己紹介した天使のせいで、近くを歩いていた兵士全員とイケメン執事の目が天使の胸元に釘付けになって固まり。

 リンリンは顔を両手で包むようにして、耳を赤くしていたたまれない顔になり。

 ミイナは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にして、大声で天使を怒鳴り。

 俺は殺意エクストリーム状態で拳を握りしめて、その時が来るのを待っていた。

 そんな学級崩壊した世紀末の教室のような、もう一方は夏のビーチのような、カオスな空気の中、イケメン執事がハッとなり、咳払いをして場を引き締める。


「んんっ、こほん。

 ミイナ様、ジン様、リンリン様……そして、天使様……ですね。ミイナ様とジン様とリンリン様のお名前は陛下から伺っております。ようこそ王宮へ。

 ご紹介が遅れました。私はこの王宮の執事長兼【九将軍】をしております、『アザセル』と申します」

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