第五十話 百獣の王より強い美少女。リンリン

 ヒャハーは全員紐で縛り、あの廃墟に置いてきた。

 このまま連れて行こうにも馬車には入らないし、「じゃあ殺しましょう」とミイナが剣を抜いたら天使がヒャハーの前に両手を広げて立ち、「無駄な殺生は許しません!」と言いながら胸元に手を突っ込んだので慌てて俺とミイナで押さえた。

 その結果、体の自由を奪ってあの廃墟に置いてきたが、全員紐で縛っているので、このまま助けが来なければ魔物に食われるか餓死するかのどちらかだろう。

 でもまあなんとなくだけど、あいつらならきっと大丈夫のような気がする。うん、きっと大丈夫。心配ないさ。なんせ俺のお墨付きだからな。

 とまあそんなこんなもあり4日目。


「なあミイナ」


「なにかしら」


「なんでこんなに、人がいるんだ?」

 

 窓からの景色は、昨日まで荒野や廃墟だったのが信じられない数の人、馬車、人! だった。

 コイツら今日の今日まで一体どこに隠れていたんだ。

 などと思っていたら、ミイナが頬に手を当て、退屈な授業を受けているJKのように窓から外を見ながら口を開く。


「もうそろそろ王宮のある街『エクスカリー』に着くからよ」


「成程。だから人通りが多いんだな」


 疑問は他にもあったが、うれいを帯びたミイナが、絵画に描かれている女神のように美しく、可愛かったので納得しておく。

 すると天使が、俺の心を読んでいたからか隣のミイナに。


「じゃあなんで今日まで人に……普通の人には出会わなかったの?」


 と聞く。

 天使の問いに、ミイナは当然と言わんばかりに。


「それは最短距離で王宮に向かっていたからよ。普通の安全な道から行けば『ホオープ』から王宮まで2週間もかかるの」


「じゃあ俺達は安全じゃない道から来たからこんなに早く着いたのか」


「そうよ」


 ミイナが窓の外を見ながら頷く。

 今思えば確かに、通ってきた道ではゴブリンの盗賊や、百獣の王や人間の盗賊が出てきた。安全な道ならきっとそれらには出会わなかったのだろう。

 でもそんな道があったのなら、日数がかかっても安全な道から行ってほしかったな……。

 尊い犠牲者となったゴブリントリオを思い出し、静かに黙祷しておく。


「皆さん、もう間もなく街に入れますよ」


 おじさんの声がして馬車が止まる。

 窓から身を乗り出して外を見ると、大きな城壁に向かって人や馬車がずらりと並んでいた。

 どうやら皆、街に入る列に並んでいるようだ。

 あとは待つだけか。

 体から力を抜いて椅子にもたれ、うとうとしながら窓から外を眺める。

 

 すると。


「うわああああ!」


 後方から悲鳴が聞こえる。

 何事かと馬車の窓からそこに目を向けると、土煙を立てながら、遠くから巨大なウサギがこちらに走って来ていた。


「アレは『ニクショクウサギ』!」


「ジン!」


「おうよ!」


「私も行きます」


 俺、ミイナ、天使は馬車から降り、俺は素早く聖剣を召喚する。

 ミイナも剣を抜き、構えている。


「来るなら来い!」


「ズタズタにしてあげるわ」


 俺達以外の列に並んでいた人達は城門まで全力で逃げている。

 いや、よく見ると俺達だけじゃなかった。

 俺達の百メートル程先、ニクショクウサギの走って来る方向に一人の少女がいた。


「早く逃げなさい!」


「危ないですよ!」


「こっちへ逃げろ!」


 大声で呼びかけるが、聞こえてないのか少女は棒立ちのまま動かない。

 クソッ、このままだとあの少女が殺されてしまう!

 ニクショクウサギは少女の数十メートル先まで迫っていた。

 直線上に少女がいるが、こうなったら一か八か必殺技をここから放つか。いや、でも……。

 悩んでいると、ニクショクウサギがとうとう少女の前に立ち、丸太のような太い腕を上に上げる。


「ダメぇええええ!」


 ミイナの悲鳴と同時に、ニクショクウサギの腕が振り下ろされ、剣のように鋭い爪が少女を襲う!

 ちくしょおおおお!


 悩むのはもうやめた。

 俺は聖剣を振り下ろす!

 

「『シャイニング=スター=スラッ――』」


「『リンエスター奥義』《破震拳》」


 パァン!


「!?」


 巨大なタイヤがパンクしたような破裂音が聞こえる。

 いきなり鳴った大きな音に驚いて目を閉じ、ゆっくり開くとそこには――。


「嘘、でしょ……」


「マジ、か……」

 

 ニクショクウサギのお腹に、俺が立って入れるくらいの穴が空いていた。


「グュオオ――……」

 

 ドスンと倒れ、キラキラ光になって少女の指先に消えるニクショクウサギ。


「あれは、まさか!?」


 天使が目を見開きながら驚く。

 俺もミイナもさっきからずっと驚いている。


「あ」


 少女が武器を構えたまま固まっている俺達に気付き、百メートル程先から瞬間移動したような速さでこちらに移動し、気が付けば三、四歩先まで近づいていた。

 少女が問いかける。


「さっきから私に声をかけていたのは、あなたがたですか?」


「あ、はい」


「ええ、そうよ」


「そうですか。心配してくれて、嬉しかったです」


 両指を合わせ、花が咲いたような笑顔でニッコリ笑う少女。

 金色の髪を丸い円状にして、ツインテール型にした髪型に、ふくよかな胸とすらっとした体格で、異国のファッションなのか見たことの無い可愛らしい服を着ている。

 ミイナに負けず劣らずの絶世の美少女だ。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私は『リンエスター=リンリン』。武闘家です」

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