第二十八話 トラウマの復活

「いいえ、もう終わりよ『ホーリーライトキャノン・フルバースト』」


 エンペラーゴブリンが変身して早々、ミイナから最強クラスの殺戮光線が躊躇なく繰り出された。

 神々しく輝きを放ちながら大地を大きく砕き、エンペラーゴブリンを消し去ろうと進む殺戮光線。俺が敵なら恐怖のあまり泣き、尿を我慢しているのなら失禁している場面だろう。

 それ程の恐怖を目の当たりにしているエンペラーゴブリンは、俺の思う反応とは違い余裕の笑みを崩さずに。

 

「これはこれは、恐ろしい光の力ですね。まあ変身する前の私にとっては、ですが」


 右手を前に出し、エンペラーゴブリンがミイナの殺戮光線を目を瞑りながら正面からあっさり受け止めた。

 ただいくら身長が伸びたとはいえ、殺戮光線は新幹線並みの大きさなのでズザザと徐々に体が後ろに押されるエンペラーゴブリン。

 いいぞミイナ。エンペラーゴブリン(第二形態)め、余裕ぶって目閉じて片手で抑えやがって何調子に乗っているんだこの野郎。早く両手を出してしまいには飲み込まれて某魔神さん(純粋)のように細胞一つ残さず殺されてしまえこんちくしょう。と思う俺だったが。


「!? キエエエエ!」


 エンペラーゴブリンが突然叫び目を見開いたかと思うと、新幹線並みに巨大な殺戮光線を左足で蹴り、上空へと軌道を変えた。

 サダンさん、マカは今の光景に信じられなかったようで。


「ワシ直伝のあの必殺技を蹴っただと!? バカな、そんなのワシでもやったことないぞ」


「信じられません。【九将軍】クラスのお嬢様の必殺技をあんな簡単に……」


 サダンさんはあんぐりと口を開け、マカは口を抑えながら目を見開いていた。

 そして俺は、マジかよこんにゃろう。と信じられない思いをしながらステータスを神眼で見て愕然とした。


「……おいおいマジかよ。この数値って、こんなのってアリかよおおおお!」


 俺が叫んでもサダンさんは気付いていないのか、それとも相手にしていないだけなのか今回はブチギレなかったが、その事を忘れるくらいエンペラーゴブリンのステータスは異常だった。


《エンペラーゴブリン》(魔物)

 ATK 70000

 DEF 70000

 SPD 70000

 MP  70000

《スキル》

 魔王の加護。帝王のオーラL v53。大地の加護。王の波動。超回復。超攻撃力アップ。超防御力アップ。素早さアップ。

ーーーーーーーーーーーー


 なんと全部の数値が二倍になっており、俺が国王として君臨(笑)していた世界を恐怖で支配しようとしたかつての魔王のステータスとまったく同じ数値となっていた。

 ただそれだけならまだマシだったのだが、最悪なことにキングゴブリンのスキルが全部備わっているし……。

 ステータスを見たことで、まだ戦ってもいないにも関わらず(つーか自己紹介あたりから無視されてるよバーロー)俺はかつて何度も何度も痛みに苦しみながら死んだ末に、不眠不休で一週間かけてやっと倒すことのできたトラウマ級の魔王戦が記憶の奥底から蘇り、内心涙目になり。

 

「もうヤダこの世界とかエンペラーゴブリンとかサダンさんとか……ミイナだけ連れて早くおうち帰りたい」


 と夏休みが終わった最初の登校日に宿題を一つもやっておらず先生に怒られて『明日までに全部終わらせて提出しろ、じゃないと終わるまで家に帰さないからな!』と言われ絶望した子供のように呟いた。

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