第四十一話 地獄の王

 ズゴゴゴゴゴゴゴ!


 黒よりもドス黒い魔法陣が地面に描かれ空間が揺れる。


「ガタガタブルブル」


 奴の気配を近くに感じ、オレの体も負けないくらい揺れる。


「hahahahahaha」


 心の底から本気で恐怖する笑い声が魔法陣の底から聞こえてきた。


「くぅっ……」

 

 あまりの恐怖に、オレは気絶しそうなのを堪える。


 バタバタ。

 

 今の笑い声だけで、オレの近くに攻めていた多分200万近くのゴブリンが死んだ。


『ひぃぃぃぃ。なんですかこの恐怖は』


 エンペラーゴブリンくんが声だけで震えている。


「もう終わりだぜ。お前もオレも」


 悪魔召喚よりもおぞましくドス黒いオーラが魔法陣に集まり、3メートル超えの人型になって、ついに奴が姿を見せた。


「haha。ミーを呼んだか? モルモットボーイ」


 ゴウッ!!


 声をかけられただけで、死んでいた頃には感じなかった暴風のような凄まじいプレッシャーが襲ってきた。


「ぐぅ、なんて恐ろしさなんだ」


 なんとかオレは耐えたが。


 バタバタ。


 今のでおよそ200万近くのゴブリンがまた死んだ。


『ひぃぃぃ、ば、化け物ぉぉぉぉ』


 エンペラーゴブリンくんが声だけで悲鳴を上げる。


「you質問に答えろ」


「そ、そうだぜ。オレがお前を召喚した」


「hahahaha、really?

 それがrealならモルモットボーイには褒美をやらねば」


 笑いながらハデス教官の右腕に闇が集まり、その集まった闇を限界以上に凝集し、ハデス教官から見て右側の空間がグニャッとねじれる。


「ヤバい!」


 死の気配を感じ、オレは超々全速力でハデス教官から飛んで逃げる。


「hahaha。逃がさないぞモルモットボーイ『ワールドオールデリートエンド』」


 オレが逃げてすぐ、ハデス教官が右腕の闇を解放した。

 それにより空間全土が一瞬で闇に飲まれ、死んだゴブリンも生きていたゴブリンも全員闇のなかへと消えていく。

 逃走虚しくオレもゴブリン軍団と同じように闇に飲まれ、目に見えない無数の手に体中ガシッと掴まれ、下へ下へと引きずり込まれる。


「ギャアアアアア――!」

 

『ギャアアアアア――!』

 

 オレと同じようなエンペラーゴブリンくんの悲鳴が聞こえ、先にエンペラーゴブリンくんの悲鳴が聞こえなくなり。


「――アアアア! やめろおおおお! は、な、せぇぇぇぇぇ………………あれ」


 気がつけばオレは『ゴブリンワールド』からミイナのいる世界へと戻っていた。


「助かった……のか」


 戻ってこれたね、ジンくん。


「ああ、よかったぁぁぁぁ〜」


 背中から地面に倒れ、昇りつつある朝日を全身に浴びながら、あの空間から抜け出せて心の底からホッとする。


 すると突然ピカッと体が光り。


「え」


「あ」


 俺と天使は元の一人一人に戻った。

 それもお互い裸のまま。


「ジンくーーーん」


 合体が解けてすぐ天使が抱きついてきた。

 それだけなら別に気にしないが、馬乗りになって下半身同士が合体するような位置に移動してきた。

 それだけはアカン!


「離れろ工◯!」


「いやん」


 俺は力ずくで天使を引っぺがした。


「だから私◯藤じゃないって。

 それに一度合体したから別にいいでしょ、ジンくんのケチ〜」


「うっせぇ。俺はもう二度とお前と合体しないからな!」


 本気で威圧しながらはっきりと宣言しておく。

 裸のまま。

 天使は「むー」とフグのように頬を膨らまし。


「いいもん。ジンくんがそのつもりなら私にも考えがあるからね」


「はっ、お前が何企んでようが無駄無駄」


 余裕の態度で天使に背を向け、ミイナ達の元へ帰る。

 裸のまま。


 ガシッ。


 後ろから肩を掴まれた。

 あまりの天使のしつこさに、こめかみに怒りマークが浮き出た。


「おいコラ、天使テメェ――」


 今度はあのプリンのような胸をサンドバッグのように殴ろうと思い、拳を固くして後ろを振り向く。


 が。


「haha。迎えに来たぜ。モルモットボーイ」


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


 驚き過ぎて言葉が壊れた。

 

 なので。

 

「く〜ん」

 

 と鳴きながら目をウルウルさせてチワワのようにか弱くプルプル震えて命乞いをする。

 裸のまま。


「hahahaha」

 

 そんな俺を見て、ハデス教官は満足そうにニッコリと笑いながらバシバシ肩を叩き。


「let's go to hell」


 ウインクしながら車で迎えに来たアメリカ人の友達のようなノリで地面に親指を落として禍々しい地獄への入り口を召喚し、俺はその中へとポイッとゴミを投げ捨てるような感じで投げられた。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!!」

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