第二十三話 リア充の力

「化け物め。このっ! このっ!」


 必死に槍を振るうランサーゴブリンだが、動きを含めて地獄で殺され済みな攻撃なので俺にかすりもしない。それどころか汗で透けて揺れる胸元をじっくり観察する余裕まであった。それも不思議なことに指輪の呪いが発動しないのでもうガン見状態だ。

 そしてその嬉しい影響か、生まれて初めて地獄に落ちてよかったと思っている自分がいた。

 だからって殺されるたび地獄に落としてくれてありがとうなんて言わないんだから。か、勘違いしないでよね!

 一人で内心ツンデレしていると、じっと見ていた盾を持ったゴツいゴブリンがついに動いた。ゴツいゴブリンはこちらに歩き、ランサーゴブリンのすぐ後ろで止まり。


「ランサーゴブリン。我と交代しろ」


「いやよ。こんな無様なまま交代なんてできない」


 ランサーゴブリンが声だけで反対するが、ゴツいゴブリンはフッと笑いながら。


「無様なものか。お前は毎日よくやっている」


「え」


「今朝の味噌汁も美味しかったし、昼食べたサンドイッチも絶品だった。料理に家事全般できるお前を無様に思うやつがいたら、我が誰だろうとぶん殴ってやる」


「……あなたにそんなに褒められるなんて滅多にないから戦闘中だけど嬉しいな。ありがとう」


 俺に対する攻撃をやめ、女の顔になったランサーゴブリンはゴツいゴブリンへ体を向け頭を撫でられながら。


「今回は単に相手が悪かっただけだ。お前の代わりに我があの人間を殺してやるからおまえはそこで見ておれ」


「……うん。わかった。見てる」


 頬や耳を真っ赤にしながら潤った瞳でランサーゴブリンはゴツいゴブリンと唇を合わせて戦闘を交代した。

 コイツら四天王同士で付き合っているのか。それもこんなにラブラブなんて、俺なんか悪魔のような天使と無理矢理結婚されたってのにこの差はなんだ。ゴブリンのくせに羨ましすぎる。


「ランサーゴブリンに代わり、ここからは我『ガーディアンゴブリン』が相手をしよう」


 ガーディアンゴブリンと名乗るゴツいゴブリンが盾を構えた。その後ろではランサーゴブリンがアニメとかで先輩を応援する恋するマネージャーのように「頑張って」と声援を送っている。

 ゴブリンのくせにこんな可愛い彼女に応援されながら俺と戦うだと、ムカつく、マジでムカつくううううう!


 怒りの臨界点を超えた俺は聖剣を召喚し、羨ましすぎて血の涙を流しながら。


「うおおおリア充は死ね! 『シャイニング・スター・スラッシュ』」


 かつての世界で魔王、この世界でキングゴブリン、ナイトメアゴブリンの合体技を葬った必殺の一撃を開幕一発めからお見舞いした。


「ぬお、ぬううううううあああああっ――!」


 斬撃をまともにくらい、ガーディアンゴブリンが戦隊モノでやられた怪人のように爆発する。


「ガーくーーーーーん!」


 ランサーゴブリンが悲鳴を上げた。

 心がちと痛いがお前達がラブラブでさえなかったらこんなことにはならなかったんだ。俺はリア充のゴブリンを葬っただけだから悪くない。悪いのはお前達カップルの存在なんだ。

 俺は血の涙を拭き、戦争慣れした傭兵のように渋い顔でランサーゴブリンへと。


「去れ。そうすればお前の命は助けてやる」


「黙れ! ガーくんの仇!」


 ランサーゴブリンが涙を流しながら殺気全開で俺へと槍を向けた。

 やっぱりこうなるよな。相手はゴブリン四天王とはいえ可愛い女性だからなるべく殺したくないんだけどなぁ。


「ま、これも戦争。どうせ地獄でそのガーくんとやらに会えると思うし、殺しても問題ないか」


「何をぶつぶつと喋っている人間」


「なんでもない。ちょっと考え事してたけどまとまったから。くらえ『シャイニング・スター・スラッシュ』」


「なに!? きゃあああああ――!」


 斬撃がランサーゴブリンを飲み込み爆発した。

 これですぐ地獄でガーくんやバトルロイヤルにいた『ゼロ』とか名乗っていた槍を持ったゴブリンに会えるだろう。俺って優しい。


「さあて、こっちは終わったしミイナ達の戦闘でも見よっかな――」


「『ゴブリンシールドストライク』」


 ランサーゴブリンの爆発した場所から俺の必殺技と同じ斬撃が飛んできた。


「!? うおっおおおおおおお!」


 咄嗟に聖剣で受け止め、その勢いに押されるも、気合いでなんとか斬撃を押し込み消滅させる。


「はぁ危ねぇ。一体誰が攻撃をしたんだ」


「我だ」


 声のした方の煙が晴れる。

 するとそこには、爆発して死んだはずのランサーゴブリンを腕に抱いた、同じく死んだはずのガーディアンゴブリンがいた。


「しっかりしろ、ランサーゴブリン」


「ん……ガーくん!? 生きてたの」


「当たり前だ。我があの斬撃で死ぬはずがないだろう」


「ガーくん。ガーくーーん❤️」


 涙を流し抱き合って激しくキスしまくる二人のゴブリン。ここにベッドがあったら100%服を脱いでいただろう。だがそれより。


「なんで俺の必殺技を受けて生きてるんだ」


 悔しさと羨ましさと嫉妬心で再び血の涙を流しながらガーディアンゴブリンのステータスを見る。


 《ガーディアンゴブリン》(魔物)

 ATK 8500

 DEF 23000 《ゴブリン金剛盾》+15000

 SPD 5000

 MP  3000

《スキル》

 守護ゴブリンの加護。全属性ダメージ半減。状態異常半減。超回復。物理攻撃半減。魔法攻撃半減。。ミスリルボディ。守護のオーラLv30。

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 斬撃無効だとおおおおお!

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