第二十九話 スーパー勇者ジン
「悔し〜〜。私の超必殺技をあんな【放送禁止用語】ゴブリンに蹴られるだなんて〜〜」
ミイナが地団駄を踏み、無数の足跡が地面に刻まれた。
「ホホッ。せいぜいあの世で悔しがりなさい人間の小娘『ゴブリンビーム』」
人差し指でミイナを指差したかと思うと、そこから黄色いエネルギーのビームが飛び出した。
「お嬢様!」
「ミイナ危ない!」
「!?」
マカと俺の叫びも虚しくビームがミイナに直撃してズゥンと爆発した。
「お嬢様ああああああああ!」
「ミイナああああああああ!」
「ホーッホッホッホ! これで邪魔な小娘が一人消えましたよぉー!」
上機嫌に高笑いするエンペラーゴブリンに対し、絶望した表情になるマカ。そして俺は。
「許さねぇ。よくもミイナを……よくも……」
プチンと俺の中で何かが切れ、静電気で引っ張られたように髪が逆立ち、髪の色は…………残念ながら変わらなかったが、体から神々しいオーラが溢れ、ゴオオオォと俺の周囲で渦巻く。
力が、力が体の底から溢れてくる!
変化した俺を見て、自己紹介辺りからずーーーっと無視していたエンペラーゴブリンの表情から笑顔が消え、100円で買ったガラクタを査定に出したらまさかの一億円! と鑑定されたように驚いていた。
「まさか、まさかその姿は……」
怒りで理性を失いそうになっていたが、この場面でこのセリフを言わねばダメだという本能でなんとか理性を保って答える。
「とっくにご存知なんだろ」
俺はニヒルな笑みを浮かべながら。
「穏やかな心を持ちながら激しい怒りで覚醒した勇者。カミバライ=ジンだ!」
「勇者。そうですか。まさか天使からこんなに神気溢れた勇者が送られて来たとは思いもしませんでしたよ」
エンペラーゴブリンから殺気が放たれる。
覇◯色の覇気と勘違いするくらい恐ろしい殺気にマカは気絶しそうになっていたが、俺はそれにギリギリで耐え、ニヒルな表情をなんとか崩さずに。
「そんな言葉なんかよりもよぉ。とっとと殺ろうぜ。ミイナを殺したお前を俺は許さねぇがな」
「ホッホッホ。いいでしょう。この私に挑むのなら今すぐにでもあの世へ送って差し上げますよ。
人差し指を俺に向け、黄色いエネルギーが指先に溜まっていく。
が、俺は今のセリフを聞いた途端、俺の中にあった最後の理性が沸騰するヤカンのように吹き出し、ついには耐えきれなくなり。
「
「いい加減喧しいぞ害虫がああああああぁぁぁ!」
「へぶっっっっ!」
いきなりサダンさんに顔面を殴られ、そのお陰でエンペラーゴブリンの『ゴブリンビーム』を回避する事ができたが、殴られた勢いで地面に激突して空中で4回転トゥループと3回転アクセルを決めながら吹っ飛んだ先にあった木にぶつかったが煎餅を砕くように簡単にバキバキと折れていき、五本目の木にぶつかってやっとその勢いは止まった。
「な、なんで……」
「ちょっとパパ! なんでジンを殴っているのよ」
「すまんミイナ。あの害ちゅ――あの男の態度についムカついて、つい手が出ちゃった。パパ反省」
そう言い、ペロッとベロを出しながらミイナへと頭を下げるサダンさん。
「もう。今回はパパに助けられたから許すけど、次やったらこの【放送禁止用語】ゴブリンを処理した後にたっぷり説教するからね」
怒りながらミイナが地面に刺さっていた細い剣を引き抜いて投げ、サダンさんがそれを空中でキャッチした。
「お嬢様! 無事だったのですね!」
涙目のマカが駆け寄りミイナへと抱きつく。
「あのビームが私に当たる前にパパが剣を投げて助けてくれたのよ」
「そうでしたか。旦那様。ありがとうございます」
「こ、これくらい当然だ」
お礼を述べながらミイナから離れたマカに抱きつかれ、戸惑うサダンさん。俺は腫れた顔でうつ伏せに倒れながらその光景になんで? という疑問があったがそれよりミイナが生きていたという事実にホッとし。
「ミイナ生きてたのか。よかった。
けどごめんなミイナ。俺、しばらく戦えそうにないや」
殴られた衝撃とミイナが生きていたという嬉しさで俺から怒りと神々しいオーラはトイレで流されたように跡形もなく消えており、左腕を前に出しながら。
「だけどミイナ。俺はすぐ復活するから、だからよ、それまで絶対に、止まるんじゃ……ねぇ……ぞ……」
という希望の言葉をミイナ達へと託し、傷を癒すのに専念するためここで一旦エンペラーゴブリンとの戦いを観戦することにした。気絶? 死亡? 殴られたのは痛かったけど、勇者として一応鍛えているし、スキル『超回復』もあるから流石にそこまでではないわ〜。
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