第四十九話 野生の『ヒャハーの集団』が現れた。いけ、『愛に泣く勇者』ジン! という3日目
2日目は『天使コロス』と思った以外は特に何事もなく平穏に過ぎていき、3日目。
サバンナのような平原を越えた馬車は今、歴史の跡のような廃墟を通っていた。
窓からの景色は全部廃墟。建物は壊れ、木々は一本も生えておらず、草木も生えていない。
「なんだか不気味ね」
「そうだね。お姉ちゃん」
「……なんで今、お姉ちゃん。と?」
「なんでかな? なんでかな? くふふ、お姉ちゃーん❤️」
甘えるようにぎゅーーっと抱きつき、天使が猫のように体を伸ばし、宝石よりも希少なミイナの頬をペロッと舐めた。
「ひゃあ! 天使、アンタはお姉ちゃん呼びも、過度なスキンシップも少しは自重しなさいよ」
「えへへ、ごめんなさい」
ミイナは叱ってるようだが、その顔はまんざらではないように緩んでいた。
その証拠に、呆れながらも天使の手をぎゅっと握り、倒れるようにコツンと天使の肩に頭を乗せていた。
まるで仲の良い姉妹か恋人のように。
天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス天使コロス――。
拳を固く固く握りしめて、心の中で殺意アルティメットハートな呪詛を天使に送る。
が、天使はそれでもなお嬉しそうにチュッと投げキッスしてきた。
もう耐えられねえ!!
「うがぁあああああああ!」
「わっ! いきなり叫んでどうしたのよジン、それになんでそんなに怖い顔をしているのよ!」
突然発狂しながら席を立つ俺に、ミイナが驚く。
「ミイナ、俺の理性が残っているうちにそこにいる天使から離れてくれ」
「なんで! その顔で一体天使に何する気よ!」
ガバッと大切な物を守るように天使に抱きつき、眉を寄せ、上目遣いで怒ったようにするミイナ。
ミイナ可愛い! 可愛い……けど、今その対応はダメだミイナ! 俺のカルマ値がどんどん減って――うがぁああああ!
理性が崩壊しそうになったその時。
馬車を引く馬が悲鳴を上げるように鳴き、ガクンと馬車が急停止して俺の体が前に倒れ――。
チュッ。
唇に柔らかな感触がぶつかる。
すぐ近くではミイナの目が限界以上に見開かれる。
何故なら。
「んん……ジン……くん❤️」
俺と天使が唇と唇を合わせたキスをしているからだ。
ぎゃああああああ!
血の涙を流して光よりも早く唇を離すが、天使はポッと頬を赤くしながら恥ずかしそうに。
「ジンくん。これで『32回目』の唇でのキスだね」
「32回目!? ジン、天使といつの間にそんなにキスしてたの!?」
「違う、これは事故……じゃなくて、これが初めてのキスだろ天使!」
俺が死んだ後で天使と(脅されて)キスしていたのをミイナは知らない為、俺は『初めて』と誤魔化す。
が、天使はニンマリと笑い、自身の唇を指先で軽くタッチすると、ホログラムのディスプレイが唇に表示され、そこには『ジンくんとのキス32回目❤️』と書いてあった。
ミイナは見たことのないディスプレイに驚いていたが、書かれている内容を見て、諦めたように「ふっ」と笑いながら。
「ジン、私に隠れてそんなに天使とキスしてたんだ」
「ミイナ、違うんだ! これは天使の嘘なんだ!」
「ジンこそ、恥ずかしくて嘘をつかなくてもいいよ。
そっか、実は天使の事が大好きだったんだね。ジンは」
今にも泣きそうに、震える声でポツポツ喋るミイナ。
アカン! この流れは非常にマズイ!
ミイナは俺と天使を交互に見て、告白を断られたヒロインのように無理矢理な笑顔で。
「相手が天使ならいいかな。私はジンの事を諦め――」
「ダメだミイナ! それ以上は言ってはいけな――!」
「皆さん、逃げてください!」
突然バンッと激しく扉が開かれた。
驚いて開かれた扉を見ると、そこには――。
「ヒャハー! すげえ上玉が二人もいるぜ!」
「ヒャハー! これは今夜がお楽しみだなぁ!」
モヒカン頭で革ジャン革ズボンの集団が五人、ミイナと天使を交互に見ながらナイフを片手にそう言ってきた。
は? なんだコイツら。
すると外にいるおじさんが。
「やめろ、盗賊! ミイナさん達には手を出すな!」
窓の外では剣を片手に、別のヒャハー五人と戦いながらこちらに声をかけるおじさん。
「「「盗賊!」」」
「ヒャハー! そうだぜ可愛いお嬢ちゃん達」
「ヒャハー! 俺達と来てもらおうかお嬢ちゃん達」
「ヒャハー! その前に邪魔な男は殺してやるか!」
そう言い、ヒャハーの一人がいきなりナイフを俺の胸に突き刺してきた。
「うわっ、何するんだテメェ!」
ギリギリで攻撃をかわし、刺してきたヒャハーの顔面を足裏で蹴る。
「ヒデブッ!」と顔面に足跡がつきながらヒャハーの男が倒れ、その体を踏みながら俺、ミイナ、天使は馬車から降りた。
「ヒャハー! よくも兄弟を蹴ってくれたな!」
「ヒャハー! 殺してやるぜ」
すぐに別のモヒカンの集団も加わり囲まれる。
おじさんと戦っている数も含めると、その数二十人。
「ジンくん、ミイナさん。いっぱいいるね」
天使が「どうしよう、お腹あまり空いていないけどな〜」と小さな声で呟いた。
マズイ。天使がまたアレを使えば、ヒャハー達が全員ヒャハーな感じでハンバーガーになってしまう!
ミイナも俺と同じ意見のようで、天使の言葉で頬を引き攣らせながら、俺に声をかけてきた。
「じ、ジン。天使がアレを使う前に、一緒に盗賊どもを倒すわよ」
「いや、ここは俺一人に任せてもらおうか」
「え」
拳をパキポキ鳴らし、溜まりまくっていた『天使コロス』パワーを使って真正面にいるヒャハーの顔面を殴った。
「ヒデブッ!」
『ヒャハー! テメェ!』
「ほぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ――」
一斉にナイフで刺そうとするヒャハーどもの攻撃を、俺は世紀末の達人のように呼吸を整えながらジャンプしてかわし、行き場のなかった『天使コロス』パワーを最大限に活用しながら目にも止まらない速さで顔面を殴っていった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
「が! ヒデブッ!」
「ぎ! ヒデブッ!」
「ぐ! ヒデブッ!」
「げ! ヒデブッ!」
「ご! ヒデブッ!」
「ざ! ヒデブッ!」
「じ! ヒデブッ!」
「ず! ヒデブッ!」
「ぜ! ヒデブッ!」
「ぞ! ヒデブッ!」
「だ! ヒデブッ!」
「ぢ! ヒデブッ!」
「づ! ヒデブッ!」
「で! ヒデブッ!」
「あはぁん! ヒデブッ!」
と一人残らず、最初に殴った奴も追加で最低でも十発は顔面にパンチした。
一人だけ気持ちよさそうに倒れたが、そんな事よりも。
「ミイナさん、皆さん、お怪我はありませんか」
「ええ、大丈夫よ」
「ジンくんかっこいい❤️」
おじさんがヒャハー五人を倒した事で、ヒャハーの集団計二十人は全滅した。
お前達は全員、やれやれだぜ。
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